不動産トピックス

【今週号の最終面特集】遊休スペース・既存ストックを活用 地域のまちづくり戦略

2023.07.17 10:49

人々の暮らしを「楽しむ」場づくり 企画・設計施工から集客まで 自社で出店も
多様なライフスタイルに合わせ交流と賑わいが生まれる空間を提供
 地域の活性化は、外部からの来街者を増やすことも重要であるが、その街に定住する人を増やすことも非常に重要。生活インフラが整い、健やかな生活を送ることのできる街には自然と人が集まる。昨今では、その街にしかない個性や魅力が加わることで、街に賑わいがもたらされる事例が増えている。

リノベーションだけでなく地域を盛り上げるアイディア
 日々の生活を楽しむ上で重要となってくるのが、自身のライフスタイルをより豊かなものにしてくれる住環境と、魅力的な街の存在である。名古屋に拠点を構えるエイトデザイン(名古屋市昭和区)は「楽しむ」という社是のもと、人の暮らしを豊かにする住宅リノベーションを提案にとどまらず、地域全体を盛り上げるまちづくりの取り組みを積極的に展開している。
 エイトデザインは、建築デザイン・設計施工を軸に住宅のリノベーションや新築、オフィス・店舗の内装デザインから、リーシング・集客、マーケティング、ブランディングなどの様々なサポート業務もワンストップで提供。特に住宅リノベーションは同社が創業から手掛けている主力事業であり、住む人のライフスタイルに合わせた「暮らしのデザイン」を提案する。また、商業店舗では内装デザインの企画・設計から施工、開業支援までをサポートするが、同社の特色は建築という視点だけでなく、まちづくりのアプローチから最適な提案を得意としている点である。
 名古屋市北区の「SAKUMACHI商店街」は、名鉄瀬戸線「尼ケ坂」駅から「清水」駅にかけての高架下に、2020年に開業した商業施設である。かつては駐車場として利用されていたという高架下のスペースを活用し、街に住む人々が交流し賑わいのある商店街をつくることで、地域活性化に貢献したいという思いから企画されたというこのプロジェクト。エイトデザイン代表取締役の上坪文哉氏は、企画の経緯について次のように話す。
 「このエリアは名鉄瀬戸線を利用すれば名古屋市中心部の栄まで5分程度でアクセスできます。交通利便性が非常に高い住宅地ではありますが、周辺の高級住宅エリアと比較すると賃料が値ごろで人気の高いエリアです。一方で、都心に近接したロケーションであることから店舗の集積は比較的少なく、沿線の桜並木とともに街歩きを楽しめる商店街をつくることで、地域に住む方々の関わりが深まる交流拠点としたい考えがありました」
 施設は「新しい景色を高架下から」をテーマに、地元企業を中心に店舗の誘致を展開。普段使いができる店舗が並んでおり、精肉店や魚屋といった、昔ながらの商店街を感じさせる店舗も出店している。また、「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブの東海地区の拠点オフィスも施設内に誘致し、「住む・働く・遊ぶ」の要素を複合させたまちづくりを実現している。
 名古屋市昭和区、鶴舞公園近くの「丸銭屋ビル」のリノベーション事例では、長期にわたって借り手がつかなかった地上4階建ての空きビルを1棟リノベーションし、感度の高いクリエイターが集まるものづくりの拠点として再生。現在では街のシンボルとして地域に親しまれている。このほか、名鉄線「犬山」駅直結の駅ビル上階の賃貸物件「エスタシオン犬山」をリノベーションしたプロジェクト「SUMU INUYAMA」では、子育て世帯向け、女性向けと、フロアごとにコンセプトを設けたリノベーションを実施。女性向けフロアでは、アウトドアやインドア、ファッション、料理などテーマ別の環境デザインを提供。また、子育て世帯向けのフロアでは、すべり台など子どもが楽しめるキッズスペースやベビーフェンスが全室に完備されており、親子が楽しく、のびのびと生活できる環境を提供している。
 上坪氏は「楽しい街には自然と人が集まり、街に賑わいが生まれます」と話す。地域の特性や暮らす人のライフスタイルに即した住環境を提供するだけでなく、街全体の活性化に資する商業開発なども展開するエイトデザイン。自社で飲食店舗や美容室の運営なども行っており、街とともに歩みながら街を「楽しむ」まちづくりにこれからも取り組んでいく。

持続可能なまちづくりへ 広島県と連携協定締結
 広島県とリノベーション協議会(東京都渋谷区)は今月7日、「既存ストックの活用促進に向けた連携協定」を締結した。この協定は全国でも初めての取り組みで、官民で連携しながらリノベーションの普及促進に取り組み、県民の豊かな暮らしや住まいづくりを推進するものである。地域活性化につながる場づくりや、リノベーションの魅力・可能性に対する認知向上に資する施策など、全国のロールモデルとなるような先導的な取り組みを創出し、持続可能なまちづくりの実現を推進する。
 具体的な連携内容は、「地域活性化につながる既存ストックの活用促進」、「自分らしい暮らしを実現するためのリノベーションの普及開発」、「安心で快適な住まいの提供に向けたサービスの品質向上」の3点。広島県では、県内の各拠点エリアの魅力や求心力の向上などを目的として今年度から「ひろしまライフスタイルプロジェクト(仮称)」を展開しており、今年秋の本格始動を目指して県内外の民間団体などと積極的な意見交換を行っている。今回の連携を通じて公共的な空間などのリノベーションの推進などで同協議会の知見が生かされることになる。
 リノベーション協議会の山本卓也理事長は「リノベーションは既存ストックの価値の再生・向上によって、地球環境に配慮しながら『自分らしく』、『無理なく』、『自由』な住まい選びや、地域の魅力を生かしたまちづくりを具現化することが可能です。この協定によって広島県とともに既存ストックの活用とリノベーションの普及啓発を推進し、日本全国にリノベーションによる『持続可能なまちづくり』を拡げていきたい」と述べている。




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