不動産トピックス

【今週号の最終面記事】広がるオフィス選択

2021.09.06 11:22

選ばれるフレキシブルオフィス
 働き方の多様化でフレキシブルオフィスも急拡大。雇用主は労働者に「働きやすい良好な職場環境」を提供する義務があるが、フレキシブルオフィスは究極の「働きやすいオフィス」を次々に生み出している。最新のフレキシブルオフィス事情を探る。

プラットフォームでデータ分析サービスへ
 働く場所を選ぶことのできる時代、シェアオフィスやコワーキングプレイスなどのフレキシブルオフィスはただ空間を提供するだけではなく、様々な付加価値で働きやすさを追求している。
 全国のフレキシブルオフィスのプラットフォーム「JUST FIT OFFICE」を運営するユースラッシュ(東京都渋谷区)では、掲載する700件以上のシェアオフィスやコワーキングプレイスの様々なデータを蓄積している。それらのデータをスコアリングし、昨年より「オフィスアワード」として評価の高いフレキシブルオフィスを選出している。代表取締役の内山裕規氏は、「フレキシブルオフィスのサービスは多様化しておりますが、我々のプラットフォームのデータで分析できます。評価をさせて頂き発表することで、ユーザーがオフィスを選びやすくなるのではないかと思います」と背景を語る。 
 「フレキシブルオフィス業界はコロナ禍で大きな動きがありました。コロナ禍前まではオフィスの空室は少なく、『空いていないから拡張移転先はシェアオフィスで』という動きでした。現在は、既存の固定オフィス賃貸借期限が来たのでシェアオフィスへ移転というケースのほか、オフィスを拡張する場合でもシェアオフィスを選択する企業も少しずつ増えています。今年の3月、4月は問い合わせも非常に多くいただいていました。ビルオーナー側からの相談も多いですね」(内山氏) フレキシブルオフィスを探す場合、場所や面積、会議室の有無などの条件から選択することが多いだろうか。「JUST FIT OFFICE」ではコンシェルジュサービスもあり、更に詳細な条件まで相談することができる。「コンシェルジュサービスをすることによりお客様の要望のほか、オーナー側ともコミュニケーションがあります。定量的なスペックの情報だけでなく、ラウンジにはハイエンドな什器が揃っており、来客に対して格式の高さを演出できるといったアドバイスもさせて頂いたり多様な詳細情報も蓄積されています」(内山氏)
 使用目的に合わせ、まさに「フィット」するオフィスを選ぶことのできる時代だ。

ビル1棟コワーキング各フロア異なる内装
 ユニマットミライオフィス(東京都港区)がスタートしたコワーキングスペース「ワークコート渋谷松濤」は総面積2000㎡超の1棟のビル全フロアをコワーキングスペースとしている。地下1階から9階まで、それぞれのコンセプトに合う内装が施され、各フロアで全く違うオフィス仕様だ。例えば2階は「SUNSHINE」、大きな長机があり陽射しが降り注ぐ開放的な空間。3階は「FOREST GREEN」、グリーンを基調とした内装で植物をあしらった予約制の会議室。6階「BRILLIANT」はスタイリッシュなオフィス家具や照明、9階「SUN」はルーフトップテラスがあり、広々とした渋谷の景色を見下ろしながら過ごせる。
 フルタイム会員は24時間365日、どのスペースでも利用できる。
 「オールフリースペースで固定の個室はございません。その日の気分でお好きなフロアを選ぶことができます」と話す支配人の沖満氏。同社の1拠点目は2018年オープンの港区の「青山アラマンダワークコート」。青山エリアよりも利用者年代層は若く、20代後半から30代前半が中心。
 「ほとんどが近隣にお住まいの方で、IT系企業が多いですね。少人数のスタートアップ企業がだんだんと成長し利用スペースを拡大しサテライトオフィスのように利用しているケースもあります。コワーキングスペース利用層の裾野が広がっていると感じます」(沖氏)。会議室やテラス席、電話ブース、ボックススペースもあり、また段差をつけた階段型フロアなど各階ごとのユニークなレイアウトに多種多様なオフィス家具、オープンな空間の居心地の良さもあり会員の利用日数も多く、平均滞在時間は約3時間半(平日、2021年5月度)という。今後も他エリアで「ワークコート」ブランドを展開していく。
 エリアの特性、業種や年齢層に合うオフィスのマーケティングを積み重ねた、高評価オフィスが生まれれば地域活性化にもつながる。

高グレードビルで展開 秘書サービスのオプション
 エグゼクティブセンター(横浜市西区)はアジア中心に150拠点以上展開している外資系シェアオフィス。日本では4月にオープンしたばかりの「世界貿易センタービル南館」を始め、S、Aグレードビルを中心に拡大している。入居企業は6割以上が大型外資系企業。
 「選ばれる理由の一つにITのインフラがしっかりしていることがあげられます。高速ネットワーク通信ですし、オフィスのセキュリティも非常に堅牢で、非接触型のICカードで入退室管理が可能です。日本に進出するときのファーストオフィスとして年単位で利用される企業様も多いですね。特に外資系企業様からはクオリティを信頼して使っていただいています」と語るのは同社ジェネラルマネージャーの三輪 繁治氏。
 「エグゼクティブセンター」はセキュリティ以外にも、高級感のある内装が特徴だ。エスプレッソマシーンもイタリアから輸入、ハーマンミラー社のオフィスチェア、ビルのグレードもサービスのひとつとし、「エグゼクティブセンター」はS、Aグレードビルが中心だ。ウェブ会議用のカメラも高性能でサウンドマスキングが導入されている。防音材も高密度で質が高いものを使用。「先行き不透明感もあり、一時的にコロナ禍でオフィスのダウンサイズをしてシェアオフィスへ移っているのではなくコロナ禍前より、企業のシェアオフィス利用は大きな流れになっていると思います。企業の成長に合わせて柔軟にオフィスを拡張及び縮小できるため、外資系、法律事務所などの士業、監査法人などのプロフェッショナルファームのお客様には底堅い需要があります。ITインフラがしっかりしているのでIT系企業様も多いですね」(三輪氏)。  感染症対策や、オプションのサービスも充実している。
 「お客様に安心して働けるオフィス環境を提供するために、ドアノブなど共用部分で手に触れる箇所は3時間に1回、アルコール消毒しています。『フォー・カスタマーサクセス』と言っていますが、ソフト面のサービスも重視しています。秘書サービスもトレーニングをしたバイリンガル人材を採用しています。お客様には、従業員の方々のモチベーションアップや有名ビル入居による信頼性の向上などのベネフィットを活用し、企業様の成長のためにお役に立てればと願っています」(三輪氏)。
 どのオフィスで働くか、その選択でビジネスが左右されるかもしれない。

フレキシブルオフィス シェア2%から10%へ拡大見込む
ユースラッシュ 代表取締役 内山裕規氏
 経営状況は変化するものですから、成長するにしても縮小にしても、常に最適なサイズの固定オフィスはありません。フレキシブルオフィスでは柔軟にサイズ変更できますので経営側にとっても良いと気づき始めているのではないでしょうか。
 オフィス全体に占めるフレキシブルオフィスのシェアは約2%ですが、10%程度まで拡大するとみています。
 当社は蓄積したデータを活用し、ユーザーがよりピッタリのオフィスを選べるよう、またオーナー側が効率よくフレキシブルオフィスを運営できる方法をサービス化して提供していきたいと考えています。

館内で飽きずに集中してもらう
ワークコート渋谷松濤 支配人 沖満氏
 ビル1棟全部が利用できますが、館内で飽きずに集中してもらうため、フロアごとにコンセプトを変え、全く違う内装にしています。お客様の満足度も高いですね。コロナ禍でもあり、オンライン内覧、Zoom相談をスタートしました。コロナ収束後には、イベントも積極的にやっていきたいと考えています。

今後はハイブリッドモデルへ
ディ・エグゼクティブ・センター・ジャパン ジェネラルマネージャー・ビジネスディベロップメント 三輪繁治氏
 当社は香港に本社があり、アジアを中心に14か国32都市で150拠点超のプレミアムシェアオフィスを展開しています。今後、企業はオフィスと自宅での時間を混在させる柔軟なハイブリットモデルを採用すると考えています。
 ハイブリットモデルを採用する戦略のなかで働く場所を柔軟に選択し、ニーズに合わせてオフィスを拡張・縮小できるシェアオフィスの需要は高まるでしょう。
 海外の企業が東京に進出しやすいようにインフラを整える際にご利用いただけるよう、東京都とも提携しております。今後は首都圏以外の地方都市への展開も考えています。




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