不動産トピックス

【今週号の最終面特集】地方を活性化させる施設の企画運営手法

2022.06.20 12:15

都心と地方を結ぶ「人材交差点」に 働き・集まり・交流する拠点が誕生
 過疎化が進む地方。そういった構図はコロナ禍によって変化している。テレワーク・リモートワークが広がったことによって、首都圏から周辺部へ移住するケースが急増。熱海や伊東といった伊豆半島も住まいとしての注目度を上げている。伊豆急行線「城ケ崎海岸」駅から徒歩4分の場所にオープンした「エクレアホール」は地域の複合施設として、そして都市と地方をつなぐ拠点としての役割を担おうとしている。地方活性に向けた施設経営のモデルとして、無人運営やモビリティなどの実証実験も予定している。

バブル期に保養所として竣工 建物所有者から「再生」依頼
 うさぎ企画(静岡県駿東郡)が「エクレアホール」を運営する。もともと建物はある生命保険会社が保養所としてバブル期に竣工。地上2階地下1階の建物で、地下には温泉が出る浴室やプールなども備わっていた。
 この企業から、エリアで廃棄物・リサイクル事業やタクシー事業などを営む栄協(静岡県下田市)が土地建物を購入。葬祭場として利用してきた。しかしながら、新型コロナウイルスの流行に伴って葬祭需要が激減。施設稼働が低迷したことから、今後の活用が課題となっていた。
 この建物の活用について相談を受けたのが、うさぎ企画の森田創代表。当時起業する前段階であったが、この活用案件を引き受けることとなった。
 森田氏が活用のアイデアとして考えたのが、首都圏ワーカーと地元の人たちが繋がれる場所をつくることだった。「コロナ禍でこれまで首都圏で働いている人たちが伊豆半島エリアへの移住や、首都圏と行き来するデュアルライフをされていました。一方でコワーキングスペースやサテライトオフィスといった働ける場所は少なく、駅近くではほとんどありませんでした」。
 「エクレアホール」は駅から徒歩4分。この駅近立地を生かして、コワーキングスペース・サテライトオフィスとして開業するアイデアに至った。

レンタルスペースを併設 日替わりキッチン施設も
 施設は1階にコワーキングスペースとレンタルスペースがある。レンタルスペースでは周辺住民がサークル活動などで借りたり、セミナー講師が借りてオンラインセミナーの会場として使用されたりもしている。
 通信環境には細心の注意を払った。「ある講師の方は山間部でオンラインセミナーを開催しようとしたのですが、山に囲まれていることから通信環境が不安定でした。話している最中に途切れてしまったりと、参加者からも不満があったと聞きます。『エクレアホール』はWi―Fi設備を各部屋に導入するなど万全の通信環境を整えています。その方も当施設オープン後はリピートして使っていただいております」(森田氏)
 2階はサテライトオフィスだ。用意したのは7部屋。保養所時代の名残を残し、多くの部屋が和室の仕様となっている。旅館業法の許認可も得ているため、泊まりこんでの合宿もできる。すでに数社と契約している。完全リモートワークに移行した企業が、役員や社員などが一堂に会してコミュニケーションのとれる合宿研修などの需要を獲得していきたい考えだ。またフロアの一角には、カラオケルームとして使用されていた部屋もある。防音設計がなされている。クリエイターなど集中して創作に取り組みたい人などへの貸し出しを計画している。
 地下1階は今後、日替わりキッチンとしてオープンして、飲食を提供していく。温浴施設もあり、かつては温泉が引かれていたようだ。温泉使用料がかかるため当面は通常の浴室としての再開を目指すことになるが、森田氏は「環境が整えば温泉を引いてくることにもチャレンジしたい」と意欲を示す。

つながる仕組みづくりで利用者同士の「共創」へ
 森田氏が「エクレアホール」での取り組みを通じて目指していくのが、都市と地域のコミュニティづくりの拠点としての役割を果たしていくことだ。
 先述のようにコロナ禍以降、リモートワークが定着した人たちはより広い住まいや自然環境を求めて都心周辺部へ移住。これと並行して、伊豆・熱海エリアでは50代の早期退職者や60代の定年退職者がこれまでの経験を生かしたセカンドキャリアへ踏み出す場にもなっている。
 森田氏はこういった人たちをはじめ、サテライトオフィスやコワーキングスペースを利用する都市部と地元のワーカー、レンタルスペースなどを利用する地元住民などを今後の運営のなかでどのようにつなげていくかを考えている。  「様々な人が集まることによるシナジーは、今後の『エクレアホール』運営のなかでキーポイントになってくると考えています。たとえばそこで仕事の受発注や利用者同士での新しい挑戦に発展していく可能性もつくっていきたい」  その第一歩として1階には利用者同士が「提供できること」、「提供してほしいこと」が書ける掲示板を設置。今後、本格的に稼働していけば利用者同士の共創につながるきっかけとなりそうだ。

実証実験も開始 モビリティに挑戦
 また施設を活用しての実証実験も行っていく。
 サテライトオフィス入居企業である、スマートホテルソリューションズ(東京都千代田区)は決済機能と連動した顔認証技術を提供している。伊豆高原地区で宿泊施設と観光・交通が一括利用できる実証実験を計画。そこに「エクレアホール」も施設として参画する。
 「地方では交通網などの足が少ないことがネックになりやすい。今回の実証実験がうまくいけば、『エクレアホール』へのアクセス性も向上します。地元での利用者層の拡大はもちろんのこと、都心からのテレワーク需要の獲得にもつながると期待しています」
 「エクレアホール」の「エクレア」はお菓子としてのイメージが強いかもしれないが、フランス語で「雷」を意味する。「お菓子のエクレアを食べる時のような落ち着いた空間のなかで、人と人の出会いから雷に打たれるように共鳴し、新しいアイデアやビジネスが生まれる拠点になるように」という想いで命名した。
 利用者同士の共創と地域の活性化に向けて、刺激を与える場を目指す。


全国のエリア活性を支援
うさぎ企画 代表 森田創氏
 人づくり・場づくり・足づくりを事業として展開しています。そのなかで「エクレアホール」は当社として初の施設再生実績となりました。地方への移住やワーケーションなどの広がりは、地方活性化のチャンスになっています。一方でそのチャンスを捉えるためのリソースが地方には不足しているのも現状です。そういったエリアの活性化の支援をしていきたいと考えて起業しました。現在、「エクレアホール」のほかにも焼津漁具倉庫のリニューアルなどにも取り組んでいます。このような取り組みを各地へ広げていきたいと考えています。




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