不動産トピックス

【週刊不動産経営6/3号・今週の最終面特集】新築マンション市場30年を振り返る

2024.06.03 11:47

バブル崩壊から現在までに3つの転換点 新築マンションは投資商品の性格強まる
ピーク時には首都圏で約9万8000戸供給 大手不動産会社の寡占化が進む現状
 人々の生活の基盤となる住宅。大家族から核家族化、単身世帯・高齢世帯の増加と、生活様式が時代とともに変化していく中で、住宅に求められる機能も変化してきた。不動産の価格がつり上がったバブル期から、その後の崩壊、そして現在に至るまで、新築マンション市場はどのような変化をみせてきたのか。

国民所得の上昇により購入ニーズ高まる
 マンション価格・供給量等の市場調査を行う東京カンテイ(東京都目黒区)市場調査部・上席主任研究員の井出武氏は、過去30年の首都圏のマンション市場を振り返り、「大きく3つの転換点がありました」と話す。まず1つ目はバブル崩壊である。80年代から90年代にかけては首都圏で年間3~5万戸の新築マンションがコンスタントに供給されてきたが、バブル崩壊後の1994年の年間供給戸数は約9万戸。前年の約5万戸を大きく上回った。首都圏では94年以降、年間8~9万戸の新築マンションが供給され、2000年に年間約9万8000戸とピークを迎え、その後徐々に減少傾向に転じることになる。
 日本では戦後の高度経済成長によって国民の所得が増え、それとともにマイホーム需要が急激に伸びた。こうした需要は都心部を避け郊外のニュータウンに向かい、郊外部の戸建てブームが発生。当時は集合住宅というとマンションではなく団地のイメージがまだ強く、バブル景気に突入し国民所得がさらに上がったことで、民間企業による分譲マンションが一般消費者層でも手の届く存在となる。
 バブル崩壊後の1994年になり首都圏の新築マンション供給戸数が一気に増えた背景には、住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)が92年から販売を開始した「ゆとりローン」と呼ばれる金融商品の登場が関係する。この「ゆとりローン」は5~10年間のゆとり期間中は返済金額を抑え、その分を期間終了後に上乗せして支払うというもの。当時はマイホームの購入が人生における1つの大きな節目と捉えられていた時代で、「ゆとりローン」は若い世代を中心に住宅購入を検討する消費者に広く受け入れられた。そのため高まる需要に対応するように新築マンションの供給戸数も一気に増加。特に東京23区での供給が大幅に増え、首都圏の住宅ニーズは都心回帰の動きに傾いていく。「バブル景気の最中には不動産価格が高騰し、中流層にとって手の届かない存在となっていたもののバブル崩壊後になると価格も下落。抑え込まれていたニーズが一気に顕在化したことが大きい」と井出氏は話す。

「量より質」の時代へ 超富裕層向けも登場
 2005年ごろまでは年間8~9万戸程度の新築マンションが首都圏で供給されてきたが、その後は減少ペースを速め2009年には年間約3万8000戸程度まで供給戸数が落ち着くことになる。一方、新築分譲マンションの価格は2002年を底に上昇に転じている。当時のトピックとしては、2003年度税制改正が挙げられる。相続税・贈与税の最高税率が70%から50%へ引き下げられたことで、相続税対策としてのマンションに注目が集まり、富裕層がマンション購入に乗り出す動きが起きた。この頃から市場では富裕層向けの高級マンションが数多く登場している。エリアとしては千代田区や港区といった都心部での供給が多く、新築マンションはいわば「量より質の時代」へと移行することになる。片や千葉・埼玉といった郊外部での新築物件の供給も安定して続いていたことから、マンション購入者の幅が高級志向から大衆層向けまで広がりを見せた時代でもある。「これが2つ目の転換点」と井出氏は述べる。
 3つ目の転換点の引き金となったのが、2008年9月に起きたリーマン・ショックである。世界的な金融危機をもたらしたこの出来事に、日本のマンション市場も大きく反応した。金融機関の融資の引き締めにより中小・新興マンションデベロッパーの淘汰が起きたのだ。ダイア建設の民事再生法適用申請、穴吹工務店の会社更生法適用申請などはその象徴ともいえる出来事である。マンション価格も主に都心部で瞬間的に下落するものの、世界的な協調利下げが実施されるなど経済安定化に向けた取り組みが行われたことで、バブル崩壊後のような急落は免れ、その後の反転上昇につなげている。
 新築の供給戸数は2008年以降、年間5万戸前後で推移してきたが、直近の10年間は年間3万戸前後に落ち着いている。井出氏は現在のマンション市場について「富裕層向け投資商品への移行」、「大手デベロッパーの寡占市場化」、「建築コスト上昇による物件タイプの変化」を挙げる。新築分譲マンションはバブル景気以降、人々が汗水流して働いた末に手にすることのできる存在であり、一種のステータスでもあった。一方ここ数年は価格が急激に上昇。富裕層の中のさらに一部の層を対象とした超高級マンションも登場しており、共働きで年収が高いパワーカップル層でも手の届きにくい市場環境が形成されている。井出氏は「大衆性の高い物件で構成される従来のマンション市場とは全くの別物と言って良いほど」と話す。
 マンション価格を押し上げる大きな要因となっている建築コストの高騰。大衆層向けのマンションでは価格を抑えるために専有面積のコンパクト化が進んでおり、それに伴って限られたスペースを使った間取りの工夫が求められている。例えば室内の廊下をなくし、リビングを基点に各部屋を配置するレイアウトや、各部屋のドアを開き戸ではなく引き戸にして省スペース化を図るなど、開発側の努力がうかがえる。また消費者側の動きとしては、生活基盤の都心回帰がマインドとしてはあるもののマンションの購入が現実的ではないため、賃貸物件へのニーズが高まっているという。大手・中堅のデベロッパー各社も賃貸マンションブランドを続々と立ち上げており、消費者側のニーズに対応する。井出氏によれば「ファミリー層向けの質の良い賃貸マンションは慢性的に不足する傾向にあります。デベロッパー各社が賃貸ブランドを展開するようになったのは、賃貸物件ニーズが高まっている証左ともいえます」とのことだ。とはいえファミリー層がゆったりとした広さで生活することのできる賃貸物件の供給は需要に対してまだ不足気味の状況。井出氏は「少子化問題という大きな社会課題の解決に向け、生活の根幹をなす住宅分野が貢献できていない」と懸念を示しており、マンション市場が目下のところ克服すべき課題といえそうだ。


平均坪単価1000万円超えも
 都心では超富裕層向けの新築マンションの建設が相次いでいる。中でも注目を集めているのが港区三田1丁目、旧逓信省簡易保険局庁舎の跡地で展開されている大規模マンション「三田ガーデンヒルズ」である。敷地内は6棟のマンションで構成され、総戸数は1002戸。第1期の400戸はすでに完売となっており、最多販売価格帯は約4億円、平均坪単価は1000万円を超えており、最高価格は45億円とのことだ。
 このプロジェクトは環境配慮に関する施策を実施している点が大きな特徴。「ガーデンヒルズ」の名を冠している1987年の「広尾ガーデンヒルズ」は現在でも販売当時を大きく超える価格で販売されているだけに、価値がどのように変化していくか注目だ。




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