不動産トピックス

【今週号の最終面特集】注目高まる不動産STO 最新動向と普及への鍵

2022.03.22 10:52

金商法改正で業界内で機運増大 取引市場での売買実現すれば小口化に弾み
 セキュリティ・トークン・オファリング、略してSTO。昨今、「デジタル証券」とも言われるものだ。国債や社債、信託受益権などの有価証券などをトークンとしてブロックチェーン上で流通させることができる。業界内でもこれに取り組む動きが出ている。普及していくためのポイントは2つある。STOを取り扱う取引所の開設と、二次流通性を確保できるかだ。

大手企業も参入 コスト減など利点
 不動産業界では既にいくつかの事業者がSTOに取り組む動きを見せている。2021年はこの分野における「元年」になったとも言えそうだ。
 事例を紹介しよう。三井物産デジタル・アセットマネジメントは昨年12月24日に個人投資家向けとして「六甲アイランドDC」の信託受益権の一部をデジタル証券化したファンドを組成した。資金調達額は7・6億円。これに続いて、三菱UFJ信託銀行と野村證券と協業。三菱UFJ信託銀行が提供するブロックチェーン基盤「Progmat」を活用し、不動産を投資対象とした資産裏付型セキュリティトークンの公募を実施していくと発表している。昨年12月24日時点で用意している案件が約600億円。今後3年以内に1000億円以上の運用残高を目標とする。またケネディクスが三菱UFJ信託銀行、野村證券、SBI証券と共同で不動産STOに取り組む。「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南」として8月12日より運用を開始している。
 業界で急速に取り組みが広がる理由は何か。不動産ブロックチェーン情報メディア「PROPWAVE」を運営するPictors&Company(東京都新宿区)代表取締役の水口史椰氏は「事業者・投資家双方にとって利便性が高く、流動性の向上や商品の付加価値を高められることが期待されるからです」と指摘する。たとえば事業者側にとってはブロックチェーン上のプログラムを利用することで手続きをプログラムで自動化される。ブロックチェーンを利用していることからハッキングリスクも低い。管理コストが低減されることによって、小口化商品の展開が行いやすくなる。
 投資家側にとってはトークンを売買できる(二次流通)ことや、ブロックチェーン上で取引されることから決済がタイムラグなく行えることなどはメリットだ。グローバル取引にも対応していくことができる。

海外でも事例増えるPTS解説が普及のカギ
 海外でも不動産に関するSTOの取り組みは増加している。活発なのが米国だ。
 「たとえばコロラド州ロッキー山脈に位置する高級ホテルの一部所有権を裏付けとしたSTOでは約20億円の調達に成功し、話題となりました。サポートサービスも多くリリースされていて、法律に則って運用を自動化できるプラットフォームや、セキュリティトークンの二次流通ができる取引所も開設されています」(水口氏)
 日本は追う形だが不動産業界から金融、証券会社等が普及に向けて取り組みを進めている。そのなかで注目されるのが、「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」。PTS(私設取引所)として22年春から株式の取り扱いを開始。早ければ23年には国内初のセキュリティトークンの取引市場としても運用されていく予定だ。
 「私設取引所が活性化していくことでセキュリティトークンの取引事例が増加し、不動産業界でもSTOに取り組みやすい環境ができてくると思います」

ロードスターC STOの研究進める
 事業者の見方はどうだろうか。
 ロードスターキャピタル(東京都中央区)は不動産特化型クラウドファンディング「OwnersBook」やコーポレートファンディング、アセットマネジメントなどの事業を展開する。昨年末時点でクラウドファンディング事業での投資家会員数は2万5779人。AMの受託資産残高(AUM)は約290億円となっている。
 同社が昨年から取り組んでいるのが不動産STOに関する研究だ。

二次流通確保がポイント 実現すれば更なる妙味に
 不動産投資型クラウドファンディングでは匿名組合型出資契約がスキームに組み込まれている。運用期間中の売却はできない。一方で、デジタル証券ともよばれる不動産STOでの投資案件では取引所や流通市場が確保されていれば、二次流通が可能となってくる。クラウドファンディング事業者はここに注目し、各社研究や実証実験を進めている状況だ。
 ロードスターキャピタルでは昨年に入ってから調査研究を活発化。21年3月には情報収集のため日本STO協会に加入している。
 不動産投資型のクラウドファンディングには数年で多くの企業が参入。それに比例して、個人投資家への認知度も広がりを見せた。投資家にとってのメリットのひとつは、多くのサービスが1口1万円から投資できること。現物不動産は区分でも最低数千万円の投資を要する。「不動産投資の民主化」とも言われるように、敷居を下げることに成功している。また運用利回りの高さも魅力のひとつとなっている。これに加えて、個別企業ではJリート並みの情報開示など独自の取り組みを行うことで投資家からの支持を拡大している。ロードスターグループでも2018年に「OwnersBook」エクイティ型商品第1号案件を組成。昨年9月に売却。当初の想定投資利回り7・0%を大幅に上回る、20%前後の利回りでの配当が見込まれているという。こういった取り組みが投資妙味や期待感となってきた。
 STOで二次流通性が確保されれば、更なる投資家流入につながりそうだ。
 ロードスターキャピタル取締役で、ロードスターインベストメンツ(東京都中央区)代表取締役社長の成田洋氏は「『OwnersBook』でSTOを採用する上で、二次流通がしっかりと確保されていることがポイントになってくると考えています」と話す。現段階でも取り入れることは可能だが、二次流通は相対取引に限られる。業界内では既にSTOを取り入れた事業者もいるものの「譲渡制限」をつけるなどメリットは限定的。成田氏は「急がずにしっかりと調査研究していくことで、投資家にとってのメリットが最大化された形でサービスのなかに組み込んでいきたい」と話した。

證券本腰も不動産様子見 先駆け企業の成否も影響か
 証券会社も不動産資産を裏付けとしたセキュリティトークンの発行に積極的だ。たとえば昨年11月に東海東京証券(名古屋市中村区)はシンガポールのデジタル証券取引所(ADDX)を介したSTOビジネスを開始したと発表。不動産案件や地銀と協働した不動産などを裏付け資産とするセキュリティトークンを用いた資金調達の計画を進めている。同社グループのスマホ専業証券での展開を視野にいれている。このほかにも多くの証券会社が動く。またSTOに関するセミナーも開催されており、資金調達手段としてはもちろんのこと、新たな投資手段としての認知度も高めていくことになりそうだ。
 弊紙でSTOについて初めて取り扱ったのが2019年12月16日発行号。法改正前で実証実験がなされていた段階。SBI証券などが日本STO協会を立ち上げたのは19年10月のことだった。そこから2年が経過した。まだ取り組みも「実証実験段階」。インフラなどの環境整備が整っていけば譲渡制限がつかないセキュリティトークンも出てくることが見込まれる。
 業界内でこの分野に関連する取り組みを行っている企業は限定的だ。ただクラウドファンディングが盛り上がりとともに企業の参入が急激に増えたことは記憶に新しい。先駆ける企業の結果にも注目が集まる。


ICOの教訓からSTOへ
Pictors&Company 代表取締役 水口史椰氏
 数年前のトレンドとして「ICO(イニシャルコインオファリング)」がありました。これは企業や個人が投資家から資金調達をするために用いられてきました。ホワイトペーパーという事業やプロジェクトの概要等を記した文書を公開して資金を募ります。ただ法整備が追い付いていなかったことや、それに伴って詐欺的な案件も多かったことから現在は下火となっています。これに代わる形で実物資産を裏付けにしたSTOが注目を集めるようになりました。20年5月1日に金商法の改正も行われ、ルールも明確化されました。今後健全な市場環境のもとに大きく成長していくものとして注目しています。


金商法事業者の動向に注目
ロードスターインベストメンツ 代表取締役社長 成田洋氏
 不動産投資型クラウドファンディングサービスは不動産特定共同事業法の枠組みか、金融商品取引法の枠組みかに分かれます。金商法の許認可は不特法に比べて登録要件が厳しいためサービス数は少数となっています。昨今のSTOの取り組みの動向のなかには金商法事業者も含まれています。これらの事業者の動向なども確認しながら、当社としても検討を進めていきたいと考えています。


<取り組み事例>
・トーセイ…昨年11月24日に子会社のトーセイ・アセット・アドバイザーズが運用する国内不動産を裏付けとしたSTがシンガポールのデジタル証券プラットフォーム「ADDX」に上場。

・LIFULL…LIFULL Investmentとともに、不動産特定共同事業および小規模不動産特定共同事業への参入を検討中の宅建業者向けに専門士業によるライセンス申請サポートやSecuritize Japanとの協業によるSaaS型クラウドファンディングプラットフォームを提供。このなかでは不動産STOによる二次流通スキームの提供も含まれる。またLIFULLではブロックチェーン技術を活用したSTOを提供するHash Dash Holidingsと資本・業務提携も。




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