不動産トピックス

【今週号の最終面特集】不動産の有効活用 住宅編

2024.02.12 10:42

眠っている価値を掘り起こす不動産運用法 住む人の思いに寄りそった開発
先進技術導入した住まい セカンドハウス需要にも対応
 ライフスタイルの多様化は住宅市場にも大きな影響を与えている。一般的な建売住宅だけでなく、住む人の生活によりフィットしたコンセプト型の住宅にも需要が集まっている。オリジナリティの要素を加えることで不動産に付加価値を与える事例を、住宅という視点から紹介していく。

グループ所有の遊休地を活用 趣味を楽しむガレージハウス
 西武リアルティソリューションズ(東京都豊島区)は西武鉄道沿線の遊休地活用の取り組みとして、埼玉県所沢市に賃貸ガレージハウス「エミベース 小手指」を開発。2月末の竣工を予定している。
 「エミベース」は、「多種多様な趣味の世界を満喫することができる住まい」を事業コンセプトとする賃貸ガレージハウスで、「エミベース 小手指」は2022年1月に竣工した「エミベース 入間鍵山」に続く2号物件となる。物件の開発に携わった都市開発事業部 沿線開発担当の西村希氏は「周辺は住宅が建ち並ぶ落ち着いた雰囲気で、ドラッグストアなどの商業店舗も集積。最寄りの西武池袋線『小手指』駅より徒歩10分と、快適な住環境が整っています」と話す。物件の目の前には水路が流れており、春になれば枝垂れ桜が満開となって美しい景観を楽しめるそうだ。車庫と一体となったガレージハウスであるだけに、自家用車やバイクを趣味に持つ層が想定される主な入居者となる。都市開発事業部 沿線開発担当の石川達也氏は「圏央道の入間ICへは約20分と、車でのアクセスも良好で、少し足を延ばせば狭山湖や多摩湖といった豊かな自然にも触れることができます」と話す。
 建物の設計・施工はガレージハウスの開発で多数の実績を有する「デイトナハウス×LDK」(東京都中央区)が担当。外観のカラーはワイルドな印象の黒を採用し、室内は鉄骨や梁を露出させインダストリアルな空間で、一般の住宅にはない「秘密基地感」を演出している。各戸とも1階にガレージを設け、愛車のメンテナンスやカスタマイズといった趣味に没頭できるスペースとし、2階の居住スペースにはロフトも設けられている。また「エミベース 小手指」では全住戸でスマートホーム化が導入されており、都市開発事業部 沿線開発担当の上遠野幸奈氏は「玄関の鍵の施錠・解錠や、照明のオン・オフを遠隔操作で行うことができます。また、建物内外には防犯カメラを設置しており、離れた場所でも物件の様子を確認することができることから、主住居としての需要だけでなくセカンドハウスとしての需要にも応えます」と話す。
 敷地内にはバイクの洗車スペースを設置するほか、ベンチを設置して同じ趣味を持つ入居者同士の交流を促す。前出の西村氏は「本物件の開発にあたって、近隣のバイクショップの方にアドバイスを頂く機会がありました。当初、バイクガレージの壁面はショールームを意識してガラス張りを検討していましたが、盗難防止の観点から計画を変更しました。このほか、敷地内のベンチもアドバイスをもとに設置が決まったもので、当事者のご意見をもとに趣味を楽しみながら日々の生活を送れる物件に仕上がったと思います」と話す。「エミベース 小手指」は今月5日より入居募集を開始し、3月下旬からの入居開始を予定。同社では今後も「エミベース」をはじめ、西武グループの遊休地活用や収益化に向けた取り組みを積極的に行う考えだ。

築130年の歴史的な洋館 著名漫画家らの支援で再生
 世田谷区豪徳寺の閑静な住宅街に、築130年を超える水色の洋館が佇んでいる。1888年(明治21年)に建築されたこの洋館は英国生まれの娘のために、父である男爵が建てたもの。娘は後に東京市長・尾崎行雄の妻となった尾崎テオドラであることから、この洋館は「旧尾崎邸」あるいは「旧尾崎テオドラ邸」として市民に親しまれている。洋館は麻布で建築された後、1933年(昭和8年)に現在の豪徳寺に移築された。
 建物は木造の地上2階建てで、敷地面積は400・07㎡、建築面積は156・7㎡、延床面積は278・4㎡。明治期に建築された歴史ある洋館は長きにわたって地域のシンボルとして知られてきたが、2020年に居住者の退去に伴い解体工事が計画されることとなった。これに対し、「天才柳沢教授の生活」などの代表作で知られる漫画家・山下和美さんが発起人となり、著名な漫画家らによる支援やクラウドファンディングで資金を募るなどして建物の保存活動を展開。昨年2月から約1年間に及ぶ工事の末、今月8日に改装した「旧尾崎テオドラ邸」が披露され、記者会見には保存活動に関わった漫画家らが出席した。
 工事は主に「耐震補強」・「性能の確保」・「130年前の姿の再現」に重点を置いて実施された。建物の安全性を確保するために壁面などの耐震化を実施したほか、渡り廊下を補強要素として活用。またドーマー窓(勾配のある屋根面から垂直に突き出した形の窓)を用いた24時間換気の実施や、人が集まる場所の給気、60デシベルを目標とした防音性能を確保し、室内の快適性の維持・向上を実現。加えて、130年超の歴史的建造物の意匠の再現を目標に、工事における材料や備品を厳選。配線・換気の動線は家具を利用して極力露出を避けるよう設計された。
 建物1階はアフタヌーンティーを楽しめる喫茶室と、オリジナルのグッズをはじめとする様々な商品を販売するショップ、2階は漫画を中心とした展示を行うギャラリーとなる。
 「旧尾崎テオドラ邸」は3月1日のグランドオープンを皮切りに一般公開され、漫画コンテンツを活用して日本の漫画の高いクオリティと多様性などの魅力を世界に発信する観光スポットへと成長することを目指す。保存活動で中心的な役割を担ってきた山下和美さんは「この建物が豪徳寺の街のシンボルになってほしいと思います」と述べた。




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