不動産トピックス

【今週号の最終面特集】オフィスリーシング新時代到来!?

2022.02.28 10:46

増える居抜きオフィス
ビルオーナーの認識広がる セットアップオフィスも人気

 「居抜きオフィス」と「セットアップオフィス」。近年、需要増加の賃貸オフィスの形態だ。ビルオーナーにとってはリーシングで有利になる面もある一方で、原状回復工事がなされずに新テナントが旧テナントからオフィス家具などを引き継ぐため、トラブルも起きやすい。ビルオーナーが把握しておきたいポイントは何か。
オーナー層も積極的に 居抜き希望テナントも増加
 コロナ禍以降、空室率が上昇を続けているオフィスビル業界。退去テナント(前テナント)が原状回復工事をせずに、内装やオフィス家具をそのまま、入居テナント(新テナント)に譲渡する「居抜きオフィス」が増えている。前テナントにとっては、原状回復費用が掛からず、オフィス家具などを撤去し廃棄処分とする必要もなく、新テナントにとっては、内装工事をすることなく入居できる「居抜き」システム。従来はオフィス物件では少なかった形態がなぜ今人気なのか。
 居抜きオフィス物件サイト「vivit」を運営するスリースター(東京都港区)の広報部兼マーケティング事業部兼セットアップオフィス事業部部長の福田勇人氏は、「以前は『うちは居抜きはやっていません』と消極的なオーナーが多かったのですが、コロナ禍以降、オーナー層の承諾を得られやすくなりました」と語る。
 空室率が上がったことにより、オーナー層が新しいリーシング形態に柔軟になった背景があるようだ。さらに居抜き退去を希望するテナント、居抜き物件を探す企業ともに増えているという。 
 居抜きオフィスの物件検索・登録サイト「ハイッテ」には現在約230件の居抜き入居募集物件が掲載されており、検索条件には「什器付き」、「スケルトン」、「OA」など居抜きならではの項目が並ぶ。2020年5月のサイトオープン当初に比べ、掲載物件数は大幅に増加している。  「ハイッテ」を運営するIPPO(東京都渋谷区)代表取締役の関口秀人氏はオーナー層の意識の変化を次のように語る。
 「居抜きオフィスで募集するハードルが低くなったと痛感しています。『やったことがないし面倒そう』と、敬遠していたオーナーもいましたが、今は大手ビルオーナーでも居抜き退去が可能な物件がほとんどです。デベロッパーや管理会社との打ち合わせでも、以前は全く話題にならなかったのですが、『この物件は居抜きオフィスでおすすめ』という情報が出てくるようになりましたし、リーシングでは居抜きオフィスの室内写真をつけるケースも多くなっています。成約も増えていますね」 
 原状回復工事をする必要がないとはいえ、ビルオーナーが法律面で押さえておくべきポイントもある。
 弊紙でコラム「不動産オーナーの法律学」を連載中のしぶや総和法律事務所の代表弁護士・綾部薫平氏は、「原状回復に関する正しい理解が必要になる」という。 
 また、居抜きの新旧テナント間の「資産譲渡契約」では、オーナー自身は当事者にはならないが、把握しておくべきこともある。

前テナントの責任明確に 特約で対応を
 「無償またはかなりの低額での譲渡となるのが通常であると思います。譲り受ける側は、何か不具合があっても自己責任として受け入れるのが、社会常識に叶うと思います。そのため、契約書には『現状有姿での引渡しであり、何か不具合があっても責任を追及しない』と明記しておくのがよいと思います。稀に、リース品など第三者の所有物が、居抜き物件に残っていることがあります。その場合、新テナントが処分をしてしまうと、後のち、所有者である第三者から、損害賠償請求をされることがあります。正しい情報を伝えなかった前テナントが悪いので、予め資産譲渡契約には『室内に第三者の所有物があり損害賠償請求を受けた場合には、前テナントが責任を負う』との条項を入れておくのがよいと思います」(綾部氏)という。新テナントが引き継ぐとはいえ残置物には要注意だ。ビルの図面も必要になることもある。 
 「居抜きが上手くいくケースは、ちゃんと図面や工事記録が残っているビルですね。どこまでを原状とするか。過去の工事図面なども必要になりますし、オーナーもかかわることになります。原状回復費用を後継テナントに継承することになるので、早めに原状回復の見積もりを取ってもらうことが必要です。それを後継テナントに、将来、退去する時にはこのくらいの費用がかかります、と伝えなければなりません」(福田氏) 
 今後、通常の賃貸借契約の一形態として「居抜き」が定着する前に、しっかりと理解したうえで取り組むことが肝要だ。
 また、同様に「セットアップオフィス」も増えている。オーナー自らが空室にオフィス内装を施したうえでテナント募集をする形態だ。「セットアップオフィス化もオーナー様に勧めています。空室対策には賃料値下げか長期フリーレントが主流ですが、賃料を下げる代わりにセットアップオフィスの方がいい場合もあります。セットアップオフィスの種類も増えており、内装を造りこむパターンもあれば、レンタル什器を並べるだけのパターンもあります。初期費用をかけずにセットアップオフィス化する方法もあります」(福田氏)。 
 次々に新商品ならぬ新形態が生まれるオフィス賃貸。「今後もオフィスの需要はなくならないと思いますし、コロナ収束後はもっと様々なオフィスが生まれるでしょう」(福田氏)
 新しいリーシングで新テナントを迎えるため、オーナー側も準備万端にしておきたい。


トラブル避けるノウハウを蓄積
スリースター 広報部兼セットアップオフィス事業部 部長 福田勇人氏
 2017年頃から当社サイトのなかでも居抜き物件が多く検索されるようになり、問い合わせも増えたので専用サイトを作りました。コロナ禍によって更に居抜きの需要は更に増えました。掲載物件数も登録者数も大きく増えています。居抜きで出たい、というテナント企業が増えているということです。30坪~50坪の居抜き物件が人気があります。「居抜きだからこそ早く決まるケースもあります。居抜き希望の企業は、エリアではなく、広さ、会議室の数などを重要視する傾向があります。トラブルを避けるためのノウハウも蓄積できました。オーナー様におすすめする際には安心できるような資料をご提供できればと思います。

オフィスの選び方どう変わった
IPPO 代表取締役 関口秀人氏
 以前は「オフィスの広さは、社員1人当たり2坪」という基準で物件を探していましたが、現在は快適坪数の算出が難しくなりました。テレワークやフリーアドレスが浸透し、出社率も低下しています。オフィスを探す企業の中には、なぜこのオフィスを設けるのか定義づけしてほしい、オフィスをどう選択したらよいのか分からない、という悩みがあるようです。例えば、「この居抜きオフィスはどうか」という提案に対し、「なぜ居抜きがいいのか、その坪数の根拠は何か」などと、顧客それぞれにふさわしい提案理由も同時に提示しないと成約までつなげるのは難しいと実感しています。WeWorkのようなサービスオフィスが適応する企業もあるし、自社オフィスでカルチャーを重視したい、またはセットアップオフィスでコストをかけずに自社オフィスを持ちたいという考えの企業もあります。

契約書に明記を
しぶや総和法律事務所 代表弁護士 綾部薫平氏
 居抜きの場合は、新テナントは、借りた時点の状態に戻せばよいのか、前テナントが借りる前のスケルトン状態にする必要があるのか、契約書に明記をしておかないと、退去時に紛争になる恐れがあります。 現在の動産の所有権が誰にあるかにも、注意をして、明確にしておく必要があります。 第三者の所有になっていると、極端なことをいえば、オーナーも、テナントも、何もできないという事態も生じ得ます。  また、原則として、物の所有者が、その物の修理や交換をすることになるので、オーナーの所有物であっても、そのようなコストを掛けたくない場合は、テナントが費用負担する旨の特約を設けておく必要があると思います。




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