不動産トピックス

ホテル運営会社次の一手を探る

2021.11.01 10:47

後継者不足の旅館の事業承継事例が続々 異業種からの参入で業界活性化の期待高まる
 Visionalグループのビジョナル・インキュベーション(東京都渋谷区)が運営する事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」は、8月より事業を譲りたい経営者がオープンに譲り受け企業を公募する「ビズリーチ・サクシード 後継者公募」を開始しているが、僅か1か月で譲渡先が決定したという。2020年の後継者不在の旅館・ホテルは60.7%、2020年の宿泊業の倒産は前年比1.5倍の118件。コロナ禍の影響を大きく受けている宿泊業は厳しい環境のなか、約1カ月で成約するのは異例だ。

募集から1カ月で譲渡契約が成立
 第1弾として、山陰海岸国立公園内に立地する旅館「臨海荘」を運営する今子浦臨海センター(兵庫県美方郡)が、後継者不在で早くよい相手に出会うべく、名前を公表して譲渡先を広く募集したところ、9月28日に株式譲渡契約を締結した。譲渡先は、設計事務所を営む設計舎三日月(神奈川県横浜市)。
 「臨海荘」は、山陰海岸国立公園内に位置し、「日本の夕陽百選」にも選ばれた景観が敷地内から望めるのが特徴。海岸まで徒歩1分で、夏は海水浴やスキューバダイビング、シーカヤック、冬はスキーなど、様々なアクティビティを満喫できる。総敷地面積は700坪と広く、バーベキューなど屋外でのアクティビティも可能だ。
 臨海荘の譲渡先となる設計舎三日月は、土地の分譲事業などを手がける設計事務所を運営している。
 同社の山下猛次社長は、5年ほど前から宿泊業に興味を持ち、沖縄県で宿泊施設を建設予定のほか、関東地方で飲食店を経営。このようななか、更に沖縄県で宿泊事業や外食事業のM&Aを検討すべく「ビズリーチ・サクシード」に登録していたところ、臨海荘の公募を知り即日応募したという。
 もともとは国立公園内の立地に興味を持ち、建物は築50年超のため、建て替えを想定。しかし、応募3日後に臨海荘代表の駒居誠治氏にオンラインで初面会した際に、先代から引き継いできた臨海荘の51年間の想いや魅力について聞き、「臨海荘の名前を残し、必要な改修はするものの、建物もできるだけ残したまま引き継ぎたい」と考えを変え、2週間後に「臨海荘」を訪問し、駒居氏と面会し、譲り受けることを決意した。
 山下社長は話す。「雇用は地元の方を募る方向です。急いで何かをするのではなく、長期的に考えて新しい形にしていきたいと考えています。広い敷地内でのグランピングもあるでしょうし、リノベーションした建物内でこれまで通りファミリー層に過ごしていただきたいとも思います。お子様からお年寄りまで、地域の皆さんやちょっと足を延ばしたいというお客様、多くの方に愛されるような場所にしたいと考えています」。
譲り受け希望企業コロナ前より1.3倍に
 「ビズリーチ・サクシード」は、譲渡企業と譲り受け企業をオンライン上でつなぐ事業承継M&Aプラットフォーム。譲渡企業は、「ビズリーチ・サクシード」に会社や事業の概要を匿名で登録でき、譲り受け企業はその情報を検索して閲覧できる。これにより、譲渡企業は経営の選択肢の一つとして事業承継M&Aを早期から検討できるため、経営者の選択肢が広がる。
 譲渡企業は、登録から案件成約時まで、同プラットフォームの利用料は無料。そのためコストを気にせず、企業や事業の譲渡を安心して検討できる。譲り受け企業は興味を持った譲渡企業へ直接アプローチできるため、譲渡企業にとっては、潜在的な資本提携先の存在や、自社の市場価値を把握するきっかけになる。 
 同サービスは2017年11月下旬にサービスを開始、全国の譲渡案件が累計9900件以上登録され、累計譲り受け企業は8000社以上。
 宿泊業界で新型コロナウイルス感染症拡大に要因とした倒産は、昨年55件発生し、宿泊業の倒産の約半数を占めている。インバウンド観光客の入国停止、緊急事態宣言発令による外出自粛などで、宿泊業は大きな影響を受けている。このような中、「ビズリーチ・サクシード」における宿泊業の公開中譲渡案件は161件で、コロナ禍前の2019年9月比2倍だという。一方、宿泊業を譲り受けたい企業は636社で、2019年9月比1・3倍で譲渡案件が顕著に増加している。

コロナ禍で「M&A経営」が増加
ビズリーチ・サクシード事業部 部長 前田洋平氏
 コロナ禍の影響下における当サービス経由の中小企業のM&A動向を見ると、これまで一本足打法だった企業がM&Aによって多角化したり、業態転換や事業転換を図ったりするなど、M&Aを経営に取りいれる「M&A経営」を実践する譲り受け企業が増加しています。
 その傾向を表すように、異業種・異業態同士のM&Aがコロナ禍前と比較して倍増しています。「M&A経営」により、コロナ禍の影響下において、企業はスピーディーに変化していくことができます。今後は「afterコロナ」の「ニューノーマル」を見据えたM&Aがさらに増えていくと予想しています。

リソルグループ 都市型マイクロツーリズム提唱
 リソルグループ(東京都新宿区)のリソルステイ事業では、高級貸別荘やリゾートマンションなど中長期滞在の宿泊サービスを展開しているが、このほど「ホテルリソル上野」(東京都台東区)を活用した、都市型マイクロツーリズムの第一弾として「上野ウィークトリップ5」の新企画をスタートさせた。
 「上野ウィークトリップ5」とは、5日単位でホテルに宿泊する“都市型マイクロツーリズム”で、観光×仕事×趣味を好みに組み合わせて、気軽にどこまでも自由気ままに過ごせる新しい旅行の形。「美味しいものを食べてリフレッシュしたい」「気分転換にどこかへ出かけたい」「仕事や予定でなかなか遠くへ行くのは難しい」というニーズを都内のホテルで獲得していこうというもの。
 プラン利用者には「ホテルリソル上野オリジナルの朝食が毎日無料」「無料レンタサイクル自転車」「リソルオリジナルミネラルウォーター泊数分提供」の3つの特典を用意した。
 ホテルコンセプトは「創造するホテル」。上野に根ざした「アート」と「デザイン」を採り入れ、文化と人々が触れ合い新たな価値観を発見できるホテル。JR「上野」駅から徒歩1分と交通至便な場所位置し、地上10階建て総客室数115室は、モダレットとツインベッドルームの2つのタイプを用意。「靴を脱ぐ」という日本の生活様式を採り入れ、心からくつろげる快適で清潔な空間で上質な眠りを提供する。

JHAT クラウドファンディングでペット同伴客室
 「hotel MONday」、「MONday Apartment」、「ICI HOTEL」、「GATE STAY」を運営するJHAT(東京都港区)では、同社が運営する「イチホテル浅草橋」にてクラウドファウンディングサービス「CAMPFIRE」を活用したプロジェクト「ワンちゃんとカジュアルに泊れるホテルを応援してください」を実施する。
 海外のホテル業界では、旅行に於いてペット同伴が当たり前となっている。翻って日本は東京都23区内のドッグ受入ホテル施設は全体の2%と世界の常識から遅れている。同社では、こうした状況を憂い運営する15施設にドッグフレンドリールームを完備し、2021年7月には103室の「イチホテル浅草橋」を全室ドッグフレンドリールームへと改装した。今回はこうした取り組みの中で、プロジェクトを実施するもの。プロジェクトを通じてペットオーナーに有用性を問い、業界の参考材料としてもらいたいという。
 目標金額は144万円で、一般的な100室規模のビジネスクラスのホテルが運営に要する費用として設定した。
 「イチホテル浅草橋」は2019年2月に新築にて開業したデザイナーホテル。ウッドデッキを備えたドッグカフェ「EZO DELI」併設、浅草まで1駅、墨田川テラスなど話題のスポットにも近く、開業年には宿泊予約サイトExpediaの都内販売数ランキングでTOP5に入った施設だ。

クロスホテル札幌 「アート」「音楽」「舞踏」融合イベント開催
 クロスホテル札幌(北海道札幌市)は、11月26日から11月28日の3日間限定で、ホテル客室やロビーを活用して現代アートの展示販売や、音楽・舞踏などのライブパフォーマンスを行うイベント「プラスアートフェス2021」を開催する。
 これは北海道の現代アートと伝統文化を盛り上げたいとの思いから、2013年より開催している“アート”“音楽”“舞踏”を融合した期間限定イベント。 
 8回目の開催となる今回は、“10 rooms×10 artists”をテーマに、北海道を拠点に活動する10名のアーティストが客室をそれぞれのギャラリーに仕立て、自らの解説とともに現代アートを展示・販売する。
2階ロビーにて、工藤“ワビ”良平氏と中西“サビ”一志氏で結成されたデザインコンビ「ワビサビ」や、結城幸司氏など5組のアーティストによる作品も販売。また、日替わりでライブパフォーマンス「plus art Live」も開催する。
 クロスホテル札幌は、地域の魅力を発信する「地域共創プロジェクト」に取り組んでいる。同ホテルは、今後も北海道のアートをはじめとする、地元北海道・札幌の文化の発信に取り組んでいきたいという。

グランドパレス跡地開発へ
 ホテルグランドパレス、三菱地所、三菱地所レジデンス、阪急阪神不動産、東宝は、2021年6月30日に営業終了したホテルグランドパレス跡地の有効活用計画に関する基本協定書を締結。跡地の一部を取得し、ホテルグランドパレスとともに複合ビルを建設する予定だ。 
 計画地は、地下鉄「九段下」駅から徒歩1分、JR・地下鉄「飯田橋」駅から徒歩7分と、2駅からのアクセスが可能で交通利便性が高い立地にある。5社は基本協定締結のもと、この事業を推進していく。
 なお幹事会社を務める三菱地所はコマーシャル不動産事業グループのプロジェクト開発部内に10月1日付けで「九段開発室」を設置し、同計画の推進にあたっていく。




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