不動産トピックス
【今週号の最終面特集】エレベーターで魅せる不動産の付加価値向上
2021.04.19 17:05
かご内でテナントや来館者に情報発信
物件の差別化を図っていくツールとしても
エレベーター広告のトレンドが変わるかもしれない。エレベーターホールへのデジタルサイネージの設置や、カゴ内でもタブレットサイズのモニターやサイネージを設置することが主流だ。そのなかで、最近急速に注目を集めているのが、エレベーター広告の「第3世代」と呼ばれるものだ。
中国マーケットが先行 日本で市場開拓進める
その先駆者となっているのがspacemotion(東京都千代田区)だ。
2019年11月に、三菱地所(東京都千代田区)と2017年に創業し「東京エレビGO」(エレベーターエントランスサイネージ)を運営する東京(東京都新宿区)の合弁会社として設立された。エレベーター内プロジェクション型メディア事業「エレシネマ」を展開している。導入物件数は公表していないが、デベロッパー・REIT法人が展開している都内の大型ビルや、中小ビルなどからも需要を得ている。
エレベーターカゴ内の広告展開は、国内ではまだまだ過渡期。そのなかで一部であるのがタブレットサイズのモニターやサイネージなどを設置して、広告販売しているケースだ。
代表取締役社長CEOの石井謙一郎氏は「このような事業では中国が先行している」と指摘する。中国では第1世代はポスターを設置していたが、第2世代ではタブレットサイズのモニターを設置して広告CMを流すという形になった。そして第3世代ででてきたのがプロジェクション型の広告媒体運営だ。
そのトップを走るのが中国の「分衆伝媒(Focus Media)」だ。中小企業や新興企業が多い中国本土の深センA株市場に上場していて、2019年にはアリババから22億米ドル(日本円で約2400億円)の資金調達を行っている。「中国での方法を業界構造が複雑である日本版にアレンジすることで、未成熟なエレベーター広告事業を拡大することが可能と考え、事業を展開していくことになりました」(石井氏)。
ビルの屋内など告知効果拡大 今後は他のアセットにも
「エレシネマ」はエレベーター内の扉を使って映像を映し出す。乗っている時間は1分にも満たないが、エレベーター内をちょっとした映画館(シネマ)に変身させる。
設置工事もオーナーに負担をかけるものではない。専用プロジェクターを設置し、エレベーターの扉に特殊なフィルムを貼る。そうすることで映像を鮮明に映し出すことができる。開閉時は映像をオフし、エレベーター運行時のみ映像を映し出す。
映像は1ロール6分。1分間はビル所有者や管理会社などが自社広告やテナント向けの館内告知などを出すことができる。告知などはブラウザ上で簡単にデータを入稿することができて、リアルタイムで映し出すことができる。設置費用は無料だ。
「これまで法定点検などのお知らせは各テナントの総務部に案内を送ったり、ビルの各所に案内を張り出したりしていましたが、テナント関係者の認知は薄いものでした。エレベーターカゴ内はスマートフォンなどを操作するにしても時間が短く、手持無沙汰な時間でした」(石井氏)
「エレシネマ」はそのスキマ時間を埋めるものとなろうとしている。設置者側からの情報発信としては案内以外にも、防災情報や新型コロナウイルス対策、SDGsの取り組み等、多岐に及んでいる。
広告出稿主からも好評を博している。これまでオフィスビルを中心に設置を進めていて、企業やビジネスマン向けにソリューションやサービスを展開している企業が積極的に出向しているという。
オフィスビルへのアプローチでエレベーター広告市場を切り開いてきたspacemotion。今後はマンションや商業施設など、他のアセットへの展開も目指していく方針だ。
エレベーター広告設置 利用者は驚き見入る
spacemotionが展開する「エレシネマ」。導入した物件を所有する企業はその効果をどのように測っているか。
フロンティアハウス(横浜市神奈川区)は2月より、JR京浜東北・根岸線「東神奈川」駅から徒歩2分、京急本線「京急東神奈川」駅から徒歩1分の場所にある所有ビル「FHレガーレ」で「エレシネマ」を導入した。
同社は神奈川県内を中心に投資用マンション・アパートなどの開発・販売・管理などを手掛けている。不動産テックサービスを事業に活用することにも前向きで、代表取締役の佐藤勝彦氏が先頭に立って戦略立案を進めている。
spacemotionとの出会いはある展示会でのことだった。コミュニケーションデザイン部の古谷幸治部長は次のように話す。
「当社が現在開発しております『(仮称)千代田区神田淡路町二丁目プロジェクト』は首都圏で初めて手掛ける店舗・事務所ビルとなります。今後投資家向けに販売していくにあたって、他の物件と差別化していくための新しい付加価値となりうるサービスや商品がないかと考えていました。そこで注目したのが『エレシネマ』でした」。
千代田区神田淡路町での開発計画は竣工が来年4月を予定しているが、実証実験も兼ねて「FHレガーレ」に先行して導入することになった。
「FHレガーレ」では一部フロアをテナントに貸し出すが、多くのフロアを自社オフィスとして活用している。通常のテナントビルと比較して社外の利用者は少ないが、「驚いて見入った」と同社社員に話しかけてきた人もいるという。
都内への事業展開控え差別化進めるDX検討
このような不動産テックの導入など、DXを進める背景はどういったものだろうか。これからの不動産業としてのあり方はもちろんだが、同社としての事業展開の展望も絡んでいそうだ。古谷氏はこう語る。
「これまで県内を中心に展開してきましたが、神田淡路町での開発を先例にして都内でも事業展開を進めていきたいと考えています。そのなかで他社の物件と差別化することは、物件を販売していくうえでは欠かせないポイントです。そのひとつの方法がDXであり、今回の導入もその一手だと考えています」。
中長期的には「エレシネマ」を同社で開発・販売するレジデンス物件にも導入していきたい考えだ。特に自社で開発する投資用物件は年収400~500万円台のサラリーマン層を対象にしたものも多い。最近では住宅ローンで購入することが可能な賃貸併用住宅「アパルトレジデンス」も手掛ける。家賃収入で返済計画が立てられる商品だ。
「住まわれる方もサラリーマン層。当社の商品との親和性も高いと思います。本業につながるような活用の仕方を考えていきたい」(古谷氏)
新しい価値を持つ不動産として注目を集めそうだ。
コストゼロの物件の付加価値向上
spacemotion 代表取締役社長CEO 石井謙一郎氏
「エレシネマ」はオーナーにとってコストゼロで設置することができて、それを活用して自社の取り組みや商品の宣伝などを行えることが可能であるため、多くのオーナーや管理会社様から評価を得てきました。これまでに大手デベロッパーのビルはもとより、中堅の不動産会社、また中小ビルオーナーからも引き合いを頂いています。エリアについても都内中心でしたが、タイミングを見て地方中核都市・海外にも展開を進めていきたいと考えています。自社の宣伝や広告以外にも、ニュースや鉄道情報、天気予報などを放映しています。入居者に様々な情報を伝えられるという面からも物件価値向上に寄与できると考えています。
菊名駅前物件では物件壁面にデジタル看板設置
フロンティアハウス コミュニケーションデザイン部 古谷幸治郎氏
当社ではJR横浜線「菊名」駅ホーム真正面に立地しています開発物件の壁面に、デジタル看板を設置しています。この案件では交通広告の老舗である春光社(東京都中央区)とタッグを組んで、15秒CМを販売しております。「エレシネマ」とともに、当社のPR情報の発信はもとより地域情報などの発信、また方法次第では収益化などにも結び付けていくことができると考えています。