不動産トピックス
【今週号の最終面記事】ビル経営の強い味方 テナントの資金サポートサービス
2023.03.06 10:21
敷金フリーオフィスと家賃保証会社の新サービスが台頭 23年問題を生き抜く中小オフィスの差別化戦略に
オフィスの新規供給が続く本年は、ビルの差別化が急務の課題。空室による契約内容や審査基準の緩和はリスクも大きい。そこで、信用できる保証会社選びが不可欠となる。
敷金0円プロジェクトを開始 賛同ビルを満室に導く
日商保(東京都港区)は昨年7月、敷金0円サービス「敷金フリーオフィス」の提供を開始。ビルオーナーや各専門家とともに、「敷金を成長資金に。プロジェクト」を発足し、推進している。
2011年に設立した日商保は、敷金の減額サービスを主軸に展開。現在は全国100社以上の不動産オーナー、約数百社のテナント企業が活用している。
サービスの特徴は、賃料の12カ月分程度必要になる敷金を半額~最大全額まで削減できること。ビルオーナー・テナント・日商保の3者間で三面契約を締結することにより、削減した敷金に代わる保証を日商保が不動産オーナーに対して提供する。一般的な家賃保証会社とは異なり、「敷金0円」でも保証可能で、「賃料の不払い」、「原状回復費用」、さらには「中途解約などの違約金」、「事業者の破産申し立て後の債務」といった賃貸借契約における債務すべてを保証の対象としている。
そんな同社が厳格な審査や敷金サポートのノウハウをもとに満を持して始めたのが「敷金フリーオフィス」。
経緯について、経営企画部部長の権藤豪氏は「当社独自の調査によると、日本のオフィス敷金の推定預託金額は約5兆円。この資金を眠らせることなく、中小・スタートアップ企業がチャレンジしやすい環境をつくりたいと考えました。『敷金を成長資金に。プロジェクト』は不動産オーナーや専門家、企業の賛同を働きかけてはじめた取り組みで、現在は20社ほどの企業に賛同いただいています」と話す。
「敷金フリーオフィス」の魅力は、敷金をゼロ円にできることに加えて流動化ができる点。日商保ではこれまでに、預託した敷金を保証に置き換えて入居中に現金で返還できる「敷金返還くん」も提供してきた。コロナでオフィスの規模見直しを図る意識が高まり、移転の動きが盛んになった昨今。敷金を流動化できるサービスは、中小規模のオフィスを中心に重宝されているという。
営業部統括部長の橋本猛氏は「オフィスの退去前と移転前は、一時的に敷金が二重にかかっている状態になります。これを一因に、移転に踏み切れないテナントも少なくありません。『敷金フリーオフィス』では減額した分の敷金を現金化して、オーナーからテナントに返還することもできます。集約移転をする場合はほかの拠点の敷金がまとめて一か所に返ってくるので、事業資金の捻出に大きく寄与します」と語る。
この「敷金フリーオフィス」をいち早く活用しているのが、「虎の門髙木ビル」をはじめ東京を中心にビル賃貸業を営む髙木ビル(東京都港区)。日商保とは2016年から、スタートアップ企業がオフィスビルに入居する際の移転費などの初期費用を削減し、成長を支援するプロジェクト「次世代型出世ビル」を推進してきた。その舞台となった「虎の門髙木ビル」からは、「敷金半額くん」を利用してIPOを遂げたテナント企業も輩出するなど、確かな実績につながっている。今回「敷金フリーオフィス」を導入した「神田髙木ビル」では、先月から入居者の募集を開始。テナントの成長や出店のハードルを下げる施策として導入したところ、約1カ月半で満床となった。
殊に近年は、敷金を減額できる家賃保証サービスも目立ち始めている。敷金と保証費用のだぶつきが少なくなる点は非常に魅力的だが、一方では、保証内容に対する懸念が残る。水道光熱費などは保証や敷金でまかなえるものの、違約金や原状回復費用が大きくかかる場合、保証範囲から外れた余剰の損失をオーナー側が被る危険性があるという。
「当社では賃貸借契約の債務のすべてが対象となり、オーナーと話し合って必要な保証額を設定しているため、オーナーに負担がかからない保証を提供することができます。入居前と入居中に適切な審査を行っているため、財務面に不安があるテナントや反社会的勢力などのテナントが入ることもありません。オーナー・テナントの双方が安心して利用できることが当社の強みです」(橋本氏)
日商保では、「敷金フリーオフィス」を開始3年で5000件展開まで広げていく構え。今後は内覧サポートや入居支援コンサルティングといった、オーナー向けのリーシング支援事業にも注力していきたいという。
新ブランド「TRI-WINS」スタートアップの追い風に
昨今の都心の中小規模オフィスビルでは、コロナによる退去からの収益悪化、さらに埋め戻しを優先することによる契約条件の緩和とそれに伴うビルの価値下落などの課題があがる。入居希望者が個人事業主や外資系企業などの場合、資金や実績が乏しいことから、審査に苦労しているビルオーナーも少なくない。世間の向きはスタートアップへの投資意欲も盛んであるものの、空室解消につながりづらい要因にもなっている。
そこに着目して新しいサービスブランドを発表した家賃保証会社もある。サンフロンティア不動産(東証プライム:8934)の連結子会社であるSFビルサポート(東京都千代田区)は先月24日、オフィス・店舗の賃貸保証サービスの新ブランド「TRI-WINS(トライウインズ)」を立ち上げた。同日に新ブランドの記者発表会が行われ、代表取締役社長の中村泉氏、保証事業部次長の増山暁泰氏が登壇した。
「TRI-WINS」の対象となるのは、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県のオフィスと店舗。保証内容は「賃料・共益費・その他固定費の滞納分」、「賃貸借契約解除後、物件明け渡し時までの賃料・共益費・その他固定費滞納分同等額の損害金」、「原状回復費用(上限4か月分まで)」、「訴訟等法的手続費用」、「水道光熱費」で、違約金は保証の対象外となる。
一般的な保証サービスと比べて、原状回復費用に入居者の承諾が不要な点、倒産や賃借人死亡時、また入居者の退去後も保証が継続される点などが魅力だ。保証限度額も家賃・共益費・その他固定費の18カ月分と手厚い。
督促状の発行、建物明渡し訴訟請求、強制執行にかかる業務等はSFビルサポートと同社の顧問弁護士で対応。訴訟費用を含む法的手続き費用はすべて保証される。ビルオーナーの手を煩わせることのない、退去までの一貫したサポート体制を整えている。
会見の中で増山氏は、2020年4月の民法改正とコロナによる経済状況の悪化を背景に、同年から家賃保証会社が増えていることに言及。保証会社の認知度が向上した一方で、課題も残ることを指摘した。
「通常の保証会社は代理店を通して契約を行います。そのせいで、契約内容をよく理解しないままに契約をしてしまうビルオーナー様も少なくありません。オーナー様が想定していた保証が、そもそも受けられないという問題が起きています。2023年以降に倒産企業が見込まれる中で、我々保証会社が社会的課題にどこまで向き合えるかと考えています」(増山氏)
さらに敷金・保証金の減額も可能としているため、オーナー側はより集客力を高められることも強み。
中村社長は「当社は設立から17年で、保証件数の累計は約8000件。今保証しているのは4000件弱ほどで、年間1~2割ほど増加しています。経団連は5年間で10倍の起業を目指す方針を発表し、スタートアップの支援は今後ますます必要とされていくことを感じております。新サービスを通して、さらに訴求を強めていきたいと思います」と語った。