不動産トピックス
【今週号の最終面特集】まちの活性化に貢献する不動産の有効活用
2024.03.25 10:56
地域に開かれた多機能施設が誕生 市民が集いコミュニティを形成
少人数から50名規模まで対応 完全無人で運営を省力化
少子高齢化や担い手不足など、日本が抱える社会課題は多い。またこれらの課題は地域によっても内容が異なってくる。一朝一夕で解決できる課題ではないものの、不動産を有効活用することで解決に向けた一歩を踏み出すこともできる。地域に根付いた不動産の活用事例を紹介していきたい。
事務所移転で空いたスペース 地域で希少な貸会議室に
山根工務店(川崎市川崎区)は1902年(明治35年)に創業。以来、地域に根差した建設会社として川崎市内のビルやマンション、公共施設、教育施設、一般住宅などの建築を幅広く手掛けてきた。そのほか、リフォームや土地活用、建物管理と、不動産の様々なサポートをトータルで展開している点が同社の強みとなっている。
また、同社はホテル事業、フードサービス事業、貸会議室事業を展開している。これらの事業は「縁道(えんみち)」ブランドで統一されており、川崎が旧東海道で江戸を出て最初の宿場町であったこと、人と人との縁をつなぐ場にしたいという同社の想いが込められている。
「ワーキングスペース縁道」は「京急川崎」駅から徒歩8分の立地に2022年2月にオープンしたシェアオフィス・貸会議室である。施設内はミーティングルームとコワーキングルームで構成されており、ミーティングルームは約45㎡の部屋が3カ所で、プレゼン用のモニターなどの什器類を完備。隣り合う3部屋は間仕切りを開放して使用すれば最大50名程度を収容することも可能だ。約10㎡で3部屋ある1~6名用のミーティングルームは、家具や内装にもこだわったスペシャルルームとして運用している。社内のリモート会議だけでなく取引先との会議等の利用ニーズにも対応。コワーキングスペースは個室席とカウンター席が設けられている。内装はシンプルながらもガラス張りを多用して開放感を演出するとともに、床材や什器などには木製を採用して温かみのある空間を構築している。
施設の開設の経緯について、同社資産活用部の丸山忠洋氏は次のように話す。
「このスペースはもともと当社が事務所使用していたもので、事務所を別フロアに移動するにあたり、空いたスペースの有効活用として計画されました。川崎は大手企業のオフィスも多く会議室やコワーキングの需要が高いと認識していますが、駅周辺の会議室は大規模物件に入る大型の会議室が大半で、10名以下で使用する小ぶりなサイズの会議室はあまりないことに着目しました」
施設は土日祝日も営業しており、基本的には完全無人での運営を実施。予約は同社ホームページなどから行い、予約した時間になればテンキーの解錠番号が通知され、利用できる仕組みだ。気軽に利用できることからビジネス目的での利用のほか、地元市民のカルチャー教室などでの利用も多いという。丸山氏は「利用客はリピーターの方が多く、外国人利用者も徐々に増えています」と話す。今後は近隣の横浜市でも貸会議室・コワーキングスペースの運営を検討しているとのことだ。
地域事業者の課題解決へ産業支援の拠点を開設
静岡県菊川市は、事業承継や創業、経営基盤強化などの課題を解決することや、ビジネスマッチングの促進を目的に、JR「菊川」駅に近い島田信用金庫菊川支店跡地に「菊川市産業支援センターEnGAWA」を今月15日に開設した。
同施設は、県内では初となるカフェ併設型の官民連携複合施設。事業者が抱えるさまざまな経営課題の相談を受ける相談窓口、テレワーカー向けの共有ワークスペースやビジネスマッチングが可能なコワーキングスペース、誰でも気軽に立ち寄ることができ利用者との交流ができるカフェスペースで構成される。なおコワーキングスペースやカフェスペースの管理運営業務は、チャット接客支援サービス「ChatSeiler」を運営するCien(東京都渋谷区)が受託している。
菊川市では2021年度に市内の事業者を対象に「事業承継アンケート調査」を実施したところ、後継者不在・未定と回答した事業者が62%を占め、廃業による地域経済や地域コミュニティの衰退が懸念される結果となった。そのため市では産業支援センターの設置を検討することとなった。他方、Cienは「テクノロジーによる適切な『人』の介在で、人々の行動を支援し続ける」を社内ミッションに設置し事業を展開。同社がサポートした事例の一部として、生命保険やヘルスケア、音楽メディア、不動産サービスなどの各業界の企業へのウェブチャットの導入がある。こうした経験や知見を生かし、同社は「菊川市産業支援センターEnGAWA」の認知と集客活動を展開。対面やオンラインで人による接客を行い、登録や施設の利用・活用を促す。また産業支援においてはアンケート、課題喚起のイベント、相談、企業連携などを通じて、数値の見える化を行う。
施設の開設にあたって、同社は菊川市における産業の現状・課題を分析した。その結果、JR「菊川」駅前に人が集う拠点と、事業承継問題などの産業課題を解決するための人材と経営支援、両方の必要性に着目した。これを踏まえ、同施設では「地元の魅力や個性的なプレイヤーが発掘される場所」、「菊川市内・地域の課題に気付き、その課題に対してアクションの余地があると思える場所」、「さまざまな人が集い、何かが起きそうな予感がある場所」の3項目を目指し施設づくりを行った。
産業支援拠点としては、事業承継・経営・起業・ビジネスマッチングなど、事業者の課題を解決するため、相談員とコミュニティマネージャーが連携し、課題解決に向けたアドバイスやイベントを実施。また、商工会や静岡県事業承継・引継支援センター、静岡県よろず支援拠点、金融機関などの支援機関や税理士、会計士、中小企業診断士等の専門家と連携し、事業者の課題解決に取り組むとしている。またカフェスペースはJR「菊川」駅へつながる道路に面して設置され、テイクアウト専用窓口を備え誰でも気軽に商品を購入できるようにした。コワーキングスペースはカウンターやテーブルのオープン席のほか、集中して業務に取り組めるブース席、ミーティングのための会議室を備えている。コワーキングスペースの座席は約40席あり、Wi-Fiを完備している。コワーキングスペースにはコミュニティマネージャーが常駐しており、利用者のニーズを随時把握。ビジネスマッチングによるイノベーションの創出を目指す。
コミュニティマネージャーの藤江由加里氏は「一人では解決できないことでも、日常の会話からヒントを得たり、相談・協力し合ったりすることで、お互いが大きく成長できることがあります。コミュニティマネージャーとして、さまざまな課題やニーズに関する声を集め、専門家や経験者とのつながりを広げ、未来を変えるきっかけを作っていきます」と述べている。