不動産トピックス

【今週号の最終面特集】エリアの活性化につなげる ビルオーナーの起業家支援

2021.08.03 11:33

ユニコーンを排出するビルへ 専門家も参加し知見・ノウハウ提供

 中小ビルオーナーが起業支援に乗り出している。コロナ禍のなかで社会が変革期を迎えてオーナーも今後に強い危機感を抱く。そのなかで、テナントの「パートナー」となることでビル経営に未来を見出そうとしている。

湘南で起業の場を提供「U-Port」オープン
 藤沢エリアで複数のオフィスビルを所有する相澤土地(神奈川県藤沢市)と、グループ企業のundone(神奈川県藤沢市)がインキュベーション機能を持つシェアオフィス「U―Port Shonan(ユーポート湘南)」をオープンさせた。
 場所は「辻堂」駅北口徒歩4分の場所に立地するオフィスビル「アイクロス湘南」の5階。所有者は相澤土地。同社取締役の相澤利春氏が昨年7月に、ビルのソフト面での価値創出の支援を目的として、undoneを設立。代表取締役CEOを務める。ビル1階にDXカフェ「cafe Ideal」をオープンさせたのに続く取り組みとなった。
 相澤氏は今回の取り組みについて「辻堂エリアだけでなく、藤沢市全体に起業家を育んでいくための施設が少なく、インフラを整えたいと思いました」と語る。市内には4つの大学のキャンパスがあるのをはじめとして文教機関が数多くある。起業志望の学生も多いが、エリア内にそのような場所が少ないことから都内に流出することもあるようだ。
 ただ昨年から続くコロナ禍によって生じたライフスタイルやワークスタイルの変化は、働くことや起業する「場所」について、「必ずしも都心である必要はない」という考え方を定着させている。同氏もそこに着目した。

起業家・投資家・メンター交流やシナジーを生む場に
 「U―port Shonan」には「U―Portインキュベーションスペース」と「U―Portコワーキングスペース」の2つの機能がある。「インキュベーションスペース」は80坪超の区画を活用し、14の個室オフィスとフリーデスクが用意されている。起業を準備している段階から、起業早期のメンバーを対象とする。個室では集中して執務することができ、フリーデスクエリアでは様々な起業家や投資家との出会いや、資金調達や法律、税制面などでの相談に応じるメンターとの面談など、コミュニケーションを中心としたスペースとなる。ここでは「インキュベーションスペース」利用者が執務や会議などで利用することを見込んでいるほかに、ニューノーマルのなかで定着したテレワーカーが働く場所としても想定している。双方の利用者が交流することも見込んでいて「様々なコミュニケーションからビジネスのアイデアが生まれることで、イノベーションにつなげていくことができる」(相澤氏)と期待を寄せる。
 また地元の関係する団体とも協力していく予定だ。そのなかには、神奈川県や藤沢市といった行政や、慶應義塾大学などの教育機関とも連携をとっていく。現在20代前後の「Z世代」や、起業を志す多くの人たちに門戸を開放していく。

エリア内で様々な挑戦 支援できる基盤づくり
 この「U―port Shonan」について相澤氏とともに構想したのが、山田将太郎氏。前職ではITメガベンチャー企業に所属し、同社の湘南支社設立を主導。「アイクロス湘南」への入居をきっかけに相澤氏とも交流を深めて、昨年の「cafe Ideal」の取り組みでも一役を担った。
 DXカフェ「Ideal」から今回のインキュベーション型シェアオフィス「U―Port Shonan」、そしてeスポーツの事業も行っている。これらの取り組みをつなげるのが「地域に様々な選択肢を提供していきたい」という思いだ。
 「湘南エリアで住んだり働いたり、起業を考えている人たちに、私たちは事業を通して様々な選択肢を提供していきたいと考えています。それが起業家を支援するインフラや、DX体験ができる場、あるいはeスポーツに参加する機会などです。コロナ禍のなかで湘南エリアへの移住者も増えていて、またテレワークが定着したことでエリア内にワークスペースを求める声も強まっています。このような需要に応えていくことでビル、そして地域の活性化につながっていくと考えています」(山田氏)
 「ビルのソフト価値の創出」を掲げて立ち上がったundone。数々の取り組みはビルを超えて、地域やエリア全体へとその効果を波及させていきそうだ。

ニューノーマル経営者支援 不動産の新たな価値づくり
 高木ビル(東京都港区)が不動産の新たな価値づくりをスタートさせる。コミュニティブランド「BIRTH」において、ビジョンから事業造まで一貫して学び続けられる「BIRTH ACADEMIA(バースアカデミア)」を9月1日より始動する。「コロナ禍だからこそチャレンジする人」に伴走し、ポストコロナを見据えて新しい時代を創造する経営者とともに成長していくことを目指す。
 同社が「BIRTH」をスタートさせたのが2017年だ。ベンチャー企業がオフィスビルに入居する際に必要な敷金を半額以下に抑えることができる「次世代型出世ビル」や、成長型フリーワーキングオフィス「BIRTH」の運営を行ってきた。これまでに「BIRTH LAB」やフリーワーキングオフィス「BIRTH KANDA」などを展開させてきた。
 「BIRTH」の始まりは2017年10月の「BIRTH KANDA」からだった。代表取締役社長の高木秀邦氏は「『神田高木ビル』は2016年末に購入したものですが、最上階に前オーナーの住居がありました。リーシングするにも難しく、この住居の活用の検討を進めていました」と話す。もう一つの背景がある。それが東日本大震災の時だった。「当時日本経済が一時的に悪化したことで、リーシングが非常に苦戦した経験がありました」(高木氏)。仲介会社を主体とした「待ちの姿勢」の限界を感じたことも「BIRTH」に走り出した要因となった。
 経営面でも成功させた。従来のテナントに貸し出す賃料収入と比べて2~3割ほど向上させることができている。またワンフロアワンテナントと異なって、リスク分散にも成功している。
 高木氏は「不動産経営で得られるメリットよりも大きいものがあります」と話す。これまで多くのベンチャー企業や起業家達と「伴走」できたことで「彼らの真のニーズや想いを知ることができた」と言う。「これは我々が在るべき価値を創る意味で大きな財産になっている」と続ける。
 高木氏は「不動産は様々なものが生まれていく場であり、そのような意味も込めて『BIRTH』と名付けています」と明かす。だからこそ、今後も不動産と様々な業種業態との「はしごがけを行っていきたい」と話した。

専門家集い起業家と伴走 中小貴的な経営支援も
 そのなかで9月1日から始まる「BIRTH ACADEMIA」。ここでは具体的にどのような活動がなされていくか。「BIRTH ACADEMIA」CAO(チーフ・アカデミア・オフィサー)で、法人向けのプロデュース事業を展開するネームレス(東京港区)代表取締役プロデューサーの金田隼人氏は「起業家や設立間もないベンチャー企業の成長フェーズに合わせられるように、『起業前・起業直後』、『チーム化』、『組織化』といった3つのプランをご用意しています」と話す。これに加えて、金田氏や茂呂公一プロデューサー、前田徹也ゼネラルディレクター、高木秀邦統括プロデューサーの4名がメンターとして、個々の起業家に助言・アドバイスを行っていく。それぞれがプロフェッショナルであり、起業家の「伴走」役を果たしていく。
 ユニークな受講システムも整えている。通常、プログラムを受けるには月額1万円からとなるが、それに加えて「インカム・シェア・アグリーメンツ」という米国のプログラミングスクールである契約モデルを応用する。具体的には「BIRTH ACADEMIA」から出資も含めた中長期的な経営支援に対して、起業家やベンチャー企業は将来の事業利益からその一部を支払う仕組みだ。金田氏は「営業方法の助言や資金調達など実務的な支援など、深く企業内部に入って伴走していくことができる」と期待する。
 プログラム内ではたとえば金田氏が開発した、事業開発プロデューサー教育メソッドの「プロデュースシンキング」など、各メンターの専門的な知見もフルに生かしていく。
 ゴールを設定しておらず、「卒業」の規定も設けない。それぞれの企業の成長段階やその時々の課題に合わせてプログラムを提供していくことになる。


中長期的には複数施設展開も
undone 代表取締役CEO 相澤利春氏
undone COO 山田将太郎氏
 今回開設する「U―Port Shonan」ではインキュベーション機能を持ったシェアオフィスとして運営していきます。入居者募集も行っておりまして、既に多くの方々から問い合わせをいただいております。これから培っていくノウハウなどを基にして、他のビルにおいても施設を展開していきたいと考えています。湘南エリアにおける様々な挑戦を支援できる基盤を作っていくことで、街の価値創出にも寄与していきたいと考えています。




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