不動産トピックス

【週刊不動産経営7/1号・今週の最終面特集】ビルオーナーが展開する都内貸会議室の戦略

2024.07.01 11:26

テナント賃貸より安定稼働の貸会議室選択
講師需要も稼働率に影響 固定客確保が成功のカギ
 企業PRや宣伝も兼ねた座学式セミナーの需要が伸びている。同時に貸会議室のニーズも高まっており、ビルオーナーの中には70~80名も収容できる会議室を上手く運営し、ビル賃貸収益とは別の収益源にしている動きもある。ビルオーナーが取り組む貸会議室の戦略とは。

1階カフェを貸切 懇親会等で利用可能
 三甲(岐阜県瑞穂市、サンコー)は、2020年7月竣工の「三甲新橋ビル」7階で貸会議室「Share Working Studio 35」を運営している。複数路線が利用可能なアクセス性とグレードの高い設備・執務環境・同社運営のカフェとの連携販売を強みに稼働率を伸ばしている。
 プラスチック物流機器の製造・販売事業を展開している三甲は、全国都市部で10棟を超える収益ビルを運用している。「三甲新橋ビル」もその1棟。以前は門前仲町に東京本社オフィスを構えていたが、「三甲新橋ビル」竣工と共に東京本社を移転。ビルに設ける会議室の計画にあたり、自社での未使用時に外部へ貸し出すことで物件の収益性を高めることを計画し、ビル竣工と同時に貸会議室の運営を開始した。
 総務部の松本京氏は「竣工から4年弱しか経っておらず、設備の新しさは近隣でもトップクラスです。ビル壁面はガラスカーテンウォールであるため、窓側に面する会議室からの眺望・景色の良さも特徴です。天高は3mで、室内に開放感が感じられます。部屋はRoomA~Fの6室あり、RoomC~Fは可動式パーテーションの取り外しにより1室に繋げることで、70~80名集めたセミナーに活用できます。少人数の会議や打ち合わせも可能で、利用前後や休憩時間はフロア中央のホワイエにて寛ぐことができます」と語った。
 従前から株主総会やセミナーイベントの会場で利用されており、昨今は近隣企業を中心に、研修・セミナー・説明会等の利用が多い。コロナ禍ではウェビナーの会場で借りる企業もいた。新型コロナウイルスが5類となってから、対面での打ち合わせやスクール形式でのセミナー需要が戻っており稼働率も上がっている。加えてセミナー後の懇親会や立食パーティーの需要も戻ってきた。会場では提携先のケータリングサービスを利用可能。ビル1階には自社運営のカフェ「Hualalai」があり、カフェ特製のコナブレンドコーヒーを会議室でいただくこともできる。
 総務部の阿部瑞己氏は「貸会議室の利用後に1階のカフェ『Hualalai』を貸し切りで、パーティーが開催できます。アルコールやソフトドリンクの飲み放題等、ニーズに合わせて提供が可能です。立食形式・着席形式を選択できる柔軟性も特徴です。カフェのサービスを案内できることを強みのひとつとして、高い稼働率を目指しております」と語った。

24時間利用可能 Wi-Fi完備
 東洋リンクス(東京都千代田区)は、東京メトロ半蔵門線「半蔵門」駅から徒歩3分に「朝日ビル」を保有する。2021年8月から5階の貸会議室を自社で運営している。
 同ビルの貸会議室は、収容人数70~80名。ホワイトボードやプロジェクター、マイクなどを常設しており、これら備品は全て無料。24時間利用できWi―Fiも完備。利用料は1時間8000円~。社内開発としてグーグルカレンダーをベースに受付システムを構築。利用者はカレンダーの空きから、希望の時間を選択して予約するだけ。リアルタイムで更新され、利用時間のバッティングも発生しない。予約管理システムは自動化されており、ミスの減少と業務負荷の改善となった。
 主な利用は、企業内での会議・打ち合わせや自社社員に向けた勉強会、資格取得のセミナー、聴講者を募ってのPRセミナー、グループで行うワークショップなど。会議室の稼働率は、コロナ前と同じ水準まではいかないもののほぼ9割の回復となった。技術部の菊地恭徳氏は「オンラインセミナーよりも対面でのセミナーが、営業や自社PRにおいて成果が高いと聞くことがあります。クライアントとなりうる人たちを集客して開催するセミナーの需要が回復しており、その様な会場に当社の貸会議室が選ばれています。また社内研修の会場や新卒社員への社会人レクチャーの場所としても人気です。近隣相場よりも多少割安な点も評価されている部分と思われます」と語った。
 年々自身のスキルアップ等に注力するワーカーが増えている。スキル習得後は自身が講師になり、自身の実績・スキルを人前で話す「セミナー講師」の人気も伸びてきた。その様な講師需要も同会議室の稼働率に影響している。同ビルが平河町と、士業に人気のエリアに立地。「半蔵門」駅からも近く、他エリアからもアクセスしやすい。セミナー後は聴講者同士の交流やコミュニケーションにも繋がるため、小規模なセミナーを定期的に開催する企業やクライアントを確保できるかどうかが、稼働率にも影響するようだ。

近隣より割安な料金 空調改善も早急に実施
 「全水道会館」は都営地下鉄三田線「水道橋」駅A1出口徒歩1分、JR「水道橋」駅東口からは徒歩2分の白山通り沿いに建つ。資格試験や講習会などの会場需要に応えており、同じ財団法人の伝手で利用者も確保している。
 「全水道会館」をはじめ、大半の社団法人・財団法人では会員の資格試験における会場が必要になる。コロナ禍でも貸会議室の稼働率が落ちなかった要因は、試験会場の需要があったため。近隣の貸会議室よりも割安な料金設定としており、抗菌デスクの採用や空調改善なども早急に行った。これらの取り組みが利用者伝いで広がり、新たなクライアントの確保にも繋がっている。周辺エリアには医療施設も多いため、従前から医療関係の講習会場にも利用されている。現在も新規利用者が増加傾向で、今後も順調に稼働率を上げていく見込みだ。
 専務理事の管野博氏は「既に入居テナントをはじめ複数の固定客を抱えており、やめられない立場もあります。現在貸会議室を止めてテナントフロアにすることは考えていません。立地環境やアクセス性などを好み利用の問い合わせは多く、大・中・小の貸会議室と講師控室等に利用できる特別室がある点も好まれる要因でしょう。またテナントの入退去や減額依頼、支払い期日の先伸ばしなどに悩む他のビルオーナーを見ると、安定して稼働する貸会議室も悪くないと思いました。如何に固定客を見つけられるかが、成功のカギと思います」と語った。




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