不動産トピックス
【今週号の最終面特集】どこで働くか?増える選択肢 ワークスペース多様化新時代
2022.05.09 10:59
イベント感覚のワークスペース好評 野球の試合前のグラウンド身近に
働き方の多様化が加速している。オフィスの固定席で一斉に全員が同じ時間帯に働く時代は今や昔。「どのように働くか」、その中には「どこで働くか」という場所の選択もある。テレワークが定着した今、働く場所はオフィスだけではない。カフェや自宅、駅なかの個室ブース、さらに、野球スタジアムの一画も我々の選択肢に入っている。
東京ドームのラウンジを仕事場に提供
三井不動産(東京都中央区)が展開するシェアオフィス「ワークスタイリング」は先月、「東京ドーム」をワークスペースとして提供するという初の試みを実施した。
通常は野球の試合や大規模なコンサートなどのイベントが行われるスタジアムであるが、4月20~21日、26~28日の5日間の期間中は「ワークスタイリング」の一拠点となり、ドーム内の1塁側プレミアムラウンジがワークスペースとして提供された。時間帯は朝8時から午後2時まで。8時15分からの30分間は、グラウンドを舞台にしたフィットネスイベント。読売ジャイアンツチームの公式マスコットガールの元メンバーが講師となり仕事開始前に体を動かすというアイデアは予想以上に参加者の関心を引いた。毎回、多数の会員が集まったという。
本来は食事や会話を楽しみながら試合観戦をするラウンジのデスクにWi―Fiや電源、充電器等のオフィスツールを用意したワークスペース。視界に入るグラウンドでは整備作業が行われ、大画面モニターでは過去の読売ジャイアンツの試合模様やニュースの映像が流れる。
非日常的なイベント感覚を味わいながらのワークスペースは、各日30~40名が参加し、5日間合計で約150人が経験した。参加者からは「新鮮で楽しかった」、「また東京ドームで働いてみたい」、「開放的な空間で良かった」といった好評コメントが得られた。
いち早く新しい働き方を 先手を打ったサービス提供
2017年に立ち上げた「ワークスタイリング」は当初のサテライトオフィスサービス「ワークスタイリングSHARE」のほか、社会の働き方の変革に対応し、2018年4月には1カ月単位、1席単位から柔軟に利用できる「ワークスタイリングFLEX」、同年5月には宿泊もセットとなる「ワークスタイリングSTAY」、コロナ禍となった2020年の12月には、個室特化型サテライトオフィス「ワークスタイリングSOLO」と、新しい利用形式を提案。2022年現在、約800社と契約。全国に146拠点、会員数は約23万人の規模となっている。
企画を主導した同社ビルディング本部ワークスタイル推進部ワークスタイリンググループ主事の高木諒平氏は、「事業をスタートした2017年は、会社の外で働くことがまだまだ一般化していない時代でした。コロナ禍による影響もありますが、現在は、会社・自宅・サードプレイスを組み合わせてベストミックスを選択し、模索して働く時代になっています。当社ではいち早く、そのような新しい働き方の提案ができたと自負しています。常に働き方の変化の先手を打ったサービスを提供していきたいと思っています。更に、今は働き方の場の多様化、働く機会の多様化が加速度的に進んでいます。そのスピードに負けないように、新しい提案していきます。働く方からも、『そんなところで働く選択があったのか』とか、『そういう働き方、いいね』と思ってもらえるようなサービスや場づくりをしていきたいですね」と、コロナ禍前後の変化に柔軟に対応してきた三井不動産の姿勢を語る。
環境クォリティを重視 セキュリティ機能アップ
今回の東京ドームを利用したワークスペースは、野球の試合などのイベント予定のない時間帯に、既存のラウンジのテーブルと椅子をそのまま使用するが、通信関係など、今のワークスペースで重要な「働く環境」をしっかりと整備したうえでの提供だ。
「ネットワーク関係は特に、セキュリティの水準を上げています。会員の皆さんが安心して働くことができるように整えました。企画担当として常に重視しているのは、働く場のクォリティです。オフィスビルの中で働く場を提供すること自体は誰でもできます。当社では、それ以外の選択肢まで提案することも進めています。今回の東京ドームのように、普段と違う環境で働く。そんな提案を引き続き模索していきたいと思います」(高木氏)。
バックネット裏予約満杯で期間延長
もう一箇所、スタジアムをワークスペースに提供する取り組みをご紹介。横浜DeNAベイスターズ(横浜市中区)では、横浜スタジアムのバックネット裏のスタンド上部の個室観覧席「NISSAN STAR SUITES(日産スタースイート)」をワークスペースとして提供する企画を実施したところ、予定していた席数の予約が満杯。好評を得て当初4月のみ予定していた期間を延長し、5月以降も続行すると発表した。
地域を盛り上げたい 体験は話のタネにも
運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース「CREATIVE SPORTS LAB」(以下「CSL」)により、横浜DeNAベイスターズ主催の平日試合日、9時30分から15時30分までの時間を仕事場として提供される。きっかけはCSLの「スタジアム内外をもっと楽しむため」の自由なアイデアを募る会議で「スタジアムをワークスペースとして活用したい」という声が多かったことから実現した。
「試合の日に、試合中以外の時間にスタジアムに来て利用して頂き、賑わってほしい、横浜の地域を盛り上げよう、という想いがあります」と語るのは横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 広報・コミュニケーション部 広報グループの小泉匡氏。
「普段は入れない場所でワクワクしながら仕事ができました」、「インスピレーションが沸いて仕事がはかどりました」、「試合日にスタジアムを眺めながら仕事をし、そのまま試合観戦できるので移動が楽、また部屋もきれいで気持ちが良い」、「スタジアムで仕事ができて雑談のネタになる」との好評コメントも多数寄せられた。屋外のため当日の天候にも左右されるが、そこもまた横浜スタジアムらしい醍醐味だろう。
ワーカーの選択肢増加 働き方改革は更に進化
「横浜DeNAベイスターズファンの方もいらっしゃったかと思いますが、近隣の皆様や、お一人での利用の方も多くいらっしゃいました。皆様により楽しんで頂き、地域も盛り上げていきたいと思います。今後も続けていきたいですね」(小泉氏)。
働く場所の選択には、地域の選択のほか、施設の選択、イベント会場かオープンスペースかビルの個室かといった空間の選択、IT環境が整っているかという様々な基準がある。またその日にどのように働きたいか、例えば気分転換を多めに取りメリハリをつけて働きたいか、といった、日々変化する曖昧な需要もある。
ワーカーの様々な希望に対応できる多種多様なワークスペースが揃う時代が来ている。
リアルの場の価値を重視 今後も模索を
三井不動産 ビルディング本部 ワークスタイル推進部 ワークスタイリンググループ 主事 高木諒平氏
コロナ収束後を見据えますと、今後は、働く場所にはリアルの場の価値、コミュニケーションやチームビルディングが重視されていくのかと思います。
今回の東京ドームのワークスペースは、『個人の気分転換』という面が大きいですが、チームや組織の生産性を挙げるような非日常感が提供できないか、今後も模索していきます。