不動産トピックス

【今週号の終面特集】IoTで進化するビル管理

2022.03.28 10:59

広まる環境センシング
沿革で確認、スマホでビル管理 バリューアップでリーシング有利にも
 ワークスタイルの多様化が進んでいるが、オフィス環境を含む建物の管理手法も大きく進化している。IoTを駆使し、センシング技術で環境整備が手軽にできるようになればビル管理も大幅に効率化できるはずだ。最新の手法をご紹介。

オフィス環境見える化実証実験
 センサーを活用し、温度・湿度・CO2濃度や、ほか様々な情報を収集し、環境の安全性・快適性を測定する「環境センシング」。オフィスの環境整備にも導入・実用化が進んでいる。
 東京建物(東京都中央区)が運営するシェアオフィス「+OURS(プラスアワーズ)新宿」。ネットワークインフラを構築し、オフィス環境の見える化と室内のCO2・温度・湿度を計測する実証実験が先月より開始された。
 東京建物をはじめ、テクサー(東京都新宿区)や凸版印刷(東京都文京区)等によるこの実験は、ZETA通信(※1)を活用し、「+OURS新宿」(約422坪)内の様々な状況をセンサーで計測。取得したデータは見える化・数値化し、管理者側が環境の改善に役立てる。各社それぞれの強みを生かし、より快適なオフィス環境・サービスの提供を目指す。
 80台のテーブルセンサーを設置し、既に多くの企業で利用されている座席利用状況の可視化サービス「nomachiR」およびZETAプラットフォーム「ZETA DRIVE」(※2)を凸版印刷が提供し、テクサーが開発したオールイン型のワンストップIoTソリューションパッケージ「ZETA App Kit」を活用。東京建物が今後シェアオフィスを展開していくなかでの設備の配置計画などへ向け約半年から1年をかけてデータを取得する。
 オフィスの混雑状況ほか室内の温度・湿度などをセンサーで感知し、そのデータが数値化・見える化され管理者側にリアルタイムで表示されることで、利用者からの申し出がなくともオフィス環境はスムーズに改善される。現在のオフィスでは、いまなお「暑い」、「寒い」、「換気はどうなっているか」などは管理者側に都度、申し入れて改善という手間をかけなければならない場合が多い。テクサー代表取締役CEOの朱強氏は、「今まで、オフィス内個別エリアの換気状況は定量的に図っていなかったことが多いようですが、当社のオールイン型のワンストップサービスで24時間計測、見える化が実現できます。空調の制御や、補助的にサーキュレーターを入れる必要性など、より適切に改善の必要あるかどうかなどの判断材料を提供します」と語る。
 オフィスやビル全体の環境管理が効率化されれば物件のバリューアップにつながる。だが最新技術の導入はコスト等から慎重な判断を要する。
 「IoT導入は導入するまでが複雑でした。センサーを買ったり、アプリが必要になったり、インフラを作らなければならなりません。必要なツールがバラバラに存在しているとパッと飛びつけない。そこで、オールインワン型のワンストップサービスです。一番初めの導入こそ、しっかりとしたものを入れていかないと、IoTの活性化につながりません。簡単なオールインワンが一番でしょう。設置も含めて1日ですぐに実現できます。今はビル内の漏水、設備の電流値や振動、ビル周辺の気象情報まで無線で監視しスマホで管理できる時代です。有線でつながっていたものが、ZETA通信の無線センサーによって反映できます。有線なら電源や通信工事が必要ですが無線なら不要。長時間稼働も可能でビル管理に合っているのがZETAの特徴です」(朱氏)
 「nomachiR」等の既存サービスに加え、さらに様々な機能を持ったオールインワンであれば導入も比較的容易になる。ビル全体ではなくとも、ワンフロアのみの活用からスタートすることも可能だ。環境センシングを備えたフロアはリーシングにもつながりやすくなる。
 またここにきて増加しているコワーキングプレイス、シェアオフィスなどのフレキシブルオフィスでは、快適な環境か否かが、利用者がオフィスを選択する際の重要なポイントにもなる。
 東京建物ビル営業推進部 営業グループ シェアオフィス事業担当課長代理の谷口誠氏は、シェアオフィスの運営・開設をする立場から次のように期待を語る。
 「今回の実証実験の目的は、各社が有する技術・サービスをシェアオフィスに導入するに際し、改善点や発展性を探ることです。現時点でも貴重なデータが集まってきていますが、更に改善・発展したサービスが、本施設の改善につながることはもちろん、次の施設展開に生かすことができればと期待しています」
   ビルオーナー、施設運営側、利用者が「三方よし」となる「環境センシング」今後のビル運営にいち早く取り入れ、バリューアップに役立てたい。


より快適な就業環境を
東京建物 ビル営業推進部営業グループ シェアオフィス事業担当 谷口誠氏
 シェアオフィス「+OURS」の利用状況は、コロナ禍の影響により一時減少しましたが、テレワーク需要の増加もあり、回復傾向が見られます。企業が「あるべきオフィスや働き方とは」を模索するフェーズのなかで、フレキシブルオフィスへのニーズは今後も増加するでしょう。環境センシングを活用し、より快適な就業環境を提供していきたいと思います。

地域全体で展開していきたい
凸版印刷 生活・産業事業本部 環境デザイン事業部 まちづくり本部 係長 土谷滝氏
 当社が2020年に開発した施設混雑状況の可視化サービス「nomachiR」は、コロナ禍の感染症対策や、働き方改革として生産性を上げるために空いている席を探す時間を減らしたいといったニーズなどがあり、導入事例が広がっています。
 「nomachiR」のコンセプトである「街から待ちをなくす」の実現に向けて、今回の実証実験のような施設単位からいずれは地域全体で展開していきたいですね。より範囲を広げて多くの人に使っていただけるサービスにしたいと思っています。
 また混雑状況の可視化は、感染症対策や座席の可視化に留まらず、次にどんな新しい価値が提供できるかが重要と考えています。
 今回の実証実験では、ワークスペースの需要が増えるなか、どの席がどのように使われているのか、データ分析することで次の空間づくりに生かす、また利用者サービスに生かすというように、データを活用した次のご提案に進めていく予定でいます。

安いコストで実現できる技術
テクサー 代表取締役CEO 朱強氏
 もともと、私たちはスマートビルディング分野で東京建物様と3年ほど前から協力体制にありました。日本橋、八重洲などの東京建物様のビルメンテナンスの分野でセンサーを利用し遠隔でモニタリングをするなど、メンテ作業をデジタル化していました。今回は、その技術を生かしています。データを吸い上げ、いったんクラウド上に集めます。それがZETA DRIVEというプラットフォーム。プラットフォーム上の個々のデータをAPI連係によってZETA App Kitなどのアプリに取込み、これを可視化・表示させるのが私たちのサービスです。
 オフィス向けにどういった用途があるかとヒアリングしたところ、利用状況の把握という声があり、そこで、環境や設備の利用状況の見える化を安いコストで実現できる我々の技術、ZETA LPWANでできないかと提案し、今回の実証実験となりました。当社のオールイン型のワンストップサービスで24時間計測、見える化が実現できます。

<用語解説>
※1 ZETA通信: ZiFiSense社が提唱しているLPWA規格で多チャンネル・低消費電力双方向通信が可能
※2 ZETA DRIVE: ZETA通信に必要なサーバーとZETAで収集したデータを見える化できるアプリを兼ね備えたプラットフォームサービス。デバイス管理を行うZETAサーバーは凸版印刷が培ったデジタルサービス開発・運用のノウハウと高水準なセキュリティ基盤を生かしてクラウド上に構築、収集したデータの見える化を行うセンサーデータ閲覧システムにより、データの収集、管理から見える化までを一貫して行う。




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