不動産トピックス
【今週号の最終面特集】アイデアで勝負する奇抜な不動産再生術
2021.09.13 11:24
コロナ禍の逆境でも黒字に転換 「得意」を活かして付加価値を創出
パンデミックは様々な分野にマイナス影響をもたらしている。不動産業界で最もダメージを受けたのはホテル。今でもどのように再生していくか、各社思案に明け暮れる。そのなかで少数であるが、再生・活用に成功しているケースもある。業者任せにはしないで独自のアイデアで乗り切っているのだ。危機の時こそ、アイデアや発想力が試される。
ホテル×フィットネスジム 健康需要に乗り業績急回復
Catalyst(東京都中央区)は2017年3月に創業。同年に日本橋馬喰町でオープンした「obi Hostel」をはじめ、全国で5施設を運営。そのうち4施設を所有。宿泊施設運営に関連して、古民家再生・プロデュースや地方創生事業にも取り組んでいる。
代表取締役CEOの高野由之氏は地域経済活性化支援機構出身。観光を中心にして、地方再生や不動産再生などに取り組んできた。2017年の第一号ホテルとなる「obi Hostel」はもともと繊維問屋が自社ビルとして使用。その後、移転に伴って建物を1棟貸しで賃貸に出し、Catalystが賃借。ホステルとしてオープンすることとなった。コロナ禍前はインバウンド需要が旺盛だったこともあって、稼働率は85%ほどの高い水準で推移していた。
が、コロナ禍の影響は同社の運営施設にも及んだ。特に主要ターゲットをインバウンドに定めていた「obi Hostel」への影響は厳しいものだった。敏速に対応した。今年3月にリニューアルオープン。インバウンド需要に頼らない運営形態としたことで、4月の総売上が前年同月比で920%を達成し、黒字転換に成功。具体的にはそれまで宿泊フロアだった2フロアをフィットネスジムに改装して、「ホテル×フィットネスジム」とした。フィットネスジム利用者獲得という新しい収益源を確保。1階のカフェスペースでは「筋トレ食」を提供して、体づくりをサポート。宿泊部門でも「ジム付きプラン」を販売することで、3部門でシナジーを出せる形とした。
見事にコロナ禍の苦境を脱した一策となった「ホテル×フィットネスジム」。高野氏はこのプランについて、コロナ禍前から構想していたと言う。実際にあるホテル再生案件にてこのプランの提案を試みようとしたが、参画することができなかった。そこで「obi Hostel」で満を持して取り組むこととなった。
高野氏は構想のきっかけを、「私自身が、筋トレが好きだったので・・・」とサラリ。もちろん、それだけではない。「健康に対する意識が年々向上する中で、ジムに対する需要も高まってきています。このことはホテルを再生するにあたっても、有効なコンテンツになりうると思いました」と打ち明けている。
収益モデルも宿泊とフィットネスでお互いにカバーできる形になっている。宿泊は観光需要の増減に依存していて、ボラティリティが高い。一方でフィットネスジムは会員制でありストック型ビジネスであるため、売上は安定的だ。カフェも宿泊客とフィットネスジム利用者の双方が利用することから、双方の需要を獲得する形にすることができた。
また9月1日には「obi Hostel」6階をオフィスに改装した。ここをワークスペースとして貸し出して、更に新たな収益源の多様化を目指していく。
コロナ禍で想定外の打撃を被ったホテル業界。宿泊を中核に据えつつも、多角的に稼げる仕組みづくりは今後の課題となっている。
閉館したホテルを活用 サバゲーやお化け屋敷に
「日ノ出町」駅から徒歩3分、「関内」駅から徒歩8分の場所にある、「BUSINESS INN NEW CITY(ビジネスイン・ニューシティー)」。築年数の経過やコロナ禍による観光需要減で今年3月に閉館。この旧ホテルがサバイバルゲームやお化け屋敷などの複合型イベント施設に生まれ変わっている。
仕掛けたのはシティコミュニケーションズ(横浜市神奈川区)だ。総合エンタテインメント事業をグループで展開している。豊富なコンテンツを有していたことが同社ならではの活用再生を実現。5月4日に開催した「ホテルでサバゲ」は予想以上に集客。その後は定期的にサバイバルゲームやお化け屋敷などのイベントを開催している。
発案者は「SHOOTING BAR GET@City」店舗責任者の納谷竜司氏。同店はホテルが入居していたビルの1階で運営。緊急事態宣言によってアルコール提供が困難になったことが要因となった。「当店はお酒とシューティングを楽しんでもらっているお店です。そのなかでお客様の満足度を上げていくためには、シューティング要素をより強化していく必要があると考えていました」と明かす。同時期、ビルの1~5階を使用していたホテルが閉館。「閉館したホテルでサバイバルゲームができれば、盛り上がるのではないか」。そう考えた納谷氏がホテルの元支配人に持ち掛けたのが始まりとなった。意気投合して、イベント施設としての道を歩むことになった。
納谷氏は「これまで専用のフィールドを借りてサバゲーイベントを開催したことはありましたが、自らフィールドの運営を行ったのは初めてでした」と語る。参加者からも好評でSNS上などでも好評を博している。
ホテル運営者にとってもヒントとなりそうなプラン。横展開していくことも期待されるが、「現状では具体的な動きはありません」とする。しかしながら「より大きな施設でイベントを開催したいとは考えています」と意欲を見せる。
この物件はシティコミュニケーションズが所有する。魅力的な活用法が生まれたことは、今後の建物利用の方向性にも多少なりとも影響を与えそうだ。ビルを管轄する同社総務部は「現段階で具体的に決まっていることはありません」としつつも、「今回のイベントのように様々な企画を考えて何かあてはめていければと考えています」と回答した。
コロナ禍だからこそ生まれた新企画。コロナ収束後、この経験やノウハウがどのように活用されていくか、期待したい。
また関内に「泰生ビル」を保有する泰有社(横浜市南区)の伊藤康文氏は入居者と共にビルづくりを行い、安定したビル経営を展開している。従来の不動産経営とは異なる手段と方法。独自ノウハウでコロナ禍を乗り切る。
再生モデルを全国展開へ
Catalyst 代表取締役CEO 高野由之氏
今後「obi Hostel」で培ったノウハウや知見をベースに、全国で再生モデルとして展開していきます。ホテルをメーンに、低稼働率に陥っているビルなどにも展開していきたいと考えています。「obi Hostel」のフィットネスジムについても、機材や予約システムなどを自ら調達してくることで大手フィットネスジム企業に依頼するのと比較して3分の1ほどのコストで稼働させることができました。今後、年間3~4の施設で企画・運用を担い、再生を支援していきたいと考えています。
1棟のビルが街を変える
泰有社 伊藤康文氏
横浜・関内に保有する「泰生ビル」のリノベーションをきっかけに、近隣に立つビルの再生にも関わるようになりました。今は同ビルのほか、エリア内で「泰生ポーチ」、「トキワビル/シンコービル」を運営しています。いずれのビルも築40~50年超で、低層部が店舗・業務用、上階が住居となった構造でした。入居者自らがリノベーションしたり、定期的に集まってビルの方向性を話し合ったり。入居者と一緒にビルをつくり、運営していくという感覚です。今ではどのビルもクリエイターが増え、いつの間にか近隣のビルにも飛び火して、一帯はクリエイターが多く入居するエリアになりつつあります。関内は築年数が経過したビルが多く賃貸市場も厳しいですが、ここで何かやりたいというクリエイター層は少なくありません。関内の特徴を生かしニーズを取り込むことができれば、他のエリアとの差別化にもつながると考えています。