不動産トピックス
【今週号の最終面特集】地域活性化の起爆剤 まちづくりの勘所
2022.10.24 11:37
行政・民間の協力が人・企業を呼び込む原動力 地域特性を生かした取り組み各地で進む
既存物件の有効活用で中心部の空洞化を解消
昨今の不動産開発では、建物単体の開発に終始するのではなく、建物が地域に根ざした施設となるよう、まちづくりとの連動を意識した計画とすることが多い。一方、大型の開発が少ない郊外部や地方都市などでは、街を盛り上げる取り組みに工夫が求められる。それぞれ異なる街の特徴をとらえたまちづくりの例を紹介したい。
多摩地域の産業振興狙う大規模交流拠点が誕生
東京都は、広域的な産業交流の中核機能を担い産業の振興を図ることを目的として、多摩地区最大級の産業交流拠点「多摩産業交流センター」(愛称:東京たま未来メッセ)を今月14日に開業した。
「東京たま未来メッセ」は最大約2400㎡、天井高10mの広さを有する展示室、50㎡~200㎡の全7室の会議室を要する大規模な交流拠点。JR「八王子」駅徒歩5分、京王線「京王八王子」駅徒歩2分と、都心から1本で往来しやすい場所に立地する。
展示室は内部に柱がなく開放的な空間が特徴となる。会場内はA~Dまで4分割にできるため、同時に複数の催事を行うことも可能。約2000名と収容人数も多く、展示会からセミナー、学会、会議から大規模なイベントまで様々なニーズに対応する。会議室は下フロアの展示室との移動をスムーズに行う導線が設計されているため、展示室と会議室を併用する催事では、より効果的な運営も期待できる。
「東京たま未来メッセ」の愛称は一般公募811件の中から選定。”未来に向かって情報発信を行う場所というメッセージ性“と”現状を乗り越え、未来を作っていくことが表現されていること“が決め手となり選ばれた。
今月13日には開業式典が行われ、東京都の小池百合子知事をはじめ、多くの関係者が登壇。開業式典の挨拶で小池知事は「多摩地域は東京の面積の約半分、人口約4000万人を擁する地でございます。何よりも緑が豊かで自然に恵まれ、高い技術力を持つ企業や大学、研究機関などが集積しております。当施設を多くの方々にご利用いただいて、地域の振興・地域の活性につなげたいと考えています」と述べた。
定住者の増加に向けて住民の理解は必要
少子高齢化が加速している中で、まちづくり活動は地域活性化の実現に向け重要な役割を果たす。一方で「最終的な目標は共通するものの、地域特性や目指す目標によって、まちづくり活動のアプローチ方法は異なってくる」と述べるのは、まちづくり活動の企画・コンサルティングなどを行うイチマル(東京都文京区)の石井祥一郎氏である。
「大前提として、外部からの集客に固執するあまり地域に住む方々の日常生活の利便性をないがしろにするような、住民を置き去りにするまちづくり活動は定着しません。映画やドラマ、アニメなど映像作品の舞台のモデルとなった街が、作品とコラボしてファンを取り込むためのまちづくり活動を積極的に行うケースは数多くあります。しかし街を訪れたファンと地元の方々との間で温度差があると、その文化が地域に根付く可能性は低いでしょう。ファンにとっても、繰り返し足を運んでみようという意識が薄れてしまいます」(石井氏)
来街者は地域経済を支える一翼を担うだけでなく、街の魅力が伝わればいずれ定住してくれる存在にもなる。地域に足を運んでもらうためのきっかけづくりが重要である一方、行政や民間企業が連携し、地域の理解を得ながら街の魅力を発信することが求められているようだ。
東京有数の鉄道の街・蒲田 幅広い年代が楽しめるイベント
東急不動産SCマネジメント(東京都渋谷区)は、運営管理を行っている商業施設「東急プラザ蒲田」において今月19日から30日まで、鉄道イベント「第2回蒲田を走る電車まつり」を開催している。
日本初の鉄道が開業してから150周年を迎えた今年。大田区の南部に位置する蒲田では、1922年に池上電気鉄道(現在の東急池上線)が開業してから100周年を迎えた。現在、蒲田エリアにはJR線・東急線・京急線の鉄道会社3社が乗り入れており、都心の大型ターミナルを除き複数の鉄道会社の路線が集中するのは非常に珍しく、「蒲田」駅および「京急蒲田」駅は通勤・通学だけでなく近隣に所在する羽田空港からの観光客なども含め多くの利用客を有している。街の発展と鉄道の関わりが深い蒲田の地で行われるこのイベントは昨年に続いて今回が2回目の開催となる。イベントには鉄道会社3社が連携するほか大田区も協力。「東急プラザ蒲田」のイベント会場内では鉄道模型のジオラマ展示やグッズの販売、鉄道にゆかりのある著名人が参加するトークショーも予定されている。
開催初日の19日には同施設屋上にテープカットセレモニーを実施。JR・東急・京急線の各線「蒲田」駅の駅長・副駅長が出席し、大田区産業経済部の藤倉幸子観光課長も出席した。藤倉氏は「地域の重要なインフラとして、鉄道は欠かせない存在。今回のイベントを通じて、街を訪れた方々に蒲田や区の魅力を発信できれば」と述べた。蒲田は都心へのアクセスが良く居住人口が非常に多いエリア。大人から子どもまで楽しめるイベント企画を通じて、街の更なる活性化を目指す。
千葉県館山市 駅前の旧デパートを地域活性化の拠点に
まちづくり事業を展開する館山家守舎(千葉県館山市)は、地元・館山のエリアビジョン実現に向け、JR「館山」駅東口に所在する、かつて地域最大のデパートであった築54年の商業ビル1階部分をリノベーション。パブリックスペース「sPARK tateyama」としてオープンする。施設内ではコーヒー店と酒類販売店がテナントとして入居するほか、同社運営によるコワーキングスペースも開業する。
人口減少社会におけるまちづくりは、人口が密集する中心市街地を軸として人が豊かに生活できるエリアを構築することが求められる。一方で地方都市は車社会が定着し、街の機能が分散することで中心市街地の空洞化が顕著となっている。館山市の玄関口である「館山」駅周辺には居住エリアや公園、図書館、教育施設があり、同社では駅を中心とした市街地を車から人中心の街として住みよい環境を構築することが持続的な地域のまちづくりに必要だと分析。近年の「館山」駅周辺では新規事業者が徐々に増えつつあるものの、現在の駅前は利用者にとって不便な状況となっている。そこで同社は、最終的に賑わいのある駅前空間をつくるため、ビルを壊し更地にするのではなく、今後15年延命させて地域の賑わいづくりに貢献できるよう修繕に取り組んでいる。
「sPARK tateyama」では今月22日の開業後も、チャレンジショップなど様々なイベントや企画を試験的に行いながら、新規テナントの募集を展開していくとのことだ。