不動産トピックス
【今週号の最終面特集】「不動産エージェント」の現状と展望
2021.11.22 10:51
中堅・新興中心に拡大し国内発のブランドも 総合的な資産コンサルとしての役割に二ーズ
不動産エージェントがにわかに注目を集めている。業界内でも中堅・新興を中心に導入が進んでいる。今後の動向はどう見るか。識者に現状と展望を聞いた。
中堅・新興中心に広がり 活路は国際市場に
業界でも注目が集まりつつある不動産エージェント制度。上場企業などでも導入する動きがあるが、広がりや実情はどうなっているのだろか。
JARECO国際不動産カレッジ(東京都港区)。日米不動産協力機構(JARECO、東京都千代田区)の教育部門として、不動産英語や国際的な不動産慣習について教育活動を行っている。国内で活動している多くの不動産エージェントが受講しており、エージェント制度についてのセミナーなども開催している。
代表の杉浦隼城氏は現在の国内での不動産エージェント制度について「業界の中堅や新興企業を中心にして広がりを見せています」と話す。広げる主体となっているのが、米国発のRE/MAXやKellerWilliamsをはじめ、国内系ではリスト、不動産流通システム社が運営する「REDS」、新興のTERASSなどだ。これにCentury21やハウスドゥなども続く。通常、エージェントは成約した仲介案件に対して報酬をもらう仕組みだが、なかには固定給を支給している企業もある。不動産エージェントは副業として注目を集めているものの、「これは米国でも同様ですが、成功するには相当の努力が必要でエージェントとしてしっかりと報酬を受けている人は一握りです」と話す。成功するエージェントのキャリアを見ると、不動産を取り扱う機会の多い士業関係者や実績のある不動産業経験者や個人事業主が多い。
中堅・新興企業を中心に広がるエージェント制度だが、その一方で大手不動産仲介会社で導入する動きは乏しい。経営面では保険会社同様、人件費の圧縮にもつながることからメリットがある。ただ現在の状況はむしろ人手不足感が強く、人員を増強する傾向にある。「特に都心部の仲介市場は活発で、大手は過去最高益の水準にあります。社内ではエージェント制度についての研究がされていると思いますが、動いてくるのは市況が悪化したタイミングでしょう」(杉浦氏)。
今後、遅かれ早かれ「広がり」を見せていくであろうエージェント制度。成功していくために必要となる能力はどういったものか。杉浦氏は「国際取引に取り組めるようにすべき」と訴える。国内市場では大手が圧倒的優位にある。一方で国際市場では国内大手の優位性も薄まる。この市場に参戦していくためにも「国際的な不動産取引ができる語学力と知識、そしてIT重説などのデジタル化への対応は必須です」と指摘する。
不動産エージェント制開始から約1年 サポート充実で仲介案件増加
収益不動産の販売・賃貸・管理の事業を手掛ける東証JASDAQ上場のアズ企画設計(東京都千代田区)は20年9月よりKellerWilliams(ケラー・ウィリアムズ)の国内事業会社とサブライセンス契約を締結。KellerWilliamsAZ(ケラー・ウィリアムズ・アズ)として事業を展開している。
チームリーダーの古野絵莉氏はKW加盟について「過去に社員の友人の友人や不動産会社以外の方からの紹介などで、数億円規模の売買仲介が成立したことがきっかけとなりました」と話す。KW加盟によって仲介部門を立ち上げることで、これまで取り扱えなかった不動産仲介案件をしっかりとこなしていく体制が出来上がった。住宅やオフィスの賃貸仲介が月間で約5件こなし、売買案件も増加傾向だ。
現在、同社の専任、副業などを持つ兼任のエージェントは合計30名程度在籍している。毎月、エージェント募集の説明会を開催しており、これまでに累計270名超が参加した。「働き方改革の流れのなかで本業を持ちつつも副業でエージェントに、という方や、普段はリフォーム会社の役員や士業をされていて『そこで出てくる不動産の取引案件に生かせれば』という形で参加される方もいらっしゃいます」(古野氏)。エージェントに対して同社では営業事務支援や研修、オフィス・会議室の利用などのサポート体制を整えている。フリーランスのように、営業から資料作成、アフターフォローなどのすべての業務を一人で行う必要はなく、営業が得意なエージェントと提案資料の作成が得意なエージェントがタッグを組むことも推奨しています」と話す。
貸主・借主、買主・売主などのユーザーにとってのメリットは「ノルマがないエージェントだからこそ、心からお客様ひとりひとりの要望に沿ってご提案することができること」(古野氏)。働きやすさによる生産性向上と、顧客それぞれのニーズに対しての細やかな対応力で、更なる案件数の拡大につなげていきたい考えだ。
役割はソリューション提案 新しいビジネスモデルを支援
スタイルオブ東京(東京都港区)では住まい取得支援事業のほかに不動産エージェント紹介事業、不動産エージェントの養成事業を行っている。
代表取締役の藤木賀子氏は2007年頃から米国の不動産エージェント制度について興味を持ち研究を行ってきた。米国のエージェントが「人ありき」なのに対して、日本の不動産取引は「物件ありき」と分類する。藤木氏は広がりつつある不動産エージェントについても「不動産会社のフルコミッション営業とそこまで変わらないのでは」と疑問を呈す。そのうえで「日本国内における不動産エージェント制度についても、顧客の悩みに寄り添って最適なソリューションを提案することができるエージェントの育成が必要なのではないでしょうか」と指摘する。
同社の不動産エージェント養成事業では藤木氏がメンターとなって、不動産実務だけでなく人間性やコミュニケーション能力、また様々なシチュエーションへの対応などを教えている。「ワタシゴト」という教育メディアも展開していて、エージェントになるためのコンテンツが揃えられている。
「大々的に行っているわけではありませんが、これまでに数名のエージェントを養成してきました。たとえば建築会社に勤めているAさんはエージェントになることでお客様と土地探しから一緒にできるようになり、社内でも重宝がられています。またBさんは福祉関係の仕事をされていて、高齢者や生活保護受給者の住宅といった『福祉×不動産』に関心を持たれていました。自分の強みを生かして、エージェントになってビジネスの領域を広げられていこうとされています。私は養成事業を通じて、エージェントになりたい方々の夢や新しいビジネスモデルをサポートしていきたいと考えています」(藤木氏)
個人の力でビジネスをしていく不動産エージェント。現状は大手企業が大半の取引を主導している。そのなかでエージェントが見せ所を発揮するのは自らの強みと不動産実務を掛け合わせていくことができたときかもしれない。
顧客利益追求のエージェント浸透を
JARECO国際不動産カレッジ 代表 杉浦隼城氏
米国では100年以上の歴史がある倫理綱領によって、顧客の利益を最大化することがエージェントにとっても利益になる、という考え方・行動規範が浸透しています。また不動産の情報公開も進んでおり、豊富な情報量の環境下での取引が可能です。日本でもこのような倫理規定に裏付けされた情報公開が進展すると業界全体としてより顧客満足が高まるのではと思います。米国では特に情報が均一なため、顧客から選ばれるエージェントは情報量以上にコンサルティング能力や尊敬されうる人間力等が求められるという点では、逆に大変厳しい世界であるとも言えます。今後エージェント制度が更に広がっていく中で、同時に体制づくりが進んでいくことを期待しています。
既存事業とのシナジーも
Keller Williams AZ(アズ企画設計)チームリーダー 古野絵莉氏
1年前よりケラー・ウィリアムズ・アズを始動して、一定の成果を感じています。これまで積極的に行ってこなかった不動産仲介部門ができたことで機会損失を防いでいるとともに、アズ企画設計が持つ売り物件をエージェントから提案することができるなどのシナジーも生まれています。ケラー・ウィリアムズはエージェント制度を展開する企業のなかでも研修に注力しています。当社でもそのような研修プログラムを受けながら、ひとりひとりの顧客のニーズに応えていきたいと考えています。
ニーズの掘り出しが必要
スタイルオブ東京 代表取締役 藤木賀子氏
不動産エージェントにとって必要な能力は「人間性」と「コミュニケーション能力」だと考えています。顧客は人柄でエージェントを選びます。単純に物件情報だけを欲しているわけではなく、今抱えている悩みや課題に対してのソリューションの提案を期待しています。その顧客の要望に応えていくためには、エージェントの人間性とコミュニケーション能力の養成は欠かせません。顧客に寄り添って的確にニーズを把握できることはエージェントの強みです。当社の養成事業ではそのようなエージェントを養成し、輩出していきたいと考えています。