不動産トピックス

【今週号の最終面特集】地域の課題解決に繋がる 求められる建物建設

2023.10.09 10:15

高齢者用の介護施設とスーパーが入居 地域に求められる複合物件開発
 不動産オーナーの中には、地域が抱えている課題解決を視野に入れて用途を構築し、テナントの誘致まで行うケースがある。建設時などの手間や苦労は多いだろう。しかし、竣工後は中長期に渡って同地から求められる、存在感のある物件として残っていく。

工場移転後の跡地活用 複合物件に再生成功
 W不動産(東京都港区)は、京急本線「立会川」駅から徒歩7~8分の南大井4丁目に「W南大井」を建設した。
 同社はJR「品川」駅港南口から徒歩5分に「Wビル」を所有・管理する他、一都三県にて不動産賃貸業を行なっている。ここ数年は不動産関連事業を骨太にするべく、シェアオフィスの運営、収益不動産の取得や不動産の有効活用を手掛け、事業内容の強化を図ってきた。「W南大井」は、グループ会社の工場移転後の跡地活用として誕生した。敷地面積1504㎡の土地に、地上6階建て・延床面積4190㎡の高齢者用の介護施設とスーパーマーケットが入居した複合施設になっている。介護施設は「ニチイホーム南大井」として、今年6月より運営開始。一階に設けた店舗区画には9月下旬より「そうてつローゼン南大井」がオープンした。
 工場移転後の跡地の活用は開発部が担当。開発部は保有する土地・建物の有効活用の企画と既存収益不動産の取得を行っている部署。工場移転後のエリアの特性調査を進める中で、高齢者用の介護施設が不足していることと、同地周辺には住民が増えているが日常の買い物に便利なスーパーマーケットが不足していることに着目していたが、周辺にはこれらの施設誘致に適したまとまった規模の土地が少ないことから、これら課題を解決することで、同プロジェクトが地域に根差した施設になると確信。複合施設にすることに決めた。
 また設計段階から地域の安全面と近隣の小学校にも配慮した。同地周辺道路は近隣小学校の通学路になっており、児童が多い。また北側道路は道路幅員に比して車の交通量が多い。そこで1階スーパーの荷捌き場は比較的交通量の少ない場所に設ける等、事故を未然に防ぐ取り組みを念頭に置いて設計を実施。かつ通学路で特に児童の往来が多い面には、開口部を多く設けることで、スーパーの利用客が自然に子供たちを見守ることを狙った。安全面と共に地域の防犯体制にも繋がることを狙っている。

WoodCity構想 ビル建替えに木造提案
 studio KOIVU一級建築士事務所(名古屋市熱田区)は、今年4月にJR・名鉄「金山」駅南口から徒歩3分に木造ビル「金山ウッドシティビル」を建設。今後は都市部で複数の中規模木造建築を行い、木造化・木質化による街区全体の価値を高めていく「複合開発構想」を進めていく。  施工主は同社に所属する建築家で、日本福祉大学の健康科学部福祉工学科の准教授でもある坂口大史氏。2019年頃から建築計画を進めて、コロナ禍を経て3年掛けて実現した。約14坪の狭小地に地上3階建て・延床面積99・96㎡の純木造ビルを建設。1~2階には同社の事務所と、CLTの加工機などを卸している会社・木工機械のオフィスが入居。3階にはCLTのメーカーと構造設計の企業が入居した。ちなみに各階2部屋用意し、部屋の広さは全て約5坪となる。ビルは外壁の木製ルーバーと特殊施工で建築。工場で事前に壁を制作した後に、現地では壁を据え付ける。現場での施工手間や施工誤差を極限まで少なくし、狭小地でのビル建設や工期短縮を実現した。
 ここまでは弊紙の5月15日発行号で掲載した。坂口氏は現在名古屋市を中心に「名古屋版Wood City構想」を掲げ、木造の普及・促進と共に、都市の魅力づくりに取り組んでいる。「名古屋版Wood City構想」は、フィンランドの首都ヘルシンキ西部の港湾地区で木造化・木質化を進めようという複合開発プロジェクト「Wood City構想」にならったもの。ヘルシンキの構想は同じブロック(街区)の中に、4棟の木造建築を行うもの。オフィスビル2棟と集合住宅2棟の合計4棟が木造建築となり、もうすぐ最後の1棟が竣工予定だ。
 坂口氏は「ヘルシンキの港湾地区は、大型フェリーが乗り入れる港町です。完成後は船から木造建築が街並みとして綺麗に見え、その景色が街の魅力として認知されていくことでしょう。名古屋版Wood City構想に港は無いですが、線路沿いなので船の代わりに電車から、木造建築の街並みを見ることができます。『金山ウッドシティビル』が同地における中規模木造建築の第1弾として手掛けたことで、近隣に立地する築古物件の建替え、特にテナントビルの建替えの指針や見本となればと思います」と語った。
 今後は近隣の不動産オーナーに、建築士としての立場とオーナー目線で木造による建替えを提案していく。同地のオーナーの中には、単に建替えるだけでは競争力で年数の経過と共に負けていくと見ている人もいるとか。その様なオーナーと一緒に街の魅力づくりに繋げていく。


利便性の高い場所に介護施設誘致
W不動産 開発部長 筧直之氏
 利便性の高い場所に介護施設を誘致し、その同じ建物に近隣住民の方が日常的に集うスーパーを複合させることで、気軽に家族が会いにこられる地域の多世代交流が生まれることを期待して企画しました。また、ニチイさんにも協力いただき、防災井戸を設ける等、地域の防災拠点にもなる施設ですので、地域の方が日常的に足を運んでいただくことで、地域の防災意識の向上にも寄与できれば幸いです。9月27日には相鉄ローゼン様の「そうてつローゼン品川南大井店」もオープンしました。背景には周辺が住宅化し居住人口が増えているにも関わらず、近隣には食料品を手軽に買うことのできるスーパーが無かったことがあげられます。従前から近隣の買い物需要に着目しており、今回の跡地の活用と共に実現に至りました。ちなみに相鉄ローゼンは23区内初出店とのことで、そのような重要な店舗を私どもの「W南大井」を選んで頂けたことをとても嬉しく思っています。またW不動産では、不動産の有効活用の他、物件取得やシェアオフィスの運営にも注力しています。21年3月にJR線や新幹線利用可能な「新横浜」駅から徒歩4分に位置する「新横浜第3東昇ビル」を取得。22年9月末にJR「松戸」駅から徒歩1分に位置する「アセット松戸Ⅲ(現『W松戸』)」、更に今年2月末には東京メトロ「中野富士見町」駅から徒歩9分の方南通り沿いに建つ「クリスタルコート88」を取得することができました。また2019年から運営をスタートさせたシェアオフィス「リブポート」事業も、同年8月から「リブポート浜松町」、同年10月に「リブポート品川」、22年5月に「リブポート新横浜」、23年7月に「リブポート松戸」を順次開設。多様なワークスタイルに対応しつつ、小規模オフィスの需要などにも応えている。今後もW不動産では、年に数棟の収益不動産の取得と、リブポートの新規開設に注力していきます。


SDGsの視点から木造注目集める studio KOIVU一級建築士事務所 建築士 坂口大史氏
 ESG投資やSDGs等の視点から、木造案件は近年注目されています。事業用物件であればオフィスや来客型のサービス店舗、ショールームとして活用可能です。階数は地上4階までが目安で、駅前商業ビルの建替えや高さ制限のある土地活用に適しています。竣工から数カ月は「金山ウッドシティビル」に、内覧や見学に訪れる人が多く見られました。中には建替えや投資用の開発物件に木造ビルを検討しているケースも噂程度ですが耳にします。現在建替えのコスト増で悩まれているオーナーも多いかと思いますので、当社としては低層の木造ビルで積極的に提案していく方針です。




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