不動産トピックス

【今週号の最終面記事】ビルのバリューアップ新潮流

2022.07.25 10:54

ビル再生×セットアップオフィスで賃料4割増も
難点を利点に転化する工事とゾーニングが鍵
 賃料を相場よりも高く設定できること、早期成約につながりやすいことなど、セットアップオフィスのメリットが注目されている。昨今、共用部の工事も含めたセットアップオフィスを提案し、バリューアップにつなげる例もある。

セットアップオフィスで空室改善+バリューアップ
 不動産管理業務・投資顧問業務を行うプロパティー・パートナーズ(東京都港区)は今年5月、内装デザインや受付スペース、会議室、トイレ、什器備品等の設備などをあらかじめ用意したセットアップオフィスの提供を開始した。
 プロパティー・パートナーズは2007年に設立。オフィスの設計・施工やサブリース、PM事業などを軸に事業を展開。2016年に東京・神田に開業した「PREMIUM OFFICE 神田」を皮切りに、レンタルオフィス事業に参入。ビルオーナーから物件を借り上げて全面的なリノベーションを実施、スタートアップ企業等をターゲットに小規模のオフィススペースとして賃貸を展開。競争力の低下した築古の中小ビルの再生に貢献している。現在「プレミアムオフィス」は都内6拠点に拡大。企画・施工に加え、運営・管理も担っている。
 家具や内装を予めセットアップしておくことで、物件価値の向上や早期成約につながりやすいなど、ビルオーナーのメリットは大きい。加えて入退去時の工事費削減などテナント側にとっても大きな魅力がある。同社ではコロナ禍でビルの稼働が落ちているビルオーナーの悩みの解決策とし、JR線「御徒町」駅徒歩5分に立地する「Logran御徒町ビル」、ならびに東京メトロ「半蔵門」駅徒歩2分の「PREMIUM OFFICE 麹町」(自社区分所有)の2拠点でセットアップオフィスの提供を始めた。
 「Logran御徒町ビル」では10階と4階のそれぞれ63・55坪をセットアップ仕様に。複数の空間リノベーションデザイン、配置する家具のプランをプロパティー・パートナーズ側が用意し、物件オーナーが好みのものを選択するスタイルだ。
 10階は三面採光の開放感をより強調するため、天井をスケルトンに改修。東京スカイツリーを臨む眺望を活かし、フリーアドレスのカウンター席を窓際に設置した。内装はモノトーンチックでシンプルな造作。ABWの潮流も踏まえ、業務内容や気分に合わせて自由な働き方が選択できる余地も残している。
 4階は会議室や応接コーナーの増設ニーズにも配慮し、静かな環境を整えるべく一部に既存天井を残した「クォータースケルトン」天井とした。内装はオーナーの意向によりグリーンベースの明るいデザインを採用。
 加えて両フロアとも女性の就業環境整備の観点から、1つしかなかった女子トイレブースを2つに増設。化粧台と小物入れも新たに設置した。家具のセットアップやニーズを抑えた施工が功を奏し、リーシング開始から短期間で、女性が活躍するマーケティング企業等が入居を決めている。
 営業本部主任の小堀剛弘氏は「全フロア家具をセットアップすると費用がかさむため、今回は一部だけとしました。工期は約1カ月~2カ月半、施工費用は合計1000万円。オーナー様の負担額は原状回復費用を抜いた600~700万円ほどです。家具はオーナー様のご意向によりシンプルなもので統一しています。従来の賃料の3~4割増しである坪2万円で募集をかけましたが、リーシングから想定よりも早く入居が決まっています」と話す。
 築古ビルの再生を主軸に、ビルオーナー・テナント双方のニーズを拾っていく。

「gran+JIMBOCHO」神保町の出版社ビルをリノベ
 セットアップを施した1棟貸し物件への再生事例もある。LOOPLACE(東京都千代田区)は今年5月、東京・神保町にある築古物件を再生。「gran+(グランプラス)JIMBOCHO」を完成させた。「gran+」シリーズは2016年に完成した「gran+AKIHABARA」にはじまった、LOOPLACEの自社施工による企画物件シリーズ。デザイナーズビルへのバリューアップを図ることで特異性と付加価値、競争力のある高収益物件として再生してきた。
 シリーズ9棟目となる「gran+ JIMBOCHO」は、出版社の事務所として使われていた築39年、鉄筋コンクリート造の地上5階建てビルをリノベーションしたオフィス。1階は42・54㎡の駐車場、2~5階は29・4~44・94㎡のオフィスフロアという構成。ターゲットはスタートアップやベンチャー企業。家具を全フロアにセットアップし、建物本来のもつ風情・面白さを生かしている。
 今回のリノベーションでは、建物を健康な状態にするために乱れた設備配管ルートを整え、エアコンや排水ポンプといった寿命の近づいた設備まわりを更新、散水試験を行い漏水が発生していないことを確認したうえで、電気を引き込む容量をアップした。
 レトロなタイルの外壁は補修の上そのまま利用。窓サッシや手摺はインディゴブルーに塗装した。全面道路からアイキャッチになるよう階段蹴込みにアートペイントを施し個性も強調。照明器具の色温度を電球色にすることで小さな路地に暖かく柔らかい光が溢れるファサードとするなど、古書の街・神保町らしさも随所に演出されている。
 そしてエレベーターなし5階建てという、マイナスをプラスへ転じさせる再生にも力を入れた。
 代表取締役の飯田泰敬氏は「下階から上階に上がるにつれてPublicからPrivateに対応する空間とするべく、フロアごとでシーンの変わるゾーニングとしました。例えば5階建ての真ん中となる3階にメインの執務スペースを設定することで、全てのフロアに2階分の昇降でアクセスできるため、心理的・身体的負担を減らすことが可能です。さらに5階にはラウンジスペースをしつらえ、リラックスしながらクリエイティブな活動のできる場所とすることで、上層階への動線をポジティブな行為に感じられるように仕上げました」と話す。
 今回の施工費用は家具・植栽を含む設備・内装意匠工事を合わせて約3500万。神保町らしさを残しつつ、必要な設備更新を施したうえで物件のデメリットをメリットに転化させた。
 同社は今年6月に文京区本郷の物件も取得。今後の展開にも注目したい。


今後の利回りにも期待
プロパティー・パートナーズ 営業本部 主任 小堀剛弘氏
 「Logran御徒町ビル」は周辺の中型ビルと比較して築13年と新しく、エレベーターが2基設置されている高スペックな物件だったことも、今回の成功に起因すると考えていますが、セットアップ区画の賃料が周辺相場より大きくアップしたため、不動産全体のバリューアップに貢献し、追加投資を上回る効果が期待できます。今後はセットアップオフィス事業にもさらに注力していきたいです。

1棟貸しのニーズに訴求
LOOPLACE 代表取締役 飯田泰敬氏
 「gran+JIMBOCHO」は「gran+」初のエレベーターのない物件になります。当社の事務所が近かったこと、狭小物件の実績とノウハウがあったことなどを背景に取得を決めました。現在は内覧会を実施しており、ベンチャー企業様から問い合わせをいただいております。千代田区で1棟貸しの物件は供給が少なくニーズも期待できるとみています。




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