不動産トピックス

【今週号の最終面記事】発想力が光る!不動産活用新モデル

2022.02.14 10:37

大家の「逆指名」や新規事業発足 リーシングに頼らず収益確保を狙う
 コロナ禍のなかでリーシングに苦戦するケースは多い。それを打開するには物件情報の積極的な発信や付加価値向上など様々な施策が挙げられる。その中に加えたいのが、これまでのリーシングに頼らない手法。自らのアイデアで物件を再生、という事例が出てきている。本稿ではそのような2つの事例を紹介する。


「さかさま不動産」で遊休不動産を活性化
 人口減少が続くなか、不動産業界で課題となっている「空き家問題」。様々なアプローチが出ている中で、「さかさま不動産」という不動産サービスが注目を集めている。
 運営するのは、On―Co(三重県桑名市)。代表取締役の水谷岳史氏が2011年頃より空いている長屋を活用したのがきっかけ。「誰もが自由に挑戦と失敗できる空間をつくりたい」という想いから、約10軒の空き家をリノベーションして飲食店やレンタルスペース、シェアハウスなどとして活用してきた。
 水谷氏は「空き家情報は、起業など何かに挑戦したい人にとっては有益な情報です」と指摘する。そこで人と物件をマッチングするプラットフォームとして、20年6月に「さかさま不動産」を立ち上げた。
 立ち上げて約1年半。これまでに10軒のマッチングを実現させている。「さかさま不動産」は不動産ポータルサイトとしては異色で、物件情報を載せていない。載せているのは、物件を借りたい人がどういうことに挑戦したいのか、というビジョンと想いだ。貸主はこのサイトで気に入った借り手候補に直接アプローチして、合意に至れば契約する。
 空き家が発生している背景には、所有者にとって空き家に思い入れがある、というケースが多い。「誰でもいいから貸したい」とはならず、物件情報を掲載するポータルサイトには掲載しにくい。「さかさま不動産」のように借りたい人の想いを載せて、貸主が「逆指名」する形は所有者にとってもハードルが下がる。

挑戦者を開拓 支局制度も
 水谷氏と共同で代表取締役を務める藤田恭兵氏は「『さかさま不動産』の考え方の認知度を高めて、マッチングを増やしていきたい」と意欲を見せる。そのなかで、新しい試みも始める。  そのひとつが支局制度。地域に根付いて事業活動を行っている人たちに、各エリアで挑戦者や空き家などの開拓を進めていく。「さかさま不動産」での空き家再生モデルの再現性を高めていくことで、「地域にとって効果的な空き家の利活用とは?というテーマを掘り下げていきたい」と話す。
 さらに行政との連携も強める。
 「現在、名古屋市と連携して行っている商店街の空き店舗をスタートアップ企業に貸し出して実証実験の場と見立てる、『商店街ディイスカバリープロジェクト』の計画があります。『さかさま不動産』においても、地域にこれまでなかった施設を誘致することで活性化につなげてきました。地域の商店街にもこの手法を用いることで、再活性化を図っていきたいと考えています」(藤田氏)  自社での古民家活用とこれまでの「さかさま不動産」などでの実績をもとに、今後も様々なプロジェクトが立ち上がっていきそうだ。

テナント退去を機に新規事業を構想
 ビルを活用して付加価値向上を実践。このような話題は大小様々なオーナーが実践している。人材派遣・人材紹介を行うジョビア(横浜市神奈川区)が新規事業として取り組む「SustainuS(サステナス)」は新しい活用事例として注目される。
 同社ではこの新規事業を昨年11月30日に発表。今年1月には東急東横線「東白楽」駅から徒歩2分の場所にある本社ビルを第一号物件「SustainuS」としてオープンした。
 新規事業「サステナス」はサステナブルの動詞形「Sustain」(持続する、活かす)というワードと、「私たちを」を意味する「us」を合わせて生まれた造語。2020年から続くコロナ禍で大きなダメージを被った企業、ワーカーやテナント獲得が困難になった老朽化ビルを活用して持続させる、という想いを込めた。
 同ビルは5階建て。ジョビアが本社オフィスとして使用するとともにテナントも入居していたが、コロナ禍などが影響して退居。その後のリーシングも厳しいなかで、今回の事業構想に至った。
 この「サステナス」の取り組みとして注目したいのが、1~3階での活用法だ。3階にはハーブや葉物野菜、エディブルフラワー(食用の花)などをLEDで育てる水耕栽培の「SustainuS farm」、2階にはその収穫物を利用して製造加工する「ICONIC STAGE kitchen」を開設。そして1階にそれらの製品を消費者に提供するSHOPとCAFE、「ICONIC STAGE」をオープンした。栽培から製造加工、販売提供までを一気通貫にした「六次産業」と「店産店消」の双方を実現させた。
 LEDでの水耕栽培ではいずれの野菜も通年育てることができて、6週間ほどで収穫することができる。電気代もLEDを使用することでコストを抑える。2階では食品製造業の許可を取得。現在は1階のカフェとショップで提供するが、将来的にはECなどでの販売も検討する。出張料理人/フードプロデューサーとして活躍するマカロン由香氏がカフェとショップの空間コーディネートからメニュー考案までを監修した。
 同社ではまず、第一号物件「SustainuS」の運営を軌道に乗せていくことが目標。そのうえで中長期的には他の中小ビルオーナーに対してのプロデュースなども行っていく考えだ。
 コロナ禍でビル経営は不透明感にさらされている。加えて、中小ビルでは築古化も進む。不動産を生かして事業を起こす。このような活用法はより積極的に検討されてもいいのではないか。


空き家モデルを提示
On-Co 代表取締役 藤田恭兵氏
On-Co 代表取締役 水谷岳史氏
 当社設立以前より古民家活用などで実績を積んできたことがベースとなり、「さかさま不動産」は誕生しました。何かに挑戦したいと考えている借主が想いを伝えて、貸主が指名してマッチングしていく形は、空き家活用のひとつのあり方を提示できていると思います。空き家活用と地方創生、起業支援という3つを軸に今後も積極的に事業を展開していきます。


ビルと既存事業を生かす
ジョビア 代表取締役社長 吉備カヨ氏
 当社は1959年の創業以来、女性の就労支援に強みを持ちながら人材派遣・人材紹介の事業を展開してきました。新規事業である「サステナス」はこのような当社事業とビルの双方を生かすことができる取り組みとなっています。今後のビル経営の数多くあるモデルのひとつになれるよう、「サステナス」に注力していきます。プロジェクトをスタートするにあたってビルの改修も行いました。随時見学ツアーも受け入れておりますので、「サステナス」をご体感いただけますと幸いです。




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