不動産トピックス

【週刊不動産経営6/17号・今週の最終面特集】中小規模の木造建築 最新動向に迫る

2024.06.17 10:41

設計段階のコスト感覚が勝負の別れ目 複雑な工法選択で施工高 事前調査が大事
 建築費の高騰が継続し、今後値下がりする可能性は低くなってきた。建築コストや建設期間短縮も視野に入れ、木造を選択する企業が増えている。大手デベロッパーやゼネコンが手掛けた事例ではなく、中小ビルオーナーの事例が注目を集めている。

竣工後は内覧者多数 年間通算300名超
 studio KOIVU一級建築士事務所(名古屋市熱田区)は昨年5月、JR・名鉄・地下鉄「金山」駅南口から徒歩3分の線路沿いに木造ビル「金山ウッドシティビル」を建設した。竣工以降、多くの企業・人が内覧に訪れ、約1年で通算300名を超えた。
 施主は同社に所属する建築家で、日本福祉大学健康科学部福祉工学科の准教授でもある坂口大史氏。建設地は代々坂口氏の家族や親戚が50年近くにもわたって暮らしてきた土地であり、木造ビルの建設を計画し始めたのは2019年頃。コロナ禍を経て、3年掛けて実現。約14坪の狭小地に地上3階建て、延床面積99・96㎡の純木造ビルを建設。1階には同社の事務所が入居。2~3階は木造建築に関わる企業の入るテナントフロア。約5坪の部屋を2~3階に各2部屋用意し、同年5月からテナントの入居を開始した。
 ビルは外壁の木製ルーバーが特徴。新たに開発した工場施工型のCLT耐力壁(壁倍率16倍)を用いた新工法で設計した。耐力壁にはタフネスコネクター、ホームコネクター、キューブコネクターを活用。工場で事前に壁を制作し、現地では壁を据え付けるだけ。現場での施工手間や施工誤差を極限まで少なくし、狭小地でのビル建設や工期短縮の面で最適な手法だ。また施工費も注目される要因だ。これまで木造ビルの建設・普及が進まなかった背景には、建設コストが挙げられる。地上4階以上の事業用不動産になると、耐久性や耐火構造において建築費は割高となる。しかし地上4階までの木造ビルならば同工法で充分に対応可能だ。
 「当社の新工法で地上4階建ての物件を建築すると、一般的な鉄骨造で建設するよりも安く済みます。昨今は木材活用の助成金・補助金も充実しており、上手く活用できれば何割かの助成を得ることも可能です。鉄骨も年々値上がりしており、非住宅木造は高いイメージがありますが、当社の新工法+補助金・助成金の組み合わせで、木造ビルの大幅なコスト圧縮が実現します。また貸ビル業も意識して、ビル中央にコア機能と階段を集めました。共用部をできるだけ少なくし、貸室面積へ割り振ることができました」(坂口氏)

順次5階建て以内を2~3年で1棟予定
 ここまでは昨年5月までの話。ビル竣工以降、建築関係や不動産事業者など数多くの企業・人が内覧に訪れた。非住宅における木造建築および木材利用は首都圏だけでなく地方でも盛んに検討されており、特に中大規模でなく中小規模での事業用物件は貴重な事例。遠方から足を運ぶ人もおり、改めて木造建築への注目度の高さが垣間見えた。実際愛知県内や三重県などで複数の木造建築が現在進行形で計画されており、今年から来年着工のプロジェクトもあるとのこと。同社も昨年長野県でCLTガレージプロジェクト、愛知県内でCLTを採用した医療施設を手掛けるなど、活躍の場は増えている。
 木造建築における建築コストについて坂口氏は「設計段階でのコスト感覚が勝負の分かれ目です。これまで非住宅の木造建築を行ったことのない人(企業)が複雑な工法を選択すると、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と比較した場合、施工費は高くなると思います。どの様な物件を建設したいのか把握した状態で、好ましい工法を事前に調査して準備することが大事でしょう。今後当社は同地を中心に『ウッドシティ』をコンセプトにした都市木造ビルを複数棟建設していく想定です。計画段階の土地が複数件あり、順次5階建て以内の木造ビルを『2~3年の期間で1棟』のペースで建設できればと思案しています。当ビルの入居テナントも今後の建設を意識して、木造ビル建設に関連する企業やメーカーを誘致しました。都内や他エリアでも展開していく姿勢です」と語った。

天望外気浴付きサウナ ビル木造フロアで開業
 都内でオフィスビルやレジデンス、コワーキングスペース等を展開している高木ビル(東京都港区)は、昨年5月に銀座外堀通り沿いで鉄骨造・木造複合の「銀座高木ビル」を建設。1年後の今年5月に、PLEINと共同でサウナと飲食店からなる複合施設「SALON 91°(サロン・ナインティワン)」を開設した。
 同ビルは、日本有数の写真館があった「旧有賀写真館ビル」解体後に建設した新築ビル。1966年12月竣工の「旧有賀写真館ビル」は、地上7階地下2階建て。2015年に写真館は閉館し、老朽化・耐震性の観点から2020年5月に取り壊しとなった。新たに竣工した「銀座高木ビル」は、1~8階は鉄骨造で9~12階が木造。サスティナブルな建材として注目度の高い「木造ビル」にいち早く挑戦した。東京都内の多摩地域で生育し、同地区で生産・認証された「東京の木・多摩産材」のスギ材を積極的に活用。木の箱が浮かぶツリーハウスのようなデザインとなった。
 TAKAGIグループのフラッグシップビルと認識し、ビルの玄関口と木造部分9~12階に、飲食事業を展開するPLEINグループとの異業種協業プロジェクトとして「SALON 91°」を展開することとなった。9階にはPLEINの新業態フレンチバルが出店。一方10階は京都で話題の日本料理店「富小路やま岸」の姉妹店が東京初進出した。11~12階は天望外気浴付きのサウナ「91°SAUNA」が入居。12階は天井高く木材を贅沢に使用した開放的なフロアのパブリックサウナと、街並みが一望できる特別な「ととのい空間」インフィニティテラスを用意した。
 同ビルでは多摩産材のスギを採用しているが、ブランド材から導入コストは高く、事業用物件での普及に難航している。東京都では助成金制度を設けて積極的に多摩産材の採用を促しており、緩やかにではあるが採用実績も増えている。他の地域でも地産地消を進めるべく、地元木材の活用を促す補助金・助成金制度の制定が進む。しかし助成金制度のない地域では、他地域の割安な木材を使用するケースは多い。都内でもS造・RC造と木造との混合建設、ビル内装材に木造を採用する場合でも他地域の木材を使用する事例がある。地産地消に繋げたい行政や木材メーカー、地元工務店と、物件の建築主・事業主で温度差が感じられる。


枠組壁構造の木造ビル内覧会開催
 リヴ(京都府向日市)は自社保有のテナントビルを施工。今月14日と15日の2日間、事業者向けの内覧会を開催した。物件名は「(仮称)東向日テナントビル」。向日市寺戸町に立地する枠組壁構造の木造3階建て。敷地面積477・62㎡、延床面積は854・88㎡。主要構造部に国内産木材を使用しており、内2割強を地元の京都府内産木材が占めている。オープンは今年夏の予定だ。
 木造建築は耐震・耐火・耐久性に優れており、環境面から国が地産木材利用を促進している。更に京都府では土地面積の4分の3を森林が占め、内4割が建築資材として想定された人工林。10年後には9割近くが利用できる状態にまで成長する。森林を健全に保つには、森林資源を有効に活用しながら伐採跡地に再度植林することが重要。しかし利用が中々進んでいない現状もある。同社では現状を踏まえ、京都市内産木材を構造材として活用。木材のカーテンウォールは雨や紫外線で木材の部分が劣化するなど、耐候性に問題があったが、室内側にアルミ材を用いることで高い耐候性を実現した。




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