不動産トピックス
【今週号の最終面特集】考察 賃貸ビルの感染症対策
2022.06.13 11:20
安全安心な空間へ必要なテナントとの協力 効果的な情報発信がビルの評価高める
エアロゾルも主な感染経路に 清潔な空気が求められる
新型コロナウイルスの新規感染者数・重傷者数は減少傾向が続いており、未知のウイルスに日常生活が脅かされるフェーズは過ぎ、賃貸ビルでは利用者の安全安心を担保しながら日常生活を送るための環境づくりが求められるようになった。直近の感染症対策について考察していきたい。
設備更新で換気性能アップ 室内の快適性向上
今月10日、外国人観光客の受け入れがツアー客に限定する形で再開された。再開はおよそ2年ぶりとなるが、ビザの発給手続きなどのため、実際にツアー客が国内での観光を楽しむのは早くても1カ月後となりそうだ。また、政府は屋外で会話のない状況であればマスク着用の必要はないとの考えを示すなど、感染症への対応は明らかに新たな局面を迎えた。一方で従来の生活スタイルに戻ることはなく、密集した空間でのマスク着用・消毒の奨励や、オフィス内の座席間隔の確保、一部リモートワークの推進といった流れは今度も基本的な考え方として定着するものと思われる。
入居テナント従業員のほか、不特定多数の来館者が訪れる賃貸ビルでは、新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るった2020年以降、感染対策への対応に追われた。感染者が確認されたビルでは、テナントに休業を依頼してまで全館消毒作業を実施するも、風評被害に苦しんだというケースが散見されたことは記憶に新しい。感染症対策を考慮した新しい日常について、ビルオーナーはどのように対応しているか。東京・代官山で複合用途ビルを所有・運営するハタケヤマビル(東京都渋谷区)の畑山優吾氏は次のように話す。
「新型コロナの感染拡大が全国的な広がりをみせ始めたころから、当社では所有ビルにおいて様々な対策を行ってきました。室内の空気を一定時間で入れ換える換気機能、抗菌仕様などが挙げられると思います。昨年当社は所有する『ハタケヤマビル』でエレベーターの更新工事を実施しました。既存ビルにおけるエレベーターの更新工事では、新築のように最新の機能を付与することはなかなか難しく、多額のコストを要します。不動産管理会社や改修業者と相談したところ、エレベーターかご内の換気機能をパワーアップさせる機能を追加することが可能とのことで、更新工事に際してオプションとして導入することとしました」
また、同ビルではセントラル空調のフィルターが交換時期となっていたことから、感染症対策として機能を付加できないかと検討を重ねた。その結果、医療施設などで導入されている抗ウイルスフィルターの導入を決めたという。感染症対策への取り組みは目に見える効果が現れにくい。そのため畑山氏は所有ビルでの取り組みをテナント向けの広報誌として紹介。テナントからは「取引先企業に対して感染症対策への取り組みをわかりやすく説明することができた」といった声が寄せられている。
都内で不動産の管理・メンテナンス業務を行う丸王サービス(東京都新宿区)の佐々木伸造社長も、感染症対策に関する情報共有や啓蒙活動の重要性を訴えている。
「建物内における感染症対策としては、清掃スタッフによる日々のこまめな消毒作業が最も重要であると感じており、入居テナントの方々も日々の消毒作業を目にしています。こうした姿勢がビルへの評価につながっているのではないかと感じています」
また、建物内の各所には不特定多数の人が触れる箇所が存在する。人感センサーによる自動ドアの設置など改修ニーズが高まっているほか、スイングドアの取っ手部分を抗菌仕様にするなど、コストをかけずに感染症対策につなげることも可能だという。
簡単に入れ替えが可能 高性能抗菌フィルター
ビル空調用フィルターメーカーのユニパック(埼玉県川口市)は、新型コロナウイルスの感染経路の一つとされるエアロゾル感染への対策に効果的な空調用フィルター「恵風Ag+」を開発。公共施設を中心に導入が進んでいる。
新型コロナウイルスの感染経路については、これまで飛沫感染と接触感染が主な感染経路とされてきた。しかし今年3月28日に公表された国立感染症研究所の報告書によれば、エアロゾル感染が主な感染経路として新たに加えられた。ユニパックの松江昭彦社長は「マスクの着用や手指消毒といった人的レベルで行われる感染対策だけでなく、空気そのものの感染対策が求められるようになっているのです」と話す。
「恵風Ag+」はユニパックが富士フイルム(東京都港区)と技術提携し、開発した空調用フィルターで、富士フイルム開発の銀イオンが持つ抗菌性能を応用した持続抗菌材「Hydro―Ag+」を特殊コート。空気中の浮遊粉じんに対し高い捕集性能を持ち、フィルターに付着した粉じん内の菌やウイルスの増殖を抑制する。フィルターは既存のパッケージエアコンにそのまま入れ替えることが可能で、清掃頻度の削減や4年に1度が目安とされるオーバーホールが不要となり、最大30%の運用コスト削減を実現することもできる。
Hydro―Ag+を加工したフィルターは、東京・千駄ヶ谷の国立競技場といった大規模施設をはじめ、埼玉県の川口市鳩ケ谷庁舎、同市内の放課後児童クラブ42施設、戸田市役所といった公共施設・教育施設などでの導入実績を伸ばしている。エアロゾルは空中に浮遊する飛沫よりもさらに小さな粒子で、人による対策が難しい。室内の衛生環境を高め建物利用者への安全安心の提供に貢献する「恵風Ag+」を導入してみてはいかがだろうか。
対策の意思統一に苦慮
ハタケヤマビル 代表取締役 畑山優吾氏
代官山エリアに商業・住宅の複合ビル「ハタケヤマビル」を所有しています。1階には飲食店舗が入居し、そのほかのフロアではデザイン事務所や建築事務所、若手クリエーターの個人事務所などが入居中です。複合用途ビルだけに感染症対策に関する入居者の意思統一が難しく、通知書や掲示物を通じてマスク着用や消毒といった対策をお願いしています。また、エレベーターの押しボタンなど、多くの方が触れる箇所には抗菌シートを施工しました。
非接触化は標準的に
丸王サービス 代表取締役 佐々木伸造氏
新型コロナの感染拡大は、建物設備の更新やリニューアルを後押しした面があります。特に需要が大きかったのは「非接触」で、共用トイレのスイングドアを自動ドアに変更するなど、不特定多数の人が日常的に触れる箇所を極力減らすための改修が増加しました。また消毒液の設置は既に標準的となっています。