不動産トピックス

【今週号の最終面特集】2022年のビル経営ビジョン

2022.01.06 14:58

注目されるプラスαのテナント支援 M&Aや不動産価格高い水準で出口戦略多様化か
 2022年以降の中小ビル経営は一層の戦略が求められていく。たとえばテナントとの関係性。「テナントリレーション」が数年前より注目されているが、その先にあるのはベンチャー企業などの事業支援だ。またオーナーの出口戦略も熟慮が必要になっている。ビルオーナーにこれからの経営戦略を聞いた。

オーナーとテナントの関係性 ベンチャーには経営支援型も
 コーヨー(千葉県松戸市)は東京メトロ銀座線「稲荷町」駅、都営地下鉄大江戸線・つくばエクスプレス「新御徒町」駅双方からアクセスできる場所に立地するテナントビル「上野コアビル」のほか、松戸エリアで複数棟の賃貸レジデンスやテナントビルを保有する。同社東京支店長の中島賢氏はこれからの不動産業界でのトピックスとして、5つのテーマを挙げた。
 ひとつはテナント支援の形として「経営支援型」の台頭だ。スタートアップやベンチャー企業が入居している場合に、オーナーがテナントの経営や事業拡大をバックアップしていくケースは増えている。顕著なのがデベロッパーの支援。多くの事業者で場所としてシェアオフィスを用意するとともに、そこにテナントだけでなくVCやメンターとなりうる有力者を招くなどしている。中小ビルオーナーでもこのようなケースは増えていて、コーヨーや高木ビル(東京都港区)、あるいは「弦本ビル」などが挙がる。中小とは言い難いが、非不動産業界からもシナネンホールディングス(東京都港区)が旧本社ビル「SNビル」を活用して20年に立ち上げたシェアオフィス「seesaw」なども挙げられる。  中島氏自身もこの手法でテナントの支援を行う。「上野コアビル」には有力ベンチャー企業が入居する。彼らの課題は様々だ。
 「ビルに入居しているベンチャーのなかには日本滞在歴が長い中国人が日本で起業した会社が複数社あります。彼らの事例で見ますと、国内でも着実に実績をあげている一方で、急速に成長するベンチャーならではの人手不足に悩まされていたりします。私は不動産業界に入る前にプログラマーとしての実績がありますので、その経験を生かして新しいサービスの開発を支援したり、あるいは資金調達のために金融機関やVC向けの事業計画書作成を担当するなどの支援を行っています」(中島氏)
 入居企業の経営を支援していくことはビル賃貸業にもプラスに働く。長期入居につながることはもちろんのこと、空室が出た際にも内部増床や知り合いの経営者の紹介などがあり得る。それに加えて中島氏は「収益面でもプラスになる可能性がある」と指摘する。それがストックオプションだ。当該企業が上場などを果たせば多額の利益を得ることができる。新興企業が集まりやすい中小ビルならではの収益源となりうるわけだ。

事業買収先としても熱視線!?不動産市況は依然高値安定か
 2つ目に挙げるのが、企業買収先として注目を集めていることだ。これについて中島氏は次のように明かす。
 「知人のM&A業界関係者と話す機会がありましたが、コロナ禍のなかで多くの企業経営者が本業以外にも安定した収入を、と考えて不動産賃貸業・管理業を営む企業の買収の検討を行っていると聞きます。特に中小のビル保有会社・管理会社などは買収価格も手ごろになるため、『手掛けやすい』というのが買収側の見方のようです」
 賃貸業、管理業いずれにおいても安定した収益を期待できることは多くの企業にとって魅力となっている。また支店や支社を開設するにあたって、物件を保有するケースもある。
 そして、これとリンクしてくるのが不動産市況、そしてそれに対するオーナーの出口戦略だ。
 不動産価格が高値安定を続けている。コロナ禍で事業環境が厳しくなる中で、保有不動産の売却が進み市場が調整局面に入るのでは、と見る向きもあった。しかしその予想は当たらず、依然として高い水準を維持している。金融環境もこれを支える。世界的には金利の正常化への動きもある一方、国内ではゼロ金利政策からの脱却を図る動きは見られない。
 外国人投資家の動きも注目される。中島氏は「東アジア各国都市に比べても日本不動産は割安で、コロナ禍収束と円安傾向が進むことを前提とすれば、投資妙味は増すでしょう」と指摘する。
 これらはオーナーの出口戦略にも関わってきそうだ。コーヨー東京支店では不動産に関する無料相談を行っている。中島氏によれば「近隣の方からデベロッパーに土地売却の話を持ち掛けられていると相談に来られる方が多くいらっしゃいますが、逆にデベロッパーから土地をまとめて開発するという話もしばしば聞きます」と話す。なかには相場価格よりも3割ほど上回る価格での買取を提案している事例もある。
 「売却するなら今がチャンス」。こういう声も聞こえてくるが、中島氏は「切迫した事情がなければ売り急ぐ必要はないのでは」と指摘する。その理由はこうだ。
 「コロナ禍が金融危機に発展することはなく、不動産市場は軽微な影響ですんでいます。金利についても不動産市場にとってポジティブです。現状の不安要因は、突発的な自然災害くらいです。そういう環境でのオーナーの立場から私の見解を言いますと、売り急ぐことは足もとを見られる可能性があるということです」

遊休不動産の活用に光明 セカンドハウス需要も
 22年のトレンド予想として、中島氏が5番目に挙げたのが意外にも「遊休不動産活用」だ。
 実はコロナ禍は新しい不動産活用を生み出した。リモートワークの普及やICTの普及で、どこでも働くことのできる環境が整いつつある。実は「米国では『ワーク・フロム・ホーム』として別荘不動産を購入する動きが加速しています」という。
 国内ではバブル期に加熱した別荘系不動産が民泊として国内需要を得ているという事例もある。バケーションレンタルはコロナ禍で縮小気味であるが、アフターコロナも見えてきている。22年のトレンドに、とはいかないかもしれないが、形を変えて「別荘民泊」が過熱してくるかもしれない。

大量供給を控えて魅力発信課題に
 「弦本ビル」を保有する弦本卓也氏。同ビルは起業したい若者が集まる場所として知名度を持ち、現在までに様々な起業家を輩出。そのなかには大手企業との提携や、上場企業に成長事業を売却し新たな道を歩みだした人も多い。
 「弦本ビル」では「経営支援型」のテナント支援をオーナーやテナント含めたビル全体で行ってきた。その柱となっていたのが、コミュニティの強さだ。だからこそ、弦本氏は「コロナ禍は大きな痛手でした」と話す。
 しかしながら、オンラインに取り掛かることで、新しい層の参加も見られる。
 再び東京では大型オフィスの大量供給が予定されている。中小ビルオーナーにとっては現在のテナントをつなぎとめ、新しいテナントへの魅力をどう発信するかは課題。テナントの状況によっては、関係性を構築しながら踏み込んだ形での支援も考えてみたい。


オーナーの「見極め」重要に
コーヨー 東京支店長 中島賢氏
 テナント支援からM&A、また出口戦略等、オーナーにとっては「見極め」が重要なポイントとなります。たとえばテナント支援という点では、賃貸借契約時にだいたい3期ほどの業績資料を見ていますが、そういうところからヒントを見つけられることが肝要です。M&Aや出口戦略は市況に対する見極めとなります。引き続き、業界内外の動向にアンテナを張りながら情報をキャッチしておく必要があります。

ハードとソフトでますます価値を生み出すビルへ
弦本ビル オーナー 弦本卓也氏
 「神保町」駅から徒歩5分の場所に「弦本ビル」を所有しています。2015年に購入してから、コワーキングスペースやシェアハウス、飲食店と「職住食」が揃い、賃料も相場に比べて割安であったことから、多くの若手起業家が集まってビル内で切磋琢磨を続けてきました。これまでに大手企業と事業提携を行ったり、成長した事業を上場企業に譲渡したりと実績が出ています。そのなかでコロナ禍はビルの強みであるコミュニケーションを図っていくイベントなどができなくなり、大きな痛手となりました。そのため、コロナ禍以降はオンラインでイベントを開催していきました。これまではビルに来てもらうことが前提となっていたイベントをオンライン化することで、より多くの人が参加しやすい形を作ることができました。イベントの内容をアーカイブで公開することによってリアルとオンラインの融合や、イベント後の継続的な交流の仕組みも整いつつあります。
 今後はハードとソフトを組み合わせることで、リアルの「拠点」の価値を残しつつ、その価値をオンライン上で拡大していければと考えています。またソフト面で深く求められている入居者のニーズを建物のハード面にも展開していきたく考えております。ハードとソフトを組み合わせていくことで、入居者や関係者により深い支援や価値を提供できるようにしていきたく考えています。




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