不動産トピックス

【今週号の最終面特集】SDGsの新提案

2021.10.18 10:45

オフィスの設備や家具をリユース 環境配慮への意識がビルの付加価値に

 SDGsの積極的な展開を進める企業が増えている。環境に配慮したビル経営を行うことで、ビルのバリューアップにつながるとの見方も強い。例えば什器や家具、ビル設備等をリユースすることが、CO2削減に貢献すると考えられる。

廃材の買取・再販まで一環提案 ビルの付加価値向上にも期待
 オフィスバスターズ(東京都中央区)は、中古コピー機の販売事業を主軸に2003年に設立されたオフィスの総合提案企業。現在は「世界的循環をリードするサーキュラー(循環)総合商社」として、オフィス環境コンサルティングから施工、物流、オフィス什器の買取・廃棄・再販に至るまでワンストップによるサービス展開を進めている。
 ファシリティ事業では、原状回復工事のB工事とC工事を中心に施工を行うとともに、テナントの希望に応じてオフィス什器の買取・再販事業まで一貫した提案を行っている。オフィスソリューション本部オフィスファシリティ部部長の小野聡氏は「100坪程度のオフィスが移転をする際に、オフィス什器の廃棄代だけで100万円近くかかることもあります。オフィスの什器や家具を買取・再販することで、本来かかるはずの廃棄処理費がかからず、大幅なコスト削減につながります」と買取・再販のメリットについて話す。
 買取はデスクやチェアといった家具に限らず、液晶モニターなどの電子機器やハンガーラックなど、オフィス内のあらゆる物品が対象となる。販売は同社が全国展開するリユース家具の店舗での店頭購入の他、ネット経由でも行っている。
 昨今はサステナビリティの意識を一層強める企業が少なくない。製品を新しくつくる際に大量のCO2が輩出されるという背景から、オフィス家具や什器のリユースはCO2の削減に大きく寄与すると考えられている。
 同社は2015年にSDGsが採択されるさらに前から、環境保全を意識した経営を進めている。取締役オフィスソリューション本部本部長の鈴木佳貴氏は「当社はもとより環境保全の意識を根底に事業を進めており、2018年頃からは、リユースによる廃棄物削減量やCO2発生削減量の目標達成度を会社HPに載せています。また自社保有の倉庫では買取品の再生業務などを行っており、例えば椅子のキャスター部分だけストックして再活用するなど、使い古した家具を一つでも多く生かせるように努めています」と話す。
 各企業がサステナビリティへの取り組みを積極展開する昨今。ビルオーナーとして何を行うべきか、模索している人も少なくないのではないか。鈴木氏は「リユースしたオフィス家具や什器のみでセットアップした賃室を作り、『環境配慮物件』としてアピールするのも良いかもしれません」と提案する。家具・什器のリユースがビルのバリューアップの手法として考えられる日も遠くないだろう。

設備更新工事でも有価物買取 LAN配線や空調設備も対象
 ビルの空調設備や厨房機器といった、大型設備のリユースも注目されている。アット・ファシリティラボ(東京都中央区)は、解体作業や原状回復工事に伴い発生する廃材を買取する資産買取事業を進めている。解体材の中でも資産価値のあるものに着目し、買取を行ったうえで、解体材の売却益を解体材の所有者に還元。工事コスト削減と環境保全に貢献する。
 工事時の解体材買取のみならず、デスクやロッカーなどのオフィス什器全般に加え、シンクや厨房機器といった飲食店舗等の什器・機器まで広く対応している。また、空調設備や電気設備、床下のLAN配線やUPS、キュービクルなどの電気設備の買取提案も行っている。原状回復工事では同社が請け負うのはC工事区分がメーンとなるためテナントからの依頼が中心だが、ビルに付帯する設備更新時には、ビルオーナーから設備の買取依頼も寄せられると言う。
 取締役部長の浅田啓太氏は「ビルオーナー様からのご依頼で、設備更新のタイミングで古い空調設備を買い取った実績もあります。買取した設備の売却益が所有者様(この場合はオーナー様)に還元されることに加え、廃棄の際にかかる費用が計上されなくなるため大幅なコストカットが可能です。従来であれば廃棄されるような、工事に伴う設備機器の買取は当社ならではの強みです」と話す。

廃棄物ゼロを目指す特化型認証を展開
 世界的な環境問題が日々報道されている。産業界でもこれらを「ESG」あるいは「SDGs」として取り組みを加速させる。不動産業界でも「CASBEE」や「LEED」といった環境認証取得はもとより、最近ではオフィスビルの使用電力を再生可能エネルギーに切り替える事例も多い。そのような環境問題のひとつである廃棄物削減に特化した認証もある。
 「ゼロ・ウェイスト認証」。ゼロ・ウェイスト・ジャパン(東京都新宿区)が展開するもので、2017年よりスタート。飲食やアパレルなどの店舗、コワーキングスペース/シェアオフィスといった場で取得されている。
 認証スタート時より旗振り役を務めるのが、ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶氏。幼少の頃より鳥好きで、なかでも絶滅危惧種である「カカポ」に関心を持った。
「なぜ絶滅危惧種になってしまうのかを考察していったときに、影響が大きい人間活動の仕組みを変えていかなければならない」と考えて、大学では環境政策を専攻するに至る。ただ政策議論は時として「机上の空論」にも陥りやすい。「実効性を確保するには、具体的な取り組みを行っている現場がいいのでは」。そのように考えて、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物政策を担うNPO法人、ゼロ・ウェイスト・アカデミーに参画した。
 坂野氏は「ゼロ・ウェイスト認証」の特徴を次のように紹介する。
 「私たちの認証のポイントは、ゼロ・ウェイストに向けてどのような取り組みを行っているか、どのような行動を行っているかの過程を重視していることです。結果だけではなく全体を評価して認証を付与することで、その店舗の取り組みが周知され多くの人の共感を得て行動変化を促すことができると考えています。またゼロ・ウェイストを達成していくためには、業種業態での違いはもちろんのこと個別の店舗・事業所で施策は変わってきます。当法人ではコンサルティングや店舗や事業者に勤めるスタッフへの研修も行い、それぞれのケースでのゼロ・ウェイスト実現に向けた取り組みをサポートしています」
 日本での環境問題への認識の高まりは最近のことだ。産業界では「ESG」や「SDGs」などが企業として取り組むべき事項になった。これらの取り組みは世界の機関投資家の投資判断も左右する。行政面でも大きな動きがあり、20年7月には「レジ袋有料化」を実施。昨年10月に菅義偉首相(当時)が所信表明演説にて「2050年に温室効果ガス排出ゼロ」を宣言するに至っている。
 坂野氏はこれらの環境に対する取り組みについて「気候変動などを中心に環境問題は世界的には急務の課題。日本も国際社会の一員として取り組みを進めていくことは必然でした」と指摘する。
 それと同時に「ゼロ・ウェイスト」への関心も日々高まりを見せている。認証取得を目指す店舗や事業者はもともと環境に対する取り組みに対して積極的な人のインターネット検索、各種メディアでの記事、あるいは今年5月に開催した認証を取得した店舗などの取り組みを紹介するオンラインイベントなどから問い合わせや認証取得の申請につながっている。  「6月にスタートしたコワーキングスペースやシェアオフィス向けの認証のように、施設ごとを対象にした認証も展開していきたい」(坂野氏)
 今後拡大していく中で、不動産業界での事例も増やしていきそうだ。


自治体通じて地域ぐるみの取り組みも
ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事 坂野晶氏
 「ゼロ・ウェイスト認証」では店舗などの事業者が対象ですが、自治体や地域単位で取り組んでいただくことも重要です。エリア全体で「ゼロ・ウェイスト」に取りくむことで事業者間の連携も生まれ、より取組が加速する相乗効果があります。先進事例である徳島県上勝町でリサイクル率が8割に達し、今後2030年までにさらに包括的な資源循環にも挑戦されるでしょう。このような成果は住民や店舗、企業などエリア全体で取り組むことのメリットだと感じています。今後も事業者向け、自治体向けの2つのルートで展開していくことで、「ゼロ・ウェイスト」の取り組みの拡大を図っていきます。




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