不動産トピックス
【今週号の最終面特集】コロナ禍の商業ビル経営 回復への道筋は
2021.06.21 11:58
飲食撤退後の空室をシェアオフィスに 平均稼働率60%で収益性アップを見込む
感染予防対策は入念に 夏以降に集客活動開始
東京・大阪などで発令されていた緊急事態宣言は、沖縄県を除いて今月20日に解除。7都道府県では宣言の解除後も、まん延防止等重点措置が取られることが決定している。これにより飲食店では酒類提供の解禁といった緩和措置が取られる見通しであるが、営業時間の短縮や営業自粛など、飲食店に対する規制は東京では断続的に半年以上も実施されている状況。こうした店舗が主なテナント層となる商業ビルもまた、テナントの撤退や賃料の減額など厳しい状況に置かれている。商業ビルを所有・経営するオーナーにコロナ禍における現状の課題と、それを克服するための道筋を聞く。
宣言解除後も短要請続く 依然厳しい飲食業界
現在、各自治体では感染防止対策を徹底する飲食店に対する第三者認証制度の導入が進行している。既に規制緩和を待たずして通常営業・酒類提供に踏み切る店舗も存在するが、運営側のブランドイメージを損ねるリスクが非常に高いことから、多くの店舗は営業時間短縮等の指導に従う状況が続いている。
JR「横浜」駅前の繁華街・南幸エリアに商業ビルを所有するトミタケ商店(横浜市西区)の富武直慈社長は、コロナ禍に伴う入居テナントの営業状況について次のように話す。
「当社の『トミタケビル』には居酒屋やファストフード店を中心に、空中階の一部は物販店舗もこれまで入居してきました。昨年の夏、契約の更新時期にあった飲食店から賃料の減額要請がありました。また、4店舗あった入居テナントうち2店舗は昨年末までに退去となりました。横浜市では『まん延防止等重点措置』が適用されていることから、酒類の提供が中心の居酒屋は現在営業を休止しています。6月に入り徐々に人通りが戻り始めていることから、居酒屋を除く飲食店の日中の売上は従前の8割程度まで回復しているようです」
「トミタケビル」でテナントが撤退した2フロアについて、同氏はこれまで通りの募集賃料でテナントリーシングを行っているとのこと。その一方で、新たなスペースの活用法も検討を進めているという。
「共通の知人を通じて『トミタケビル』をご紹介頂き、今年3月から経営コンサルティング業務を請け負っています。空室となった2フロアのうち2階は路上から視認性も良く、飲食以外の業態でも運用が十分に可能だと感じました。昨年から在宅勤務やリモートワークが推奨されるようになり、都内にお勤めの方々が自宅周辺や近隣の大きな都市である横浜で働く場を探すようになりました。南幸エリアは繁華街で人通りは以前から多く、地元での認知度は非常に高いため、シェアオフィスとしての運用をオーナー側に提案しました」
こう話すのは、不動産の経営コンサルティングを行うCROSS(東京都新宿区)の広田勝氏である。同氏は税務会計事務所の代表社員を務める会計士でもあり、不動産の経営から税務サポートまで、不動産オーナーの支援業務を幅広く手掛けている。オフィスや自宅以外の、第三の働く場に対するニーズは非常に高い。一方でシェアオフィスは室内の座席を利用者であれば自由に利用できるというのが一般的。利用後の座席の除菌作業など、直近の情勢を反映した利用者側のニーズにも応えなければならない。
現在、広田氏と富武氏はシェアオフィスを開設する場合の内装デザインや工事費用、開業後の運営スタッフの確保、感染予防対策について検討を重ねている。富武氏は「管理会社を通じて地元の工務店を紹介してもらい、8月下旬から9月中旬にかけての工事スケジュールを組みました。10月1日のオープンを目指して運営スタッフの確保やホームページの作成といった準備を進めており、感染予防対策については座席配置の間隔を空ける、非接触タイプのディスペンサーの設置、一定時間でのスタッフによる清掃作業を行う予定です」と話す。
気になるのは収益性である。ソーシャルディスタンスを意識した座席配置を取った場合、本来設置可能な座席数より減少することは確実で、その分だけ1時間あたりの利用者および収入が減少することを意味する。従来通り飲食店に賃貸した場合の月あたりの賃料収入を下回ってしまっては本末転倒だ。
広田氏は「周辺のシェアオフィスの相場を参考しながら料金設定を検討していますが、競合施設との料金の差が大きく開いてしまうと客足が遠のいてしまいます。そこで、会員以外のビジター料金は相場より少し高めの設定とし、会員向けには横浜市民や通勤定期券の保有者を対象に割引を設ける予定です。坪あたりの座席数は一般的な飲食店に比べそん色なく、営業時間中平均60%の稼働で収入は飲食店入居時の賃料を超える計算です」と話す。開業に向けてホームページやSNS等での告知活動を積極的に展開する予定で、開業半年後の来年4月時点で平均稼働率60%以上を目指すという。 中野・高円寺・阿佐ヶ谷といったJR中央線沿線の物件情報を豊富に有するフォーレスト(東京都杉並区)の篠田敬一氏も、コロナ禍によって苦戦する商業ビルの状況を肌で感じるという。
「飲食店は事務所に比べ入れ替わりが激しい反面、賃料設定を柔軟に変更しやすい特性がありました。しかし新型コロナの感染拡大によって飲食店の出店需要が下火になり、商業ビルでは募集賃料の据え置きが精一杯という状況で、値上げして募集できる状況ではありません」(篠田氏) テイクアウトへの対応など、飲食店では様々な工夫が取られているが、篠田氏は管理物件に入居する飲食店を対象に交流会を開催し、互いの経営アイディアの共有を促している。参加するのは異なるジャンルの飲食店で、居酒屋や中華料理店、定食屋などの経営者または従業員同士で、集客や売上維持のためのアイディアを持ち寄る場を企画している。篠田氏は「営業スタイルが異なる飲食店が集まることで、多様な案が生まれます。従業員のオペレーションや調理法といった、売上以外の面でも互いの知見を共有することに役立っています」と述べている。
居心地の良い空間を目指す
トミタケ商店 代表取締役 富武直慈氏
過去に飲食店の従業員が使用する事務所としてテナントが入居した経験がありますが、シェアオフィスがテナントとして入居したことはなく、今回のように自社でシェアオフィスを運営することも初めての経験です。感染予防対策はもちろんのこと、利用者が長時間でも快適に作業できるよう、机や椅子といった家具類にもこだわり、口コミで利用者のネットワークを広げていきたいと考えています。
リピーター増やす仕掛けを検討中
CROSS 代表取締役 広田勝氏
「横浜」駅周辺のシェアオフィスやコワーキングスペースはこの1年で数を伸ばしていることから、オフィスや自宅以外で仕事ができる場所を求める利用者の需要の高さが見て取れます。また、リピーターを増やすためには場を提供するだけでなく、情報交流や事業機会の場を用意する必要があると感じます。利用者向けのサービスについて現在検討中です。
経営者間のノウハウ共有は必須に
フォーレスト 代表取締役 篠田敬一氏
駅周辺には商業店舗が集積しますが、通勤・通学の機会が減り、外出自粛が推奨されたことから来店型の飲食店は大きな打撃を受けています。テイクアウトやデリバリーに対応できる店舗はまだしも、その対応が難しい酒類中心のバーなどは、そもそも営業自体が困難です。その中でどのように営業し、収益を上げるか、飲食店経営者同士のノウハウの共有はこれまで以上に必要であると思います。