不動産トピックス
【今週号の最終面特集】未来を見据えたスペース活用
2022.12.05 11:03
オフィスの空きを活用し収益に 起業家・テレワーカーのニーズ汲む
三鬼商事の発表したオフィスマーケットによると、東京ビジネス地区の10月時点の平均空室率は6・44%。東京ビジネス地区全体の空室面積はこの1カ月間で小幅に減少したものの、大型~大規模ビルを中心に未だ厳しい状況が続く。昨今、注目したい空室活用の取り組みについて取り上げる。
ビルでコワーキング兼レンタルスペース運営
このコロナ禍を機に、空きスペースを有効活用して収益化を図る向きも強い。その手法の代表例とも言えるのがコワーキングスペース。2018年に世界的なコワーキングスペースの大手「WeWork」が日本に上陸。コワーキングスペースへの認知が急速に広がった。起業支援を目的としたコワーキングスペースを、古くから運営する事業者がいる。
サノヒロ(神戸市中央区)は、17年前のコワーキングスペースという言葉が浸透する前からコワーキング兼レンタルスペースの運営を行っている。
場所はJR神戸線・阪神電気鉄道「元町」駅から徒歩4分。「KCCビル」の4階をコワーキング兼レンタルスペースとして「エリンサーブ」の屋号で運営している。
元々、同フロアを区分で所有する親族が事業を展開していたが、事業を撤退。不動産の有効活用が急務となり、当初はテナントの募集を検討していた。しかし、ワンフロアの借り手は見付らないまま、同代表の森本公子氏が引き継ぐことになった。
そこで、人材派遣会社でキャリア支援を行っていた経験のある森本代表は、スペースの活用とともに起業家のキャリア支援ができないかを考案。レンタルオフィスは当時から外資大手がすでに参入していたものの、兵庫県内にはまだ少なく、全国的に見ても数少ないものだった。森本代表は「オフィススペースと共に交流し学べる場として、レンタルオフィスと今のコワーキングスペースのような起業支援に特化した場所を創ろうと思った」と話す。
開設当初は、オープンスペースのみ提供していたが、森本代表自身も頻繁に出入りする中で、ニーズや時流などによって変えてきた。現在は入居者を大きく2タイプに分けている。1つは正会員(レンタルオフィス)として個室9室、パーテーションで間仕切りをした専用ブース36席を提供。2つめは、約12席あるコワーキングスペースを利用できる、あるいはバーチャルオフィスとして登録できるメンバーを準会員としている。
会議室、応接室のほか、専用ロッカーや電話代行などを用意している(利用回数制限や正会員・準会員によって異なる)。さらに、同社ではさまざまな勉強会や交流会を実施。「士業や各専門家を招いたり、会員同士やOBとの連携を図ったりしている。業務支援も各方面の専門家と連携して行っている」(森本代表)
入居者である正会員や準会員の職種、職業はエンジニア、士業、デザイナー、貿易業などと幅が広い。オプションサービスとして、Webマーケティングや会計支援を行う一方、入居目的外の起業検討者への無料相談も行っている。森本代表は「単なるスペース貸し事業というよりも、人と人とをマッチングして新事業を創造するサポートをしたい」と意気込んでいた。
貸会議室のマッチング オーナーへ固定分売上還元
コロナ禍によるリモートワークの普及から、Web会議の需要が著しく高まった。駅や商業施設、カフェ、ビルのエントランスまであらゆる場所で個室型ブースの設置が加速。さらに現在は出社する向きも強くなっていることから、3~4人の少人数で利用ができる場所の需要が増加している。こういったニーズに応るのがスペースのマッチングサービスだ。
貸会議室の運営・企画を行うKCC(名古屋市西区)は、直近1週間の予約が入っていない貸会議室やレンタルスペースの空き時間と、仕事をする場所が欲しい社会人を繋ぐとマッチングサービス「パーソナルフリーオフィス(以下、PFO)」を提供している。
通常、講演や研修を実施する際は、1カ月前に予約し、遅くとも1週間前には予約するケースが一般的だ。そのため、直近1週間以内で予約が入っていないスペースは未稼働になってしまう可能性が高い。
一方、社会人は、オンライン商談やリモート会議を自宅や喫茶店で対応しづらいなど問題を抱えていることが多い。阪口富左雄社長は「直近で使いたいニーズがあるため、当サービスが両者メリットになると考案した」と話す。
「PFO」は1カ月の利用可能時間などを設定した5種類の月額定額制プランを設けている。利用したい時刻の5分前まで「PFO」のウェブサイトから予約可能としている。月額費用は1980円(税込)から。使い切れなかった時間は翌月繰り越したり、使い切った場合はタイムチャージしたりする機能を兼ね備えている。そのほか、会員同士で時間をシェアする機能や、継続利用した利用者への特典としてボーナス時間のオートチャージを行うユニークなサービスも付与している。なお、お試しや1回利用したい人向けにスポットプランも設けている。
スペースを貸したい人は、所有する貸し会議室やレンタルスペースなどの、直近1週間の予約が入っていない時間帯を「PFO」の利用スペースとして有効活用できる。登録は手間を軽減するよう、Googleカレンダーと連携して自動反映する仕組みを導入している。
登録の条件は、完全個室で、電源、Wi―Fiを完備するスペースであれば可能だ。
収益は「PFO」の月額総売り上げのうち、60%をオーナーの売り上げとして還元する。そのうち、50%は変動分配売り上げとして、残り10%は固定分配売り上げとしている。
「諦めていた空室を稼働させるだけではなく、『PFO』で利用したユーザーが今後一般予約してくれる可能性が広がり新規開拓にも寄与するサービスだと自負している。PFO利用者が利用できるスペースを全国に増やしていきたい」(阪口社長)
サービスを提供してから1年。施設は首都圏を中心に約280カ所。登録ユーザーは月40~50人増加しているという。貸会議室の空き時間だけではなく、空きテナントの会議室化にも対応している。
社外の人に一時貸し 利用者は年間1900人に
オフィスのスペースを社外の人に貸し、収益化を図るビジネスも注目されている。スペースのプラットフォームサービス「スペースマーケット」を運営するスペースマーケット(東京都渋谷区)は昨年7月から、社外の方に一時的な貸出が可能なオフィス形態「オフィスシェア」を開始している。
オフィスシェアとは、スペースマーケット上に企業が所有するオフィスの一部または全体を掲載し、そのスペースが空いている時間は社外の方に有償で一時的に貸し出す運用形態。企業の休日や早朝夜間帯などオフィスの遊休時間や出社率が下がった際のオフィスの会議室や座席等が収益化することで、より便利なロケーションや設備が付帯したオフィスの契約が可能になるほか、業界や世代を超えた社外の方とのつながりの創出などが見込まれる。
開始から1年3カ月の時点の発表で、利用者は年間で1900人超。社員以外の外部貸出利用は平均週5・8回と数多くの人が利用したという結果に。「オンライン会議をしたいが、自社オフィスだと個室の会議室が足りない」、「外出先でオンラインミーティングをしたいが、カフェだと周りの声や目が気になる」、「出社するほどではないが在宅ワークの気分転換に場所を変えたい」といったニーズに応えた。