不動産トピックス

【今週号の最終面特集】変化する住まいのあり方 賃貸住宅の現在地

2024.03.04 10:28

煩雑な従来モデル覆す新賃貸プラン 短期滞在から長期居住まで多様な需要に対応
 3月から4月にかけては賃貸住宅の入居者の移動が活発になる。競合物件との差別化戦略といえば、賃料など条件面の緩和や効果的なリフォーム・リノベーションが挙げられる。今回はこれまでにない賃貸借を実現した例を紹介する。

昨年日本市場へ進出 3年後に1万戸の保有目指す
 アジア太平洋地域で都市型の家具・家電付き賃貸住宅を展開する総合賃貸住宅プロバイダーのWEAVE LIVING(以下、ウィーヴ リビング、本社:中国・香港)は、昨年3月に日本法人を設立。秋には東京都内に合計352戸の新築集合住宅9棟を取得し、日本の賃貸住宅市場での事業拡大を本格的にスタートさせた。
 ウィーヴ リビングは2017年に設立。その目的について創業者のサチン・ドシ氏は「私たちは、複雑な手続きが必要など面倒なプロセスを極力排し、利便性のある賃貸住宅を提供し、新しい住まいのあり方をご提案するために設立しました。現在、本社を置く香港のほか、シンガポール、日本、韓国において事業を展開しており、アジア太平洋地域で合計25物件、約2500戸を運営し、資産運用残高は約28億米ドルで、来年度末までに35億米ドルまで事業を拡大したいと考えています。その中で日本は良質な賃貸住宅が豊富に供給される土地であると認識しており、昨年の本格参入から現在までに東京都心部を中心に11物件を手掛けてきました。当社としては、日本は重要なマーケットであると位置づけており、今後2~3年で2000~3000戸程度の供給を目指しています」と話す。
 ウィーヴ リビングが提供する賃貸住宅は利便性とデザイン性の両立が大きな特徴となっている。賃貸住宅の契約から入居にあたっては、現地を見学して入居先を選定し、不動産仲介業者を挟んで貸主・借主の間で賃貸借契約を書面で交わすというのが一般的である。一方、同社の賃貸住宅は公式サイトからの申し込みによる完全オンラインでの契約が可能。契約プランは1カ月以上、3カ月以上、9カ月以上の3つのプランから選択することができ、1度の契約で最長18カ月まで入居が可能となっている。ベッドやテーブル、ソファといった家具類や、冷蔵庫・洗濯機・テレビなどの家電は備え付けの状態で引渡しとなる。また、水道光熱費も賃料に含んでいる点も、同社物件の大きな特徴といえるだろう。
 ウィーヴ リビングの日本法人で代表を務める野口大助氏は「以前に比べグローバル化が進んだとはいえ、外国人が日本国内で賃貸住宅を借りて暮らすのは、まだまだ高いハードルがあるというのが現状です。その大きな理由の1つとして、電気・ガス・水道・インターネット通信費といった生活インフラの申し込み手続きが煩雑であるという点です。当社はそうした課題をクリアする新しい住まいの形を提案し、住まいの選択肢の1つを提供していきたいと考えています」と述べる。
 今月から入居が開始となる「Weave Place(ウィーヴ プレイス)浅草雷門」は、東京随一の観光地・浅草に立地。最寄りの東京メトロ銀座線「浅草」駅へは徒歩3分でアクセスできる好立地となっており、観光名所の雷門や浅草寺も徒歩圏内。間取りはワンルームからファミリータイプまで多彩な72室を設け、外国人観光客の短期~中長期滞在ニーズに幅広く対応。また前述のように水道光熱費は賃料に含まれ、礼金・保証料は不要で初期費用がかからない点、手続きがオンラインで完結することなどから、面倒なプロセスを回避したいビジネスマンや学生の居住ニーズにも対応する。同社は浅草雷門のほか、墨田区の両国および森下でも新築賃貸住宅を3月にオープンする。ストレスフリーで快適な都市生活を提供する同社の賃貸住宅ブランド「ウィーヴ プレイス」は、早稲田・門前仲町・東高円寺・国立に今回の3物件を加え合計8物件となる。前出の野口氏は「コロナ禍を経てライフスタイル・ワークスタイルが変化し、居住空間に対するニーズが多様化しています。当社は従来にはない新しいビジネスモデルで住まいの選択肢の1つとして定着することを目指すとともに、東京だけでなく今後は大阪での事業にも着手し、3年後の2027年までに1万戸の保有を目指す考えです」と述べている。

築48年の物件を再生 安全性と快適性を両立
 東京・永福町で築48年の賃貸共同住宅の再生が実施され、2月に工事が完了した。物件は京王井の頭線「永福町」駅から徒歩10分ほど、方南通りに面した地上5階建てである。オーナーは広い敷地内に数十年をかけて自宅と4棟の共同住宅を新築し、一部エレベーター棟を増築した箇所もある。最も初期に建てられたのは1975年築の共同住宅で、今回の再生工事はこの棟の耐震化および増築を目的に行われた。
 再生工事の設計監理を手掛けたのは渡邉明弘建築設計事務所(東京都渋谷区)。代表の渡邉明弘氏は「お住まいの方々はこの地に愛着を持ち、住民同士やオーナーとの良好な関係が形成されていると感じました。築48年の1棟を再生するにあたり、こうした環境を尊重することを念頭に、違反建築となっていた駐輪場の移築や再築、共用通路のような窓先空地の確保など、敷地内の交流を生み出す設計としました」と話す。
 エントランスには金属製で円弧状の庇を設置。建物本体からの片持ちとして設置し腰壁と縁を切る(2つの部材を直結させないこと)ことで、エントランス部は法的に屋外扱いとしている。屋内扱いとして設計すると、都条例により屋外である共用の開放廊下や階段を含め防火区画とする必要が生じてしまうためだ。また、住戸はコンパクトな間取りでも快適性を最大限出せるよう、通常は寝室に設けるクローゼットを脱衣所に計画し、脱衣や身支度を伴うスペースとしてひとまとめにした。ユニットバスやパウダールームは片方の界壁(隣室との境界となる壁)に寄せることで、広々とした居室空間や回遊動線を確保。開放廊下に面した外壁は耐震性に課題のある極脆性柱を形成していたため、柱のRC側壁のみを解体し、乾式工法で新設している。近年は在宅勤務も増え、共同住宅には暮らしや住民同士のコミュニティ形成という役割のみならず、ワークスタイルの変化への対応など、これまで以上に役割が多様化している。今回の再生工事は老朽化した建築物のバリューアップという側面以外にも、住民に豊かな暮らしや新しい価値を提供する好例といえる。

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