不動産トピックス

【今週号の最終面特集】個室・ブース戦国時代

2021.05.31 11:00

家庭・オフィスからの需要増 テレワークの普及で参入企業も続々
 リモートワークやWeb会議のニーズから、様々な個室ワークブースが提案されている。単純な作業スペースに終始せず、各社それぞれの事業ノウハウを生かした特徴的なものが注目を集めている。

木製の「ECO」ブース開発 ブース解体後の木材再利用も可能
 システム開発等を手掛けるバルテック(東京都新宿区)は木製の個室ワークブース「EDOブース」を開発。昨年12月より提供を進めている。
 開発の経緯をデジタルマーケティング企画室マネージャーの森本拓志氏は、「昨年の新型コロナ禍で、個室ブースが流行ることを想定しました。当社は木製家具の製造・販売を手掛けてきて、手前味噌になりますが、4年程前に開発したL字型の『ブーメランデスク』はお陰様でヒット商品となりました。こういった木材加工製品の製造ノウハウを有していたので、特異な木材を売りにした個室ブースの製造に至りました」と話す。 
 「EDOブース」は格子の引き戸が目を引く和風のデザインが特徴的だ。この「EDOブース」には木製ならではの活用方法がある。「事務所移転などで個室ブースを手放す際には廃棄するのではなく、ブースの木材を再利用してデスクなどの木製家具に加工することも可能です。こういった観点から、環境にやさしい個室ブースであるともいえます」。
 もう一点の特長としてスマートロックとの連動が挙げられる。他社の提供する個室ブースの中にもスマートロックと連動しているものはあるが、「EDOブース」の場合、自社製のスマートロックを採用している点がポイント。予約した際にQRコードが発行され、ブース脇に設置されているスマホ端末にかざすと開錠する仕組み。入退出管理システムにより利用時間の管理が可能となり、超過時間の課金システムとも連携できることも強みだ。
 今後について森本氏は、「例えば、個室ブースを誰が利用しているのかほかの社員と共有できるチャット等、ソフト面でいろいろと展開していけるのではないかと思います。また当社の展開するIT向けサービスを生かし、コワーキングスペース向けのサービスとして、エントランスから予約ブースのQRコード開錠まで一貫してできるようなシステムも考えています」とした。

「CONBOX」展開 「調音材」仕様で静寂な環境を提供
 コロナ前から手掛けてきたのがオフィス家具の製造販売を営む東京鋼鐵工業(東京都北区)だ。同社は個室ワークブース「CONBOX(一人用、二人用、四人用)」を提供。一人用ワークスペースの需要に先駆けるように、「音」に配慮した個室ブースは順調に導入数を伸ばしている。
 取締役の朝吹氏は「弊社ではもとより家具の企画・開発を手掛けており、欧米で開催される展示会を50年以上視察しています。欧米では10年程前より個室ワークブースの展示がされていました。当時の日本では皆無に等しい製品で、どのように使うのか想像もつきませんでした。ですがWeb会議などで使うということに気づき、『日本でもし今後、自由な働き方が浸透したら音の課題を抱える方が増えるだろう』と考え開発を進めていました」と振り返る。
 この予想は的中。現在では毎週数社が体感にきている。新型コロナが後押しした形だが、支持される最大の理由はブース内の「音」にある。「CONBOX」には同社の特許である調音素材「AURAL SONIC」を使用。「AURAL SONIC」は壁面に貼り付けるだけで、聴き取りを改善し会話が抜群にしやすくなる特長を持ち、会議室やコールセンターのオフィス等からの人気が高い製品だ。
 「吸音」に対し「調音」とは何か。「いわゆる『吸音材』と呼ばれるものは、特定の周波数帯における100%の吸音率を目指したもの。一方の『調音材』、吸音率は70%と高くはありません。それは反射する音の質に着目して開発しているからで、実際に反射した音を調べると母音の周波数に該当するエビデンスが得られました。また特許の構造により、幅広い周波数帯を吸音することができます。この特長を活かし、余計な音を吸音し、小さな声でも相手にはっきりと届けられるのが『調音材AURAL SONIC』の特長です」(朝吹氏)。
 天井を付属しないいわゆる「半個室」のタイプなので、余計な付帯設備が不要で、比較的安価に導入ができる。また天井がないにもかかわらず外の雑音が気にならない点も魅力。「CONBOX」は、会議・商談先での「時間」を大切にする企業や静かな環境を求めるワーカーにはうってつけといえよう。

「Phone Box」新発売 家具販売と空間づくりのプロがタッグ
 今やトレンドとなっている個室ワークブース。新規参入の動きも止まない。空間プロデュース等を手掛けるYADOKARI(横浜市中区)と家具の販売業を営むVIDA(東京都港区)は、今月20日より「Phone Box」の先行販売を首都圏向けに開始した。
 VIDAの代表取締役の牧原豊氏は「海外では個室ブースが浸透していると聞いていました。新型コロナ禍以降は国内でも、個室ブースが続々登場。この流れも後押ししてYADOKARI様が個室ブース事業を構想する中で、家具づくりのノウハウを有するVIDAも開発に携わることになりました」と話す。
 「Phone Box」は高い防音性能を持つ。最大約35dBの騒音を低減でき、ブース内で大声で通話していても、ブースから1m離れるだけで会話の内容が聞き取れない程度の防音性能となる。
 家具メーカーのノウハウを最大限に発揮したデザイン性を担保した造りが特長的な「Phone Box」。安価なコストの実現や設置サポートなど、導入先にとってありがたい機能も整えている。
 「『Phone Box』は天板のある完全個室タイプですが、完全個室にする場合、煙探知機や火災報知機の設定など消防法で決められた機器の設置義務があります。『Phone Box』を導入していただく際に、クライアント様の負担を少しでも軽減できるように、消防機器の導入サポート体系を整えていることも強みです」。
 リリース開始直後から、反響は上々。コワーキングスペースや設計事務所等一部オフィスにはすでに導入済みだ。製品スペックに対し安価な上、消防機器の設置を別途費用にて併せて行える点が好評を得ているという。


大阪のレンタルオフィスで導入中
バルテック 広報室 安島三恵氏
 昨年末にリリースし、問い合わせはコンスタントに増えています。コワーキングスペースなどの施設への導入と、自社オフィスへの導入ニーズが多い印象です。現在は当社のグループ会社であるビジネスエージェント(東京都新宿区)が大阪・本町で運営するBAレンタルオフィス本町にて1台常設しています。BAレンタルオフィス本町は、『EDOブース』のショールーム的な役割も担っています。実際に利用された会員様からはご好評で、コンスタントに利用して頂いています。また、木製のため防音が完ぺきではない旨を会員様にあらかじめ説明しておりますが、実際に使用された方々からは、防音に関してもネガティブな印象はないとも言っていただけています。

Web会議で音の違いを実感
東京鋼鐵工業 取締役 朝吹英介氏
 Web会議のニーズにより、主にオフィスからの引き合いが多いです。他社様の製品と比較した上で、気に入って頂ける点はやはり「音」にあります。ひそひそ話程度の小声でも相手に届き、外からの音は気にならない。Web会議の普及により新たなマーケットが生まれているという実感があります。今後はオフィスにとどまらず、教育の現場など、音の課題が表面化しているお客様にご案内をしていき、より良い社会に貢献するように努めていきます。

オフィス空間のプロデュースまで一貫
VIDA 代表取締役 牧原豊氏
 当社の委託するOEMの工場で製造しているため、低コストを実現できました。また注文いただいてから納品までの期間を最短1週間と、スピーディな対応も心掛けています。今後は、フォンブース以外にも利用者様によって求めるデスクの高さやサイズなどが異なると思いますので、そういったオーダーメード対応ができるデスクもご用意し、オフィス空間全体を提供できる点を強みにしたいと考えています。また、個人宅への導入とオフィスへの導入のどちらも促進していきたいです。オフィスへの導入の際には、今までオフィス家具の提供を続けてきた私たちの持つノウハウを生かし、執務空間内のレイアウトも含めて一貫したご提案をすることもできます。個人宅への導入やオフィスの縮小移転のニーズを汲み、よりコンパクトな個室ブースもリリースしていく予定です。




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