不動産トピックス
【今週号の最終面特集】ニーズが高まり各社が注力する不動産小口化商品の最新動向
2021.12.27 11:07
エリア・アセット・リーシング施策etc.注目される運用会社の力量
不動産小口化商品。相続発生時に現物不動産と比べて、相続人の数に応じて分割しやすいことや、価格も1棟物件より安く、かつ小口ながら1等立地のオーナーになれることが魅力となり、需要が増大。多くの不動産企業がこの分野に取り組んでいる。引き続き、相続対策としての需要も強い一方で、直近で出てきているのは資産運用、投資商品としてのニーズだ。1口100万円から投資できる商品もあることで、投資家・出資者の裾野が拡大している。事業者の最新動向と戦略を見ていく。
初の不動産小口化商品ラインアップ拡充実現
いちご(東京都千代田区)は不動産運用事業を展開。現存不動産に新しい価値を創造する「心築」、太陽光発電や風力発電等の「クリーンエネルギー」、3つの上場投資法人の運用をはじめとした「アセットマネジメント」の3つをコア事業として、グループで事業展開を行っている。
グループの1社である、いちごオーナーズ(東京都千代田区)は12月に、いちごグループとして初となる不動産小口化商品「いちごオーナーズビルシェア」の第1号の運用をスタートさせた。この商品は東急目黒線「不動前」駅から徒歩7分の場所に立地する賃貸マンション「PASEO目黒2.」を組み込んだもの。想定運用期間は12年で、利回りは約3%。1口100万円から出資できる。
同社では「不動産プライベートバンカー」事業を行う。主に個人の顧客に対して、厳選した1棟物件を商品として販売。それに関連して資産運用のコンサルティングや、不動産の運用管理を代行する「オーナー代行サービス」にも取り組んできた。
代表取締役社長の纐纈雅彦氏は「当社が主に商品化している物件は都内のレジデンスで、1棟の価格が10億円前後の物件です」と紹介する。レジデンス物件のなかでも単身者用の物件をメインに取り扱う。その理由について「東京都内では総人口が減少していくものの、単身世帯に絞ると依然として増加していて、2035年頃にピークを迎えると予測されています。運用する物件としては一番メリットが大きいものと考えます」とする。「顧客ファースト」を掲げる中で、顧客利益の最大化が可能なアセットとして手掛けている。
一方で、顧客からは「ラインアップの拡充」を求める声も寄せられていた。
「10億円以上の物件となると、一棟で購入できる顧客層は限られてきます。そのため、『より価格帯の低い商品の取り扱いはありませんか』という声は多くいただいていました」
そのニーズに応えていくものとして、「いちごオーナーズビルシェア」を考案。不動産特定共同事業法の許認可を取得したうえで、7月に第1号を販売開始。直後に新型コロナウイルス感染症拡大により発令された緊急事態宣言の影響から一時販売を中断したが、10月に再開。約1カ月で完売し、このたび運用開始となった。
1口100万円からで資産運用ニーズに応える
不動産小口化商品は相続対策ニーズに応えるケースが多い。そのなかで、「いちごオーナーズビルシェア」は資産運用ニーズを主軸に据える。
「1口100万円から出資することが可能なので、第1号の購入者も40~90歳代まで幅広い方々にご購入いただきました。これまで国債や定期預金といった著しくローリスク・ローリターンな商品や、株式のようなハイリスク・ハイリターンのものと異なり、『いちごオーナーズビルシェア』は国債や定期預金よりもリターンを確保でき株式よりもリスクを抑えた商品です。当社はこれまでの資産運用に代わるものとして、ニーズを掴んでいきたいと考えています」(纐纈氏)
業界内では様々な不動産小口化商品が提供されている。ただ多くは1口数百万円からで、100万円は商品のなかでも低い投資口価格だ。纐纈氏は「来年度早々には第2号が展開できると思います。今後は年4~6くらいの不動産小口化商品の販売を目指していきたい」とした。
これまでの1棟物件から不動産小口化商品、そしてグループ内ではJリートもある。いちごグループ内で投資商品のラインアップが揃ってきた。今回、新しい展開となった「いちごオーナーズビルシェア」の拡充と、投資ニーズがどのように広がりを見せていくか注目される。
不動産小口化商品「セレサージュ」年間で2~3商品リリースへ
コスモスイニシア(東京都港区)が共同出資型(不動産小口化)商品のラインアップを強化している。今年8月下旬に「セレサージュ目黒イースト」、そして11月下旬より「セレサージュ目黒ウェスト」を販売。運用開始は「イースト」が12月末から、「ウェスト」は22年3月末からを予定している。
「セレサージュ」は2017年より展開。都心の商業ビルを中心としていて、今回の目黒の2物件を合わせて、これまで6物件発表してきた。業界内でも不動産小口化商品を手掛ける企業は多い。そのなかで「セレサージュ」は個人で1棟を購入することが難しい都心商業ビルも「小口化」することで1000万円から購入できる(1口500万円、2口以上)。相続対策としてのニーズの高まりも不動産小口化商品需要の背景だ。被相続人の数に合わせて揃えられること、資産圧縮効果、そして運用・管理の手間がかからないことが需要を呼び込む。ソリューション事業部ソリューション二部投資運用商品課の北島祐二課長は「これまでの出資者の約半数が不動産投資は初めての顧客」だという。
「目黒イースト」は順調な売れ行きですでに募集総額のうち7割近くが決まっている。「目黒ウェスト」はこれから販売が本格化していくが、大きな需要を期待することができる。
業界内の各社でも取り組みを進めている商品。スキームに大きな差はない。コスモスイニシアが商品を組成するうえで重視しているのは「15年ほどの運用期間中にしっかりと利益を出し続けられること、そして最終的に売却という出口を確保できる物件であるかどうか」(北島氏)だ。たとえば、今年販売した商品のなかで「セレサージュ豊洲」がある。「豊洲」駅近くの商業ビルで今年4月竣工の新築物件だ。
「人口が増え続けているエリアでファミリーも多い。そのような居住者を対象とした学習塾などがテナントとして入居しています。住居としての人気は依然として高いことから、テナント需要も計算できる物件です」
物件によってはコロナ禍での影響も受けた。ただ様々なテナントニーズに対応したことによって、ダメージは最小限に抑えた。たとえば「セレサージュ代官山」では一部の区画をポップアップストアとして活用。月によっては通常のテナント賃貸以上の収益を得られるようになっているという。
同社では今後も継続的な商品展開を目指す。ソリューション二部の村上龍二部長は「当社の年間の物件販売棟数は20棟ほどですが、そのなかから『セレサージュ』として年間に2~3棟ほどの商品を組成していきたい」と話す。
ミサワホームなども参入 ローンチに向けた準備も
多くの需要を集める不動産小口化商品。そのなかで、業界各社も取り組みを進めている。
たとえばミサワホーム(東京都新宿区)では12月6日にグループ初の不動産小口化商品第1弾案件として「ミサワ スマート ファンド日暮里」の出資募集を開始した。組み込む物件は19年竣工の賃貸マンションで、利回りは3・53%を想定、運用期間は10年間となっている。1口100万円から出資することができる。
また既に不動産特定共同事業法における免許を取得して、第1号案件発表に向けて準備を進めている企業もある。新規参入や商品の発表が続いていきそうだ。
相続対策商品としての性質がクローズアップされがちだが、いちごオーナーズ・纐纈氏が指摘するように、株式よりもリスクを抑えながら国債や預金などよりもしっかりと利回りを確保する、資産運用商品としても注目される。不動産小口化商品に対する見方が変わってくるかもしれない。
顧客層の間口拡大へ
いちごオーナーズ 代表取締役社長 纐纈雅彦氏
「いちごオーナーズビルシェア」は想定以上のニーズを得ることができました。第1号は運用を開始いたしましたが、「投資したかったのにできなかった」という声も多く、その方々には今後展開する第2号への投資のご案内を始めています。当社としてはこの取り組みで、これまでアプローチしきれていなかった層に対して商品を供給できたと考えています。今後はより一層のPRを行いながら、コンスタントに商品を展開していきます。