不動産トピックス

【今週号の最終面特集】大手企業が取り組むカーボンニュートラル

2023.08.07 10:24

延床10万㎡超の既存ビルでは国内初 設備改修でのZEB化を実践
自社オフィスで先行実施 省エネ・快適性の両立を検証
 2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けては、国主導によるさまざまな取り組みが加速し、一般生活に至るまで脱炭素社会を目指す意識が高まっている。とりわけ多くのCO2を排出する産業や業務分野においても脱炭素に向けた積極的な取り組みが展開されている。今回は多くの人が働く大規模ビルでの取り組みを紹介したい。

企業イメージのアップのほか資産価値向上にも効果
 不動産の賃貸管理や土地活用の提案などを行う大東建託(東京都港区)は、JR「品川」駅前に保有する本社ビル「品川イーストワンタワー」においてZEB(ゼブ)化に向けた改修工事を試験的に進め、本年3月、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)のZEB認証を取得した。
 「ZEB」とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称であり、経済産業省資源エネルギー庁はZEBについて以下のように定義している。
 「先進的な建築設計によるエネルギー負荷の抑制やパッシブ技術の採用による自然エネルギーの積極的な活用、高効率な設備システムの導入等により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物」
 高効率な設備機器への改修や建物利用者の自助努力による省エネを行いつつ、それでも減らすことが難しい分については再生可能エネルギーの活用によって賄おうというのがZEBの考え方。実際にエネルギー消費ゼロで運用するビルではなく、計算上エネルギーゼロで運用されるビルを指す。ZEB認証はエネルギー消費量削減の達成状況に応じて4段階に定義されており、前述のように年間のエネルギー消費量が実質ゼロのビルをZEB、以下、ZEBの達成状況が高い順にNearly ZEB(ニアリー ゼブ)、ZEB Ready(ゼブ レディ)、ZEB Oriented(ゼブ オリエンテッド)と分類される。それぞれのステージに応じて要件が定められているものの、ZEB認証の取得はカーボンニュートラル実現への貢献という側面だけではなく、建物を保有する事業者にとっては不動産価値の向上や企業イメージの向上、賃貸ビルであればテナントリーシングにも効果が見込めるとして高い関心を集めているのが現状だ。

温室効果ガス排出量2050年までに実質ゼロへ
 大東建託が保有する「品川イーストワンタワー」は2003年3月に竣工。建物規模は地上32階地下3階で、延床面積約11万8000㎡。「品川」駅港南口にそびえる超高層ビル群の一角を占める建築物である。同物件のZEB化への取り組みは2020年度よりスタートした。その背景について、大東建託の技術開発部次長・大久保孝洋氏は次のように話す。
 「企業に対するESGへの社会的要請が日増しに高まっていく中で、当社では2050年までにバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げました。今回のZEB化はそうした流れの中で企画されたものですが、『品川イーストワンタワー』は当社が3フロアを本社事務所として使用する以外は、入居企業がオフィスを構える賃貸フロアとなっています。まず試験的に自社オフィスにおいてZEB化を念頭に置いた改修工事を実施し、その効果を検証した上で賃貸フロアへと展開するのが望ましいという結論に達し、第1段階として22階のワンフロアから改修工事がスタートしました」
 同社としても初めての取り組みということもあり、22階フロアのZEB設計に要した期間はおよそ1年、その後の改修工事についても平日は作業ができず休日を中心に作業が進められたことから、こちらもおよそ1年の期間を要した。具体的には天井照明のLED化とともに人感センサーの設置が行われ、そのほか高効率空調設備への更新も実施。エネルギー消費量を従来比で40%削減することを目標とした設計ならびに改修工事が行われた。
 その後は22階フロアのエネルギー消費状況の検証が予定されていたものの、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってオフィス出社率の抑制を余儀なくされ、館内人口の変化によって単純な比較検証が難しい状況となってしまった。大久保氏は「年間でエネルギー消費が比較的大きな夏場に検証しようと考え、コロナ期間中であった2021年夏の出社率が高い日を中心に検証活動を行ってきました。建築物のZEB化で重要なのは、エネルギー消費の実質ゼロと建物内の快適性維持を両立することです。22階フロアでの検証では、設計通り40%の省エネ効果が認められるとともに、職場環境への悪影響が起きていないかをモニタリングし、こちらも問題がないことが確認されました」と述べる。

1年で4フロアを改修 長期スケジュールの計画
 22階フロアでの実証を経て、同社は「品川イーストワンタワー」のオフィスフロア全体のZEB化に向けた設計作業を開始。この全体設計では建物全体で20%の省エネ効果を発揮するための設備改修が計画され、前述のLED照明や空調設備のほか、換気設備についても高度な機器への更新が設計された。大久保氏によれば、2003年竣工の同物件は館内での喫煙所の設置を想定した換気フィルターが配備されているとのこと。分煙化が定着した現在においては過剰な設備となることから、換気フィルターの撤去も予定されているという。この建物全体のZEB設計がBELSにおいて最高評価の5つ星を獲得し、「ZEB Oriented」認定の取得にもつながった。延床面積10万㎡を超える既存の大規模ビル改修でのZEB化は国内初の事例となる。
 先行して実施された22階フロアでのZEB化改修の実績を踏まえ、同社では休日作業のスケジュールを組んだと想定し1年で4フロアの改修工事を計画。5年で20層のオフィスフロア全体のZEB改修を完了することを目標とし、来年度から本格的な工事に着手するとのことだ。大久保氏は「ZEB改修は多額の費用を投じて行うものであり、建物の資産価値や企業の価値向上も、今回のZEB化の大きなテーマとなっています。近年はテナント企業側の賃貸ビルに対する評価基準の1つとして、建物の環境性能が注目されています。所有者側としては賃料アップも期待できる取り組みとして、建築物のZEB化が広く認知されてほしいと考えています」と話す。
 大東建託は昨年9月、東京証券取引所における所属業種が建設業から不動産業に変更となった。今回の「品川イーストワンタワー」ZEB化への取り組みは既存大規模ビルとしては国内初の事例という意味においても関心度が非常に高く、今後ますます拡大する建築物のZEB化におけるモデルケースとして認知されることだろう。




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