不動産トピックス
【今週号の最終面特集】新規参入や竣工物件続々 中小ビルのブランド戦略
2024.03.11 10:07
環境認証制度取得 セットアップやバルコニー採用…攻勢顕著な中小ビルブランド
大手デベロッパーを中心にここ数年、中小規模のビルブランドへ参入する動きがある。後発のブランドほど、展開戦略やリーシング対象、開発用地の選択に独自性が見られる。スタートアップ等からは利用するシェアオフィスからのステップアップのオフィスとしても知られる。
NTT都市開発の新オフィスブランド
NTT都市開発(東京都千代田区)は昨年10月、多様なコミュニケーションが生まれる新オフィスブランド「owns(オウンズ)」の開始を発表。今月5日には具体的なブランド概要についての説明会が開催された。
ownsは「集まりたくなる場所」を追求して生まれたオフィスブランド。中小規模の新築オフィスビルを開発し、都内を中心に展開していく。現在4物件が建設中。今年10月に地上12階建て・延床面積1941㎡の「owns平河町」が開業予定。続いて11月に地上13階建て・延床面積2846㎡の「owns日本橋」、25年2月に地上14階建て・延床面積2027㎡の「owns新橋」、5月に地上12階建て・延床面積4163㎡の「owns八丁堀」が開業予定だ。
開発本部 担当課長の佐々木智司氏は「コロナ禍を通じてリモートワークが定着し、働き方が多様化してきました。誰もが自らの働き方を主体的に選択できる時代となり、オフィスにわざわざ集まることで生まれる熱量や多様なコミュニケーションの重要性も改めて認識されるようになりました。ownsは、人それぞれの働き方や価値観を尊重しながら『集まることの価値』を最大限高めていく、新しいオフィスブランドです」と説明した。
シリーズ全物件でZEB Ready
ownsの強みは5つ。1つ目が集いたくなる空間の構築。各貸室フロアに広々とした専用テラスを用意し、屋外でデスクを囲んだ議論やカジュアルな相談など様々な用途で使用できる。社員間交流を誘発するようなデザインのセットアップフロアも一部の階に設置。コミュニケーションが促進される空間を提供する。2つ目はビル内に設けた多様なスペース。貸室以外に気分やニーズに合わせて使用できる、多様な共用空間(ラウンジなど)を物件ごとに用意する。ちょっとした打ち合わせやリフレッシュなどに利用可能。更に平河町、日本橋、八丁堀では屋上テラスを設置予定。屋上テラスでの考えごとや貸し切りでのイベントも開催可能だ。
3つ目は飲食スペースの充実。1階にエントランスカフェ、屋上に飲食を介したイベント等が開催可能な共用キッチン付きのテラスを計画する。単なる飲食設備を整えるのではなく、密度の濃いコミュニケーションやオフィスでは生まれない会話を誘発させる。4つ目は規模やタイミングに合わせて柔軟に入居、拡張できる働く場。先ほどのセットアップオフィスに加え、タイムリーに予約利用できるスモールスペースも用意する。専用Wi―Fiを各フロアに設置。プロジェクト用のオフィス立ち上げといった、ちょっとした増床への対応も計画している。ちなみにオフィス内の天井はスケルトン。床もモルタルが露わになった形で提供する。企業の要望に合わせて、オフィスレイアウトも柔軟に対応可能だ。
5つ目がサステナブルな環境。シリーズ全物件で、年間の一次エネルギー消費量50%以上削減を実現したことで認証される環境認証制度「ZEB Ready」を取得する。環境配慮やカーボンニュートラルへの取り組みを推進する企業にとっては、自社オフィスに好ましい環境となる。脱プラスチックにも同社は注力している。ビルのセキュリティに顔認証システムを導入するが、これら設備も極力プラスチックの使用を控えた。
説明会ではブランドパートナーのarca(東京都渋谷区)CEO クリエイティブディレクターの辻愛沙子氏と、ヒトカラメディア(東京都世田谷区)代表取締役の高井淳一郎氏がショートスピーチを実施。2人ともウィズコロナを経て働き方が大きく変化したこと、多様な価値観やワークスタイルにオフィスが柔軟に対応できることの重要性を説明。ownsはこれら課題に対応でき、企業の成長や社員同士のより深い交流が促進されるオフィスであることを語った。
佐々木氏は「前述した5つの強みを総合的・複合的に生かすことができる、それがownsの大きな魅力と思います。現在も数棟計画中で、今後も定期的に継続して展開していきます」と語った。
先月竣工の中規模ビル 貸室は各階204㎡
大成有楽不動産(東京都中央区)の中規模オフィスビルブランド「BUSINESS CUBE」の最新物件「水道橋BUSINESS CUBE」が、先月末竣工した。
「水道橋BUSINESS CUBE」は、地上9階建て・延床面積1987・81㎡のオフィスビル。JR「水道橋」駅から徒歩2分、都営三田線「水道橋」駅から徒歩5分の水道橋西通りに立地する。1階はエントランスホール、喫煙室等の共用部分。オフィスフロアは2~9階で、貸室面積は各階204㎡(61・71坪)と、同ブランドの中でもコンパクトサイズである。
貸室は、多様なワークスタイルやレイアウトに応えることができ、リーシングにおいては検討企業が利用方法をイメージしやすいよう、オープンスペース重視と座席数重視の2パターンのレイアウトプランが用意されている。同社HPからは3DVRによる内見も可能となっており、検討企業や仲介業者が社内外への情報共有や確認等をスムーズにできるような配慮がなされている。
セキュリティには、エレベーターの不停止機能が実装されており、テナントは、営業形態に合わせて、不停止制御を常時有効とするか、営業時間中のみ解除するかを選択することができる。
設備は、パウダーコーナー付の女性用トイレ、自動調光付きのLED照明、高効率な空調設備等、最近の新築ビルで採用されている設備は勿論のこと、コンパクトビルには珍しくBCP対策としてテナント専有部も対象とした非常用発電機も備えている。停電になったとしても、建物の一部に電力を供給し、基準階トイレやテナント執務室内の一部エリアを一定時間利用することができる。また、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備で、従来必要なエネルギー量から50%以上の省エネ設計となっており、「ZEB Ready」も取得予定である。近年カーボンニュートラルな社会を目指す動きを企業も求められるような背景から、環境性能の高さを重要視する企業には好ましいと思われる。
担当者は「同サイズのビルの中でもセキュリティ、BCP対策、環境対応を備えた高スペックな物件です。専有部内に給湯室を備えており、各階トイレも自社で専有できます。屋上はリフレッシュスペースとしており、開放的な空間を気分転換に利用できるようにしました。当該エリアは、中小規模の築浅物件が比較的少ないため、最新オフィス性能を備えた数少ない物件としてニーズに応えられると思います」と語った。
キーワードは交流 行きたくなるオフィス
年々中小ビルブランドで注目度を増しているキーワードが交流。テレワークが普及した一方で、社員同士の連帯感が希薄になったと感じる企業が増加。情報共有の難しさや新しいアイデアが生まれにくい状況を改善したい企業も多く見られる。
大半の中小ビルブランドでは、社員同士のコミュニケーションを促す施設を採用している。例えば、専用テラスや共用ラウンジ。気分転換やリフレッシュなどの使い方もあるが、どちらかと言えばより活発に社員のコミュニケーションを促したい狙いが見える。共用ラウンジを設置できないビルの場合は、屋上空間を開放するなど、限りあるスペースを上手く活用している。セットアップオフィスの採用も増加。シェアオフィス等を利用する少人数の企業が、更に人員を増やしての成長移転先にセットアップが好まれている。オーナーも賃料を高めに設定できる点が好まれている。