不動産トピックス
【今週号の最終面特集】あなたのビルは大丈夫?リスクに備える防犯対策
2023.06.19 10:47
全国で相次ぐ新手の強盗事件 ビルを守るために必要な視点とは
先月8日の夕方。ハイブランドが並ぶ銀座中央通りで強盗事件が発生。都内の一等地、人通りの多い時間帯に起こった衝撃的な出来事だった。最近は似たような手口の強盗事件が目立ち始め、ビルの防犯対策も急務だ。
変容する強盗の組織犯罪 ビルの特性に合った対策を
リスクの割に利益を得られないことから、近年の日本では強盗事件自体が減少傾向にあった。特にバッグや時計といった高級品はシリアルナンバーで管理されているため、売ろうとしても足がつく。その現状が一転。近年はルフィの事件に代表されるように、実行犯を捨て駒とした組織による強盗形態が目立ち始めている。
大阪府高槻市に拠点を置く全国防犯啓蒙推進機構。2012年設立。約20年大阪府警の第一線で活躍した折元洋巳氏の知見を活かし、全国を対象に防犯啓蒙活動の展開、専門性のある「防犯機器提案者」の育成等を行っている。
府警時代に数々の犯罪を目の当たりにしてきた折元氏は、銀座の事件について次のように分析する。
「盗品と知りながら売買を行う『故買屋』という人たちがいます。普通の強盗が手を出せない『時計』を狙ったのは、販売できる『故買屋』のあてがあったからではないかとみています。こういった犯罪形態は今後も予断を許さず、模倣犯が出てくる可能性も高いと思います」
銀座のメインストリート・中央通りで白昼堂々と行われた強盗事件。この事件を教訓に、ビルオーナーが防犯上で気を付けなければならないことは何か。
「まず『防犯』と『警備』が違うという点は抑えていただきたい。私たちが目指しているのは、犯罪の『予防』。被害を最小限にする、あるいは食い止めることです。駆け付けサービスなどの『警備業』はあくまで被害が『起きてから』が本番。一方で、『人』がお店や物件の前に立つことは非常に効果的で、立哨警備などは犯罪の抑止につながります。また建物の『地域』、『種別』などによって対策が変わってくることも注意すべき点。防犯に関する間違った情報も錯綜しているので、信用できる専門家に、自分の所有物件に合った対策を相談することが大切です」(折元氏)
昨今は若者の心のスキに付け込んだ「闇バイト」が横行している。変化する犯罪形態に対応する力こそ、安全なビル経営に必要な視点といえよう。
防犯環境の整備が急務 運用を見直し防犯力の強化を
ビルの犯罪を未然に防ぐには、防犯環境を整えることが大切だ。
公益社団法人の日本防犯設備協会(東京都港区)は1986年に警察庁や関連団体などの要請、支援で設立。防犯機器や防犯システムの調査・研究、防犯設備士・総合防犯設備士の資格認定、ならびに防犯カメラ等の優良防犯機器認定(RBSS)を行っている。
総合防犯設備士委員会委員長の高尾祐之氏が提唱する「防犯5S」は、整理・整頓・清掃・習慣・主導権。「清掃」は、植栽管理や周辺地域のポイ捨て、不法投棄、落書き除去までが守備範囲。「習慣」は、些細なルール違反や秩序違反を見逃さないこと。「主導権」とは、犯行の主導権は犯罪企図者が握っていることを認識する。ポイ捨てや不法投棄が放置されているエリアは地域社会の目が行き届いていないとして、「犯罪企図者」のターゲットになりやすいのだ。
「犯罪企図者は『入りやすい・見えにくい・やりやすい』場所や状況に犯罪のチャンスがあると考えます。対策としては『入りにくい・居づらい』、『見えやすい・見通しが良い』、『(犯行が)やりにくい・難しい』場所や状況を整えることで、犯罪の抑止につながると考えています。エントランスを有人にして、人が通ると挨拶をする。路面店はガラス張りの内装にして視認性を高くする。オフィスなどはカギを2つ取り付けて犯行が面倒だと思わせる、などが挙げられます」(高尾氏)。
近年は侵入するとアラームが作動する監視カメラや、顔認証を用いた入退管理システムが普及している。
一方で、予算の都合から、万全の防犯対策をできない場合があるのも確か。まずは自分のビルで最優先の防犯課題を把握することが急務だ。
「不審者の侵入経路は『窓』か『ドア』のどちらかが大半。コストはかかりますが、例えば路面の店舗であれば割れにくいガラスを使っていることをアピールしておくことも有効だと思います。犯罪企図者は、常にターゲットとなる物件の情報を探っています。会社の秘匿情報が内部から外部に漏洩し、数億円クラスの強盗事件につながるケースも過去にありました。内部情報を誰にまで伝えてよいか、日ごろからリスク管理をしておくこと。中小規模の事業者はセキュリティにかけられるコストに限りがありますが、運用方法を見直すことで防犯力強化につながることも、知っておいて欲しい」
セキュリティ対策に注力 繁華街のビル独自の目線
繁華街という立地を加味し、セキュリティ対策に注力するビルオーナーがいる。「渋谷」駅徒歩1分に「渋谷駅前会館ビル(飯島ビル)」を保有する、飯島興業(東京都渋谷区)もその一社。
「渋谷駅前会館ビル(飯島ビル)」には下層階にパチンコ店が入るほか、朝から夕方まで営業しているクリニック、夕方から夜明けまで営業している飲食店まで、あらゆる業態のテナントが入居。昼夜を問わず多くの人が出入りする。
その特性柄、1階の出入口やエレベーター内・エレベーターホール、通路、階段・屋上の踊り場、屋上に至るまで、計21台の監視カメラを設置。ビルの規模を考えると、徹底した設置状況と言える。
専務取締役の飯島朋央氏は「一見変わった箇所でいうと、共用トイレ・給湯室の前、隣接ビルに面した2階の壁面部分にもカメラを設置しています。過去に6階の女子トイレから男性が出てきたという通報を受けたこと、深夜に外壁によじ登って落書きをされたという経験から、不審者対策の手立てとしています。設置以降は不審者情報も減少し、抑制につながっていると感じています。将来的には、もう少し設置台数を増やすことも検討しています」と話す。
ほかにも、警備員によるテナント閉店後の店内巡回点検(主にガスの元栓、電気など)、夜間と早朝の警備員受付による入退館の管理、6階共用トイレと給湯室に暗証番号式ドアロックを導入するなど、多くの対策を実施。テナントの安心につながる施策に余念がない。対策が功を奏し、昼夜人通りの多い立地にありながら、「渋谷駅前会館ビル(飯島ビル)」では大きなトラブルは起こっていないようだ。
正しい防犯知識を身に付けることの重要性
全国防犯啓蒙推進機構 代表 折元洋巳氏
住宅物件ではカメラ付きインターフォンが主流になりました。「カメラで確認できるから防犯対策になる」と考えている方が多いですが、それは危険です。泥棒はインターフォンを鳴らして不在の時を狙いますが、強盗の場合は作業服に段ボールなどを持って安心させた上で扉を開けさせます。今はフードやマスクで顔を隠して実行するケースも多く、監視カメラも強盗事件の抑止力にはなっていないのが現状です。オーナーの方は「設備」を導入して安心するのではなく、どう活用するかを念頭に対策を講じる必要があります。
ビルの利用者の安心・安全を追求
飯島興業 専務取締役 飯島朋央氏
監視カメラの映像は、常駐警備員の方が巡回や仮眠時間等を除き24時間体制で監視しています。異常事態があれば深夜でもすぐに駆け付けることが可能です。共用トイレにはオートロックのテンキーを導入していますが、安全性を高めるために半年に一度暗証番号を変えています。新しい取り組みとしては、今年に入って「刺股」を2本購入しました。今後は刺股の使い方講習会なども開きたいと考えています。