不動産トピックス

クローズアップ 生成AI編

2024.01.29 10:07

 AI(人工知能)に学習機能を付加し、過去のデータをもとに自らが的確な回答を考える生成AI。日本国内でも日常生活はもちろんのこと、ビジネスの場面においても生成AIを活用し、業務効率化を実現する流れが加速している。

AIクラウドサービス「GaiXer」を開発 精度の高い回答を実現
 FIXER(東京都港区)は、マイクロソフト社のクラウドサービス「Microsoft Azure」のサービス開始前の2008年に設立。その後、2010年の正式サービス開始と同時に「Microsoft Azure」を通じた顧客のDX化をサポートし、日本国内におけるクラウドの黎明期から同サービスの普及拡大を担ってきた。
 クラウドとは、従来は利用者自身のPCやサーバーで保存・管理していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由で利用者に提供するサービスである。クラウドを活用することでデータやソフトウェアの保存・管理、システムの構築などに必要となる機材の購入が不要となり、コスト削減や業務効率化に大きく貢献。現在では多くの企業がクラウドサービスを活用している。
 またクラウドの活用は、データ管理におけるリスクヘッジという点でも大きなメリットを持つ。先日発生した能登半島地震では多くの事務所や店舗、家屋が全壊・半壊の被害を受けた。このような大規模な災害が発生した際、建物内のPCやサーバーが破壊あるいは停電等で起動しなくなってしまえば、内部に保存されたデータを取り出すことができなくなり、事業の継続に大きな影響を及ぼす。一方、遠隔地のサーバーでデータを保存・管理するクラウドサービスを活用すれば、企業にとって重要なデータを守ることができ、事業の再スタートに向けたハードルを下げることにもつながる。
 FIXERの松岡清一社長は「政府は2018年、政府および各省庁が取り扱う情報システムを構築する際に、第一候補としてクラウドサービスの利用を検討する方針として『クラウド・バイ・デフォルト原則』のガイドラインを打ち出しました。民間企業でもこのガイドラインを参考にクラウド化を推進する動きが活発になっており、ネットワークでつながった社員間で情報を共有できるクラウドサービスは、不動産業界でも活用の裾野を広げています」と話す。
 またFIXERでは、様々なビジネス領域での活用が進む生成AIにも着目。マイクロソフト社の生成型AI「Azure OpenAI Service」をベースとした生成AIプラットフォーム「GaiXer(ガイザー)」を昨年4月より提供開始している。「Azure OpenAI Service」は、米国のOpenAI社が開発した「ChatGPT」や「GPT―4」といった生成型AIモデルを簡単に利用できるクラウドサービスである。不動産業界では、売買取引における物件の選定や査定といった場面などで、AIが活用されるケースがあった。ここで用いられるAIはいわゆる「第3世代」と呼ばれ、定型化された回答が用意されており、質問内容に応じて適切な回答が提供されるというものだ。一方、「GaiXer」のように生成AIを活用したサービスは「ジェネレーティブAI」と呼ばれ、ビッグデータからAI自身が学習し、最適な回答を創造するというもの。より精度の高い文書作成や回答を実現することで作業の効率化をこれまで以上に実現することができるのだ。
 FIXERの松岡社長によれば、「『GaiXer』は自治体でのご採用が増えており、議会での質問に対する回答の作成などにご活用頂いております。また当社は顧客のビジネスのDX化に向けたコンサルティングサービスも併せて提供しており、医療機関の事務サポートなどでもご採用が増えております」とのこと。不動産業界でも契約書の作成や賃貸・管理・設備点検におけるレポーティングなど、様々な場面で生成AIを活用した業務効率化が期待される。

ダイヤモンド・ビジネス企画 書籍の内容を学習し著書の考えをAIで表現
 ダイヤモンド・ビジネス企画(東京都渋谷区)は、書籍の著者との対話を可能とする「DIAMOND AI」を開発、今月25日に発表した。
 生成AIは、広くウェブ上から情報を収集し、利用者の質問に対して回答を生成する。しかし回答内容の中には誤情報が含まれている可能性があり、また一般論の回答や抽象的な言葉による回答しか得られないなど、実用性の課題が存在する。今回発表された「DIAMOND AI」は、書籍から学習したデータをもとに、特定の人物の考えを反映させた回答を提供するAIサービスである。書籍には著者の考えが詰まっており、情報の信頼性が高く、ウェブ上の情報から学習したAIよりも正確な回答が期待できる。ダイヤモンド・ビジネス企画は出版とITの分野で長年にわたる経験を有しており、書籍とAIを組み合わせ同サービスの開発に成功した。
 例えば、仕事で悩んでいる人がAIにアドバイスを求めた際、一般的な生成AIは「顧客ニーズの理解」や「効果的なコミュニケーション」といった回答を提示する。これらの回答は簡潔で間違いではないものの、具体的な内容に踏み込んだものではなく、一般論を提示しているに過ぎない。一方「DIAMOND AI」は、著者がこれまで発表した書籍の内容をAIが学習。質問に対しては、過去の書籍の内容から回答に適した部分を抜粋し、あたかも著者自身が回答しているかのような内容で回答を提示する。そのため回答は一般論にとどまらず、エピソードや逸話などをまじえた著者ならではの回答の提供を実現している。
 また「DIAMOND AI」は、営業や企業経営といったビジネスの分野だけではなく、スポーツ強豪校の監督やプロチームの指導者からの的確なアドバイスなど、利用者の質問内容やシチュエーションに応じて様々な活用が想定される。このほか、経営者の考え方や理念などを事前に情報収集し、AIに学習させることで、「DIAMOND AI」を通じて社員は経営者に対して悩みを相談し、経営者ならではの表現で回答することができる。
 同サービスは同社発行の書籍に限らず、他の出版社の書籍に対してもOEM提供を通することで、出版業界全体の活性化につなげていくとのことだ。




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