不動産トピックス
【今週号の最終面特集】街の歴史に溶け込むリノベーション
2023.02.13 11:03
地域に根差した不動産再生 空き家活用のロールモデルにも
今年は新築ビルの供給が多い年。都市開発がもたらす街の発展は目覚ましいもの。だがそんな時代だからこそ、昔ながらの魅力を残す既存物件の利活用も求められている。地域ならではの文化・魅力を最大限に生かしたビル再生事例に注目した。
防災建築街区の空き家をリノベ 飲食・ゲストハウスの複合ビルに
エリアリノベーションを展開する合同会社の空くくる(くうくくる、富山県氷見市)は、富山県氷見市の「昭和レトロビル」の運営・管理を行っている。
代表社員の林美湖氏は、2016年、景色が良く食べ物がおいしい氷見の魅力に惹かれて東京・世田谷から氷見市に移住。氷見市の職員に転職し、現在は世田谷区と氷見市の二拠点生活を続けている。 管理する「昭和レトロビル」は、JR氷見線「氷見」駅から徒歩15分に立地する。築55年、1フロア約80㎡の地上3階建て。ビルの建つ中央町商店街の一帯は、1961年施行の防災建築街区造成法に基づいて再開発が行われた防災建築街区に該当する。街の大火・災害防止・土地の合理的利用などを目的に造成されたが、近年は建物の老朽化が進行。建替え・利活用の検討が目下の課題となっている。
こうしたさなか、3年前に林氏が取得したのが「昭和レトロビル」。不動産再生は、林氏にとって初の試みだった。契機となったのは、仕事に従事する中で見てきた、氷見市の空き家問題だ。
「かつて横浜市役所で働いていた頃、先輩方が市の防火建築帯(防災建築街区制度の前身)物件の利活用に携わっているのを見てきました。その経験から、氷見市の空き家をスクラップ&ビルドではない方法でなんとかできないかと思案。そこで行き着いたのが、新しい価値を付加した環境に優しいビルを作ることで、私自身が空き家活用の当事者になることでした」(林 美湖氏)。
ビル取得後、「合同会社空くくる」を設立。昨年6月には雨漏りしていた3階と屋上の防水工事を実施。民間都市開発推進機構の進める「ひみまちづくりファンド」から一部資金の投資を受けながら、老朽化した設備の更新を中心に進めた。
工事を進める中でテナント誘致方針から「ビルのイメージにあったお店を開きたい」と考え直した林氏は、働いていた氷見市を退職。ビルの企画・運営・管理までのプロディースに至った。
こうして先月15日に全店開業を迎えた「昭和レトロビル」。1階にはテイクアウト専門のスープ店「スウプはやし」。普段は林氏自身が接客・調理を行っている。3階はゲストハウス「眺めのいい部屋」、2階にはカフェの「フルーツ&バー フルエ」。3店すべて林氏と家族で経営している。
「昭和レトロビル」の魅力は、ビル全体を通して氷見の魅力をいかんなく体感できる点だ。「スウプはやし」では富山県産の野菜をふんだんに使用。ブイヨンなどを一切使わず、食材本来のうまみを最大限に生かしたスープが醍醐味となる。「眺めのいい部屋」は2室4名1組貸し切りのゲストハウス。窓からは氷見市の自然と氷見漁港、海越しの立山連峰を一望できる。もともと居住用であった部屋の設備を生かし、内装は畳張りの和室を再現。バスやキッチンも新設し、寛げる空間づくりを行った。
地域の魅力を体現したビル再生。近隣住民からの反響は大きく、空き家の活用の相談も受けるようになったという。直近では、市内の居住物件をシェアハウスにコンバージョンする計画を進行中だ。
「近隣にはまだまだ空き家が多いです。解体費用が上がっているため、『ただでもいいから譲り受けてほしい』という声も少なくありません。特に高齢の方にとって、管理は大きな負担になります。『昭和レトロビル』を再生した背景には、地域の空き家再生のロールモデルにしてほしいという願いがあります。今計画を進めているシェアハウスをはじめ、氷見市の空き家再生に貢献していきたいです」(林氏)。
プロジェクト第一弾発足 新潟・三条の空き家を再生
不動産の売買・賃貸・仲介および空き家活用事業「アキサポ」を展開するジェクトワン(東京都渋谷区)は、「一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクト」による空き家活用第1弾となる複合交流拠点「三(ミー)」を今月12日に開業した。
同社は昨年10月、燕三条エリアの空き家利活用の促進を目指し、地場の建築会社や設計事務所、ソーシャルデザインを手掛ける企業とともに「一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクト」を設立。同法人では、空き家活用事業や空き家イベント、空き家予防保全事業を推進することを目的としている。
ジェクトワンでは出資型空き家地域課題解決事業として同法人を支援。ジェクトワンが地方都市の空き家対策の非営利事業に出資するのは初となり、東京に本社を置く企業による地場の企業との空き家対策の連携協力体制を築いていくモデル事業となることを目指している。
「三」は店舗兼住宅だった物件をリノベーションしたもの。住宅部が約16年間(店舗部は約3年間)空き家状態となっていた同物件の活用は、東京在住の所有者からの問い合わせにより実現した。移住者や地域おこし協力隊の新たなチャレンジを応援する施設を作り、街、行政、プレイヤーの三者が交わり、多世代が交流し継続できる施設を作りたいという願いが、今回のプロジェクトの根底にある。
1Fは地域交流ができる施設として、古着プラットフォーム、フリーラウンジ、シェアバー、プリン屋などの小売店や飲食店をはじめ、コミュニティ通貨(電子地域通貨)サービスまちのコイン「めたる」の拠点とした。上階は移住者の新たなチャレンジを応援するため、2Fに移住体験のできるゲストハウス、3Fに移住者向けの住宅として運営していく。同施設を起点として街、行政、プレイヤーが交流し、若い世代を中心として発展し続ける施設になることを目指していきたいという。
今後は、燕三条で挑戦する新規出店者とともに、地域住民や地域外から来た人たちとの交流の拠点として発展しながら燕三条の玄関口を作っていくという。また同施設のオープンを皮切りに、三条市および地方の空き家問題の根本的な解決に向けて、空き家活用活性化の取り組みをより一層推進していく構えだ。全国的に課題となっている空き家活用のロールモデルとして、今後の活躍にも期待が掛かる。
オリジナル生店作りもこだわりの一つ
空くくる 代表社員 林美湖氏
土日限定の『フルーツ&バー フルエ』では、お店のメニューから内装まで、高校生の娘が全面的にプロデュースしています。フルーツをふんだんに使ったグラスデザートやモクテル(ノンアルコールカクテル)もこだわりです。お店をやっていない平日は、学生さんが勉強できるスペースとして貸しています。相場よりも安いと言われますが、受験を控える子供たちに頑張ってもらいたいという願いをこめて、安価で使ってもらっています。