不動産トピックス

【今週号の最終面特集】SDGsのビルづくり

2021.12.13 14:23

資材から環境配慮 設計段階から検討 環境にやさしい土地開発を
 「持続可能な開発目標」、いわゆるSDGsは2030年までに達成すべき目標とされている。国家単位のみならず、会社やプロジェクト単位、また家庭でも個人でも目の前にある事柄から取り組むことができる活動ではないだろうか。ビルの新築や改修において、従来の工法ではなく、環境配慮の資材を検討することもSDGsへの寄与となる。

関東ローム層の土 レンガに焼成
 不動産開発を行うトラスト・ファイブ(東京都千代田区)が取り組んでいるスモールビル(小型商業ビル)では、設計段階からSDGsを取り入れたビルづくりを実行している。昨年竣工したスモールビル「ファザーランド高田馬場」では関東ロームを利活用したレンガを開発しファサードに取り入れ、独特の趣ある外観を作り出した。
 JR「高田馬場」駅から徒歩1分、学生も多い早稲田通り沿いに位置する10階建て、敷地面積約123㎡、延床面積約781㎡のコンパクトなビル。温かみのあるレンガの外壁が最上階まで続き、間口約5・5mながらも存在感を示している。
 設計を担当したASEI建築設計事務所(東京都品川区)の建築家・鈴木亜生氏は、「関東ローム層は粘性が低い粘土質です。柔らかいために固まりにくいのです。そのため、開発で掘り起こされた大量の建設発生土となる関東ロームは河川の埋め立てに使われるほか、廃棄されることがほとんどです。建築資材として利用される素材ではありませんでしたが、再利用することはできないかと試行錯誤し、レンガが完成しました」。
 レンガ焼成のためには、粘性が低い関東ロームだけでは爆裂してしまう。愛知県の三河土を配合し成型し、さらにその表面に関東ローム層を泥漬けしてから焼き固める。JIS規格に適合する化粧用レンガが出来上がるまでに多くの実験を繰り返した。
 「現場でも議論を重ねました。上層階にレンガは危ないのではという声もあったが、レンガ一つ一つに鉄筋を通して補強していますので、崩落の心配はありません」(鈴木氏)

近隣への広がり望む SDGsに関心を
 トラスト・ファイブ代表取締役の南薗浩一氏は、「デザインにこだわり突き詰めた結果、この環境にもやさしい関東ロームのレンガに出会い、活用することができました。このビルを見た近隣地域の皆様が少しでもSDGsに関心を持ってくれればと思います」と、SDGsの取り組みの広がりを期待する。
 同社では先月、スモールビルの新ブランド「コレタス」をスタート。1号物件の「コレタス吉祥寺」は無公害木材を使用した外壁など、SDGsに配慮したデザイン。今後も環境配慮を第一にした開発を手掛けるという。

全社でSDGs宣言 エネルギー考え工具変更
 オーダー金属建材の菊川工業(東京都墨田区、代表取締役・宇津野嘉彦)では先月SDGsへ向けた活動開始を発表した。環境負荷低減は従来からの取り組みであったが、更に会社全体でより体系的に積極的に取り組むとし、「KIKUKAWA SDGs」として体制を整えたという。 具体的には社内の廃棄物リサイクル、社員の意識改革など一般的な活動のほか、金属加工業ならではの「エア工具ではなく電動工具の使用」、「標準部材の使用」などがある。エア工具とは圧縮した空気の力でモーターを動かす工具。
 同社製造部部長の前田一博氏は「空気を圧縮するエアコンプレッサーという機械から、ホースで空気を送り込んでいます。工場内では、大型のエアコンプレッサーに複数のホースをつないで各所にあるエア工具をそれぞれ動かしていますが、例えばそのうち1つだけエア工具を使いたい場合でも、動力源であるエアコンプレッサーを稼働させる必要があり、大きなエネルギー使用になってしまいます。一方で、電動工具であれば、工具自体に付いているバッテリー1つ分の使用で済むので、エア工具に比べてエネルギー使用の効率が非常に良いといえます。個人差もありますが、エア工具の方が軽量でコンパクトのため扱いやすさがあります。また、空気量によってパワーを調整できるので、微妙な調節がしやすいという利点もあります。一方で電動工具は、バッテリーさえ充電済みであればすぐに使うことができ、ホースにつながないので携帯性にも優れています」と語る。
 利点も多いエア工具ではあるがエネルギー消費量の点から今後は電動工具の使用を推進していくという。
 また、同社は基本的にはオーダーメイドで金属建材を製作するため、プロジェクトごとに製品の材質、形状、加工方法などが異なり、下地材やビスなどの副資材も各プロジェクトに合うものを選択し使用しているが、副資材などについては社内標準を定め、仕上がりや強度に影響のない範囲内で、できるだけその標準部材を使用するように推奨する。
 SDSsにいかに配慮しているかが今後、テナントリーシングを左右する可能性がより一層高くなるだろう。テナント確保の目的だけでなく、近隣地域も含めた広範囲を考慮した視点で取り組むことが求められる。目標達成へ向かう行為が2030年を超え期限後の2031年以降も「持続」できるかどうかが未来の地球を左右する。様々な事例を知り取り入れることも大きな一歩だ。


日本に受け継がれている資源再利用
トラスト・ファイブ 代表取締役 南薗浩一氏
 古いものを再利用し、新しいものと一緒に使い続けることは、日本では昔から代々、受け継がれているものだと思います。よってSDGsの目標に掲げられている様々な行為は、もともと、私たちが常日頃から心がけてきたことでもあると考えられるのではないでしょうか。身近でできることから少しずつ、取り組み始めることが大切です。我々は今後も、次の時代へつながるようなビルづくりを目指して参ります。

未利用土の利活用「環境不動産」を実現
ASEI建築設計事務所 一級建築士 鈴木亜生氏
 今回の関東ローム煉瓦以外にも未利用の資源を利活用した環境素材により、環境の視点から見ても価値の高い「環境不動産」を実現したいと思い様々な試作をしています。建設発生土は、有機物やゴミなどが混在していることも多くなかなか再利用は難しいですが、資源を循環する仕組みをつくりたいと思っています。今回の関東ロームを利用したレンガは、グッドデザイン賞2021もいただきました。江戸時代は循環型社会でしたから、東京の資源ですので「エド・ブリック」と名付けました。今後のビル建築には、新しい建材としてぜひ使ってほしいですね。東京では関東ローム、鹿児島ではシラスなどがありますが、その地域でのアップサイクルが作り出せないかと願っています。現在は、建設発生土はゴミとして扱われますが、東京都がマッチングするシステムを計画していますし、上手く再利用が広まっていければと思います。環境に寄与しながら付加価値ができて新しいビジネスにつながることができれば嬉しいですね。




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