不動産トピックス

クローズアップ 不動産活用編

2021.09.27 11:09

 築古やニーズの変遷に対応できずに低稼働となった物件をどのように再生していくか。建替えが一方の選択肢ならば、もう一方の選択肢は既存建物を用いての活用だ。そのような成功事例を紹介していく。

ビルを高級貸し切り民泊に転用 道頓堀など大阪中心部で運営
 道頓堀や心斎橋などといった大阪市の中心部で、オフィスビルなどをリノベーションした高級民泊「今昔荘」を運営するのがファンバウンド(滋賀県野洲市)だ。近年は自社運営だけでなく、高級民泊の立ち上げ支援事業なども手掛けている。事業のスキームなどについて大門拓童社長にインタビューした。

――会社について教えて下さい。
大門 設立は2017年。現在「今昔荘」のブランドで6棟、他のブランドで4棟の高級民泊施設を運営しています。また、他社で同様の施設を開発・運営したい場合には、コンサルティングや運営代行も手掛けています。
――運営する施設の特徴は。
大門 日本では民泊は「マンションの1室を宿泊施設として活用する」というイメージがあります。それに対し、当社ではビルを丸ごとコンバージョンするなどして家族・グループなどでの旅行に適した貸し切り式の民泊にしていることが最大の特徴です。例えば、昨年6月にオープンした「今昔荘心斎橋」は3階建ての事務所兼自宅ビルを転用しました。4つのベッドルームを有し、最大で14人まで宿泊できますが、建物全体を1室とみなしており、1回1組の宿泊のみを受け付けています。時期によりますが、宿泊費用は1泊6万円~10万円程度です。
――想定しているニーズは。
大門 当初は、家族やグループでの旅行を好む中華系の人たちのインバウンドニーズを見込んでいました。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり今は国内旅行のニーズにシフトしています。例えば今年の夏休みシーズンは「コロナで遠くに旅行に行けないので、せめて大阪市内で非日常感を味わいたい」という地元の人たちの家族や友人同士の利用が活発でした。一般のホテルでは、他の宿泊客やスタッフなど第三者がいますが、当社の施設は貸し切りで、宿泊中は他人と接触することがないので、コロナ感染リスクが少ない、という点でも注目されたようです。
――宿泊ニーズの今後の動向は、どう予想していますか。
大門 現時点で年明けのインバウンドの予約が既に入っています。もちろん、コロナの今後の感染状況やワクチン接種状況にもよりますが、来年初頭にはインバウンドの回復の兆しが出てくることを期待しています。ただし、経営的に厳しい航空会社は、コロナ前のような安い価格の運賃設定をすることは難しいでしょうから、来日観光客も富裕層が中心になるでしょう。宿泊施設も価格の高い所から回復していくのではないかと見ています。
――ビルを活用して開設するスキームを具体的に教えて下さい。
大門 スキームとしては、(1)当社が一定額で賃借し、リノベーション費用なども当社が全て負担する、(2)リノベーション費用などの一部をオーナーに負担してもらい、賃料は稼働率などに応じた変動制とする、(3)物件を当社ないしグループ会社で買い取る、の3つのパターンがあります。このうち、当社としては(2)に力を入れており、ビルのオーナーにも「初期費用はかかるが、高い利回りが期待できる」と勧めています。
――どのようなビルが開設に適していますか。
大門 まず、当社では立地を最優先しています。これまでの統計では、メインターゲットとしている中華系観光客の当社物件への平均宿泊日数は3・5日です。つまり、移動型ではなく、大阪に滞在しながら周辺に足を延ばすというスタイルの旅をしています。それを考えると、各地への交通便に優れた大阪中心部にあることが理想です。食事を提供しないスタイルですので、周辺に飲食店・物販店が多くある必要があることも市街地中心部にこだわる理由です。具体的にはJR大阪環状線の内側、もしくはユニバーサルスタジオジャパンへのアクセスに優れたベイエリアの物件を求めています。
 広さは60平米以上で、「今昔荘心斎橋」のようにビル全体を活用する形でも、大型ビルの一部だけを転用する形でも大丈夫です。ビルの外観については汚さを感じさせるものでなければ特にこだわりません。
――立地にこだわり過ぎると、活用できる物件が少なくなってしまうという問題がありませんか。
大門 例えば「今昔荘心斎橋」はワンフロア50平米弱です。コロナ禍でテレワークが進んだこともあり、個人用の執務スベースが人気になるなど、近年オフィスのニーズは狭くなる傾向にあります。しかし、ワンフロア50平米弱ですと複数に分割して貸すことも難しく、そうしたニーズに上手く対応できていません。こうした事情などから、駅近など好立地でも、有効的に活用できてない不動産は探せばまだまだ沢山あります。
――今後の事業展開を教えて下さい。
大門 現在4つの開発案件を抱えています。コロナの影響で開設が遅れている物もありますので、まずはこの案件を進めます。その後は20棟運営をひとつの目標とします。エリアについては大阪中心部に限定します。運営代行についても同様です。開発・運営のコンサルティングであれば全国どこでも対応します。

1928年オープンの銭湯を再生 新たにレンタルスペースとして貸出開始
 東京都台東区下谷にある「レボン快哉湯」。もとは1928年にオープンした銭湯「快哉湯」。2016年11月に建物や設備の老朽化によって銭湯としての営業は終了。その後、オーナーの建物を残したいという想いを引き継いで、「レボン快哉湯」プロジェクトがスタート。昨年7月、ベステイト(東京都台東区)の手によって銭湯カフェ「レボン快哉湯」として再スタートを切った。
 開業から1年が経過したことで、同施設で新たに始めるのがスエースレンタルサービス。カフェスペースとなっている旧脱衣所と、ワークスペースとなっている旧浴場、そして全体貸し切りの3つのプランを用意。女子会やママ会などの利用から、商品の展示会、テレビなどの撮影、ワークショップや発表会など多様な需要をこなしていく。
 ベステイトでは「レボン」を不動産再生ブランドとして展開している。所有不動産を再生・再活用し、次の時代にも残していくサービス。不動産オーナーからの相談も受け付けている。




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