不動産トピックス
【今週号の最終面記事】不動産投資市場の現在地 国内・海外の視点から分析
2022.09.12 10:38
存在感高める日本の不動産 市場の透明度は初めて最上位グループ入り
日本国内の世帯数はこれまで長らく増加を続けてきた。しかし来年には世帯数が減少に転じるものとみられており、「2023年問題」として話題となっている。賃貸オフィス市場でも、都心部での大量供給による市況の悪化を懸念する声が聞かれる。先行き不透明感が強まる中で、不動産投資市場は今後どのように展開するか。多角的に考えてみたい。
賃貸経営に向いている駅 上位には意外なエリアも
駅徒歩10分内の世帯数 路線ごとにデータを集計
首都圏のマンション価格の高騰が続いている。平均価格は6000万円を超え、バブル期の水準を上回る高値で、10年前のおよそ1・5倍ともいわれている。直近の国内では外国人観光客の入国制限緩和が段階的に行われているが、不動産投資市場でも新型コロナの沈静化が現れる前から海外の投資家が、低金利で投資妙味のある日本の不動産投資市場で再び積極的な動きを見せているようだ。住宅市場では投資用の不動産だけでなく、実需向けの不動産も低金利は住宅ローン控除の延長などの追い風もあって活況を呈している。住宅市場を分析する上で重要となってくるのが、街の「住みやすさ」である。
不動産のビッグデータとAI(人工知能)を用いて不動産の価値を分析するクラウドサービス「Gate.(ゲイト)」を提供しているリーウェイズ(東京都渋谷区)は、首都圏や関西圏、地方主要都市を対象とした「賃貸経営に向いている駅ランキング」を作成。先月30日より公開している。同社ではこれまで自社で有するビッグデータを活用し、主要路線ごとのマンション価格相場ランキングなどのデータを公表しているが、「賃貸経営に向いている駅ランキング」としてのデータ公開は今回が初となる。
このランキングは2020年版の国勢調査のデータをもとに、駅から800m以内(徒歩10分圏内)のマンション・アパートを含む民間の借家に住む世帯数を集計。住む人が多ければ多いほど、住宅の需要が高く「賃貸経営に向いている」とみることができる。公表されたデータは首都圏や関西圏のほか、札幌市・仙台市・名古屋市・広島市・福岡市も対象となっており、路線ごとの世帯数のグラフを閲覧することが可能だ。
例えば、東京の中心部を環状運転するJR山手線の沿線では、「大塚」駅周辺の民間の借家に住む世帯数が2万6303世帯と、他の駅周辺に比べ際立って多い結果となった。これについて本ランキングを監修した担当者によれば、「『大塚』駅周辺はマンションが非常に多く、スーパーマーケット等の生活利便施設も充実していることから、『住みやすい街』としての評価の高さが伺えます」とのこと。なお「大塚」駅はJR山手線を含む首都圏の主要路線の中でも第一位。関西圏では第一に南海高野線「今宮戎」駅、第二位に南海本線・高野線「新今宮」駅が入り、ミナミの繁華街が上位を占めた。
本データはリーウェイズのホームページから無料でダウンロードが可能。同社によれば、不動産取引の場面や不動産投資家によるデータ活用を想定しているとのことだ。
投資家は物件選びにおいて何を重視しているか。東京都心5区で不動産投資を行っているSR不動産(東京都中央区)の川崎秀人社長は「建築費や工事費の高騰で単に高価格帯のマンションだけが供給されているわけではなく、コンパクトマンションなど幅広い価格帯のマンションがコンスタントに市場に供給されている状況。エリア特性を分析し、物件のサイズ感やグレード感がニーズと合致しているかを見極めなければならない」と話す。ここまで日本の不動産市場について国内の視点から述べてきたが、海外からの視点では日本の不動産はどのように映っているか。
サステナビリティに評価もまだまだ課題が残される
事業用に特化した総合不動産サービスを展開しているジョーンズ ラング ラサール(以下「JLL」、日本法人・東京都千代田区)とラサール インベストメント マネージメント(本社・米国シカゴ)は先月31日、2022年版の「不動産透明度インデックス」を発表した。
この「不動産透明度インデックス」は、グローバルでサービスを提供する両社が世界の不動産市場に関する情報を収集。各市場の透明度を数値化した独自の調査レポートである。最新版では世界94の国と地域から156都市が対象となっている。都市別の不動産透明度をみると、世界で最も確立された投資市場であるロンドンが最も高い不動産透明度を持つ結果となり、2位にはニューヨーク、3位にはパリがランクインした。投資家がサステナビリティを重要視し更なる基準の明確化を求める中で、上記の3市場は豊富な投資活動とデータに加えて、意欲的で明確な気候目標を掲げていることが高い透明度を押し上げる要因となった。
国別の透明度では、英国や米国、フランスなどが最上位である「高」のグループに入っているが、今回の調査では日本が初めて「高」のグループ入りを果たし、透明度が12位にランクインした。JLLによれば、気候変動リスクに関する報告の取り組みやサステナビリティ目標の達成、データの充実、セルフストレージや高齢者向け住宅といったオルタナティブ不動産のセクターでの透明度改善が貢献したと分析している。
同社日本法人のリサーチ事業部長・赤城威志氏は「しかしながら、同じ『高』のグループに入る英国や米国など他の国と比較すると、日本はまだまだ多くの課題を抱えているといえます。例えば賃料や共益費。従来からの商習慣で日本ではこうした金額を開示することを回避する傾向にあります。また上場企業のガバナンスやリアルタイムな市場データなど、透明度を向上させる上での課題は多く残されているというのが現状です」と述べる。
一方で日本の不動産市場は気候変動やサステナビリティに対する取り組みに関して世界的に高い評価を獲得している。今後も海外からの投資マネーを呼び込み市場の更なる活性化へ結びつけるためには、この分野において日本が世界をリードし、ルールや枠組みの構築を率先して行うことが重要となりそうだ。
商品のバリエーションは豊富に
SR不動産 代表取締役 川崎秀人氏
ロシアによるウクライナ侵攻などによる石油や天然ガスの価格高騰や、建築資材の価格高騰によって建築費は今後も上昇が続くものとみています。日本国内においては職人不足の問題も建築費に大きな影響を与えています。直近は新規供給が少なく新築物件のプライム性が高まっています。マンション市場では高価格帯の物件だけではなく販売価格を抑えたコンパクトマンションが存在感を高めており、商品のバリエーションが広がっていると感じます。エリア特性を十分に分析した上でニーズに合致する物件選びを行うことが重要です。