不動産トピックス

【今週号の最終面特集】ビル再生のポイント

2021.07.05 11:40

エリアニーズ押さえたリーシング必須 シェアする施設づくりもトレンドに

 ビルの再生・活用をどのように行っていくかはビル業界での変わらぬテーマ。コロナ禍という環境にあっては規模の大小を問わずに、テナントの業績不振やワークスタイルなどの変化によって退去、その後のリーシングも苦戦するというケースは多い。そのようなリスクに対処していく再生・活用への注目度が高まっている。


京都駅近くの3階建てビル リーシングを吟味して再生
 「どう活用していいか分からない」、「何も特徴がない」…。そのような不動産の再生を得意としているのがアッドスパイス(京都市上京区)だ。
 同社は2014年に代表取締役の岸本千佳氏が創業。同氏は不動産再生に強みを持つRバンク(東京都目黒区)にて不動産の仕入れから企画・運営、リーシングまでの業務を経験。現在の基礎を作り、自ら事業を興した。これまでにビルやアパート、工場など様々な不動産を再生に導いてきた。
 昨年には京都御所近く、京都市営地下鉄「今出川」駅から徒歩7分ほどの場所に立地する空ビルを購入。「アッドスパイスビル」と命名。購入から半年が経過した現在、自社も利用しながらテナント部分は満室での稼働となっている。
 同ビルはある地元企業が保有し、自社オフィスとして使用していた。この企業が縮小に伴う移転で、ビルの売却を検討。それをアッドスパイスが購入したのが経緯だ。
 岸本氏はビルについて「3階建て、旧耐震というスペックで、外観も新しくもなく古くもなく、ビルとしては特徴が少ない物件です。ただ、向かいの神宮の緑の借景に目をひかれ、購入を決めました」と購入前の心境を振り返る。
 このような物件は一般的には「運用が難しいビル」になるかもしれない。しかし岸本氏はこれまでの実績を生かして、ビルのバリューアップを実現した。
 「『アッドスパイスビル』でポイントとしたのは、どのように魅せていくか、どのようなテナントをターゲットとしていくかでした。魅せ方については、コストのかかるリノベーションをするのではなく、ポイントを絞って改装・リノベーションを施したり、屋上の柵の部分にカーテンをつけるなどして、イメージ向上を行いました。リーシングについてはエリアの特性を意識しました」
 このエリアは商業店舗や住宅が混在するエリアとなっている。店舗テナントは全国的なチェーンではなく、こだわりのある商品を提供している個人や中小規模の店舗が多い。そこで同ビルでもリーシングにこだわった。
 「1階にはこれまで百貨店催事を中心としてきたパンとマフィンのお店、2階には雑貨屋と整体院、そして3階には社会デザイン研究者の三浦展氏の蔵書に囲まれた貸し図書室の『展文庫』と弊社事務所という構成になっています。それぞれがこだわりのある店舗を誘致できたことで、エリアとも親和的なビルになったと思います」(岸本氏)

商業施設にシェアオフィス コロナ禍の今求められる施設
 実際にエリア内の他の店舗からの紹介で来訪する人も多い。エリアの商圏にマッチしたテナント誘致。アッドスパイスの不動産再生ではポイントになっているようだ。
 2014年に創業し、「働き方をもっと効率的に、もっと創造的に、もっと刺激的に、そしてスタイリッシュに変えていく」をコンセプトに、サービス付きレンタルオフィス及びシェアオフィスを運営するSYNTH(シンス、大阪市北区)は、大阪中心部の堂島や北浜で直営店を運営。そのほか、三重県四日市市の「近鉄四日市」駅前に所在する大型百貨店「近鉄百貨店四日市店」のリニューアルに合わせ、「SYNTHビジネスセンター近鉄四日市」を開設している。
 「近鉄百貨店四日市店」周辺の商圏人口は約60万人で、半径10km以内の人口は約18万人にのぼる。駅前という恵まれたロケーションということもあり、長く地域に親しまれている店舗であるが、近年は競合となる大型商業施設の誕生やインターネットショッピングによる消費者側の商習慣の変化など、店舗を取り巻く状況は大きく変わろうとしていた。そこで同店舗では百貨店ゾーンを圧縮して品揃えの見直しを実施。その上で専門店やサービスゾーンを1万4000㎡に拡大して、従来の顧客層だけではなく新たな集客を目指している。
 スーパーマーケットなど日常生活に密着した専門店が顔をそろえる中で、一際異彩を放つ存在となるのがレンタルオフィス「SYNTH」である。床面積が約250坪。1名用から3名用までの個室を合計22室設け、そのほかには会議室やラウンジスペースが設けられている。代表取締役社長の田井秀清氏は「これまでレンタルオフィスといえばオフィスビルの中に設けるのが一般的で、それ以外では空港や駅施設といった空き時間を活用して利用できるロケーションに設けられる例がありました。当施設は商業施設の中で営業するレンタルオフィスの先駆的存在です。百貨店といえば、その街の顔であり、地域に暮らす住民の方々にとってのコミュニティを生み出す場です。そこにレンタルオフィスというビジネスを生み出す場の設置は親和性が高いものと考えており、今回の四日市での事例をモデルケースとして今後ほかの商業施設でもレンタルオフィス設置の可能性について模索していきたいと思います」と話す。
 また直近では、東急不動産(東京都渋谷区)との共同事業として初となる店舗「シンス×ビジネスエアポート西梅田ブリーゼタワー」を、大阪市北区梅田の「ブリーゼタワー」1・2階にて9月上旬に開業する。
 同社は会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート」を運営する東急不動産と2017年より提携を行っており、両会員は施設の相互利用が可能で、出張先の都市となることが多い東京・大阪で上質なオフィス環境を提供してきた。今回両社のサービスを取り入れた店舗を開業することで、会員のさらなる利便性向上を目指す。
 同施設は30室のサービスオフィス、ビジネスラウンジ、ミーティングルームなどで構成され、延床面積は901・96㎡。1階の内装は「Botanical」をコンセプトとし、自然を切り取ったような都市のオアシスをイメージしている。商業施設の路面区画特有の天井高を利用した、広々とした空間で利用者がリラックスして働くことのできる環境を提供する。また、施設内にはカフェを併設しており、仕事の合間のリフレッシュや来客への対応の場として利用が可能となっている。
 今回のコロナ禍は人々の生活様式だけでなく、働く人の行動変容も起こすこととなった。多様な属性の人が働く場としてのシェアオフィスの整備は、人々の交流を促し、新しいビジネスを生み出す不動産再生の一つのアイディアともいえるだろう。


ビル再生サービスも展開
グッドスパイス 代表取締役 岸本千佳氏
 昨年、空ビルで購入した「アッドスパイスビル」は物件の再生やテナントリーシングを終えて、現在は満室での稼働となっています。築年数が経過している中小ビルや、今回のような旧自社ビルなどではテナントをつけることができずに、未稼働となっている物件も多くあります。当社では6月より「アッドスパイスビル」の実績などを生かして、関西エリアの中心市街地を対象に古いビルを丸ごと再生する「古ビル刷新」というサービスをスタートさせました。それぞれの中小ビルにマッチした方法で、建物と街の価値を高めていきたいと考えています。




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