不動産トピックス

【8/5号・今週の最終面特集】賃貸ビル戦略 新築・既存 最新事例

2024.08.05 10:37

改修を通じた人々に愛されるビルづくり テナントの新規成約にも効果
中規模オフィスニーズに対応 環境配慮の施策でコスト削減
 東京・大阪ともに賃貸オフィス市場の改善傾向が続いている。都心の有力な貸ビルエリアは空室率が低水準で推移し、賃料アップの機運も高まる。競争が激しさを増す一方で、新築・既存の2つの視点から賃貸ビルの戦略をみていきたい。

浜町でコンパクトオフィス リユース家具も積極活用
 三菱地所(東京都千代田区)が中央区日本橋浜町で開発を手掛けた中規模複合ビル「CIRCLES(サークルズ)日本橋浜町」が7月末に竣工。今月2日に内覧会が実施された。
 「CIRCLES」は三菱地所が展開するコンパクトオフィスシリーズで、フロア面積は30~100程度と従業員数が50名以下の企業のオフィスに適したサイズ感が特徴。都内ではこれまでに新橋、神田、銀座、渋谷などで展開し、このほか名古屋や福岡でも開発実績を持つ。「CIRCLES日本橋浜町」は最寄りの都営新宿線「浜町」駅より徒歩2分、東京メトロ日比谷線・都営浅草線「人形町」駅からは徒歩5分と、複数の駅が徒歩圏内に位置しており、清州橋通りの久松町交差点角に建つ好立地の物件である。建物は地上11階建てで、1~2階および11階の3フロアが店舗、3~10階の8フロアがオフィス仕様となっている。
 基準階のフロア面積は約53坪で、柔軟な室内レイアウトに対応する整形のオフィス空間となっている。OAフロアや個別空調といった貸室内の快適性に寄与する設備を導入するとともに、スケルトン天井を採用することで開放感やデザイン性のある空間を実現することが可能だ。「東京」駅周辺で所有・管理物件を多く手掛ける三菱地所では、オフィス家具のリユース販売を行う「エコファニ」事業を展開している。今回の「CIRCLES日本橋浜町」では一部のフロアで入居テナントに「エコファニ」のリユース家具をプレゼントするキャンペーンが実施されるとのこと。リユース家具は新品同様の機能性を持ちながらも、新品に比べ3分の1程度の金額で購入することが可能となっている。また屋上には都心のビル群や「東京スカイツリー」が一望できるテラススペースが設けられており、入居者にとっての憩いの空間として機能する。

ビルの顔・エントランスを改修 明るさと重厚感を演出
 ビル・マンションのリモデル(再構築)や店舗の総合プロデュースなどを手掛けるノットコーポレーション(大阪市中央区)は、大阪市北区に立地する複合ビル「芝田町ビル」のエントランスリモデルを実施した。
 「芝田町ビル」は大阪キタの玄関口である阪急「大阪梅田」駅徒歩1分の好立地に建つ地上9階建ての複合ビルで、クリニック、学習塾、ヘアサロンなど来店型の業態を中心とした様々なテナントが入居している。従来のエントランスホールは白を基調とした内装で、間接照明を使用し柔らかい光が包み込む空間を演出。清潔感がありつつも重厚感のある内装であった。リモデル工事を担当したノットコーポレーションのビルソリューション事業部・片岡亮平氏は次のように話す。
 「はじめにご相談を頂いたのは、エントランスホールに設置されたテナント名が記載されたサインについてでした。文字が小さく、またテナントの入れ替えの度に新しいテナント名が追加されていたため、表記の順番が階ごとに整理されていない状況となっていました。そのためビルを訪れた方がサインの前で立ち止まる姿をよく見かけられたそうで、オーナー側からは来館者にとって不便を強いる状況を改善したいという内容でした」
 また同ビルでは今回の計画に先行して、1年ほど前に共用階段の改装を実施していた。その際、施工を担当した工事業者からはデザイン面に関する提案等はなく、プロ目線のリニューアルを期待したオーナー側としては物足りなさを感じていたようだ。
 こうした経緯を踏まえ、ノットコーポレーションでは従来からの明るい雰囲気や重厚感といったエントランスイメージを継承しながら、これからも長く愛される空間になってほしいとの想いを込めて提案した。デザインのポイントについて片岡氏は「奇抜なデザインではなく、皆さんに長く親しんで頂ける飽きのこないデザインをコンセプトとしました。元々のエントランスの雰囲気を継承し、レトロでおしゃれな映画館を連想させるイメージを採用しています」と話す。
 天井や壁には濃い木目の内装材を使用し、高級感を増した空間を実現。テナント集合サインはフロアごとにパネルを区切って分かりやすく表示し、改修後は雰囲気の良さで立ち止まる来館者もいるとのことだ。
 ノットコーポレーションでは今回のエントランスリモデル後、初めての試みとして入居テナントに対する満足度調査を実施した。調査結果によれば、改修後の満足度は100%。その理由として「オシャレになった」、「門構えが変わり、会社の印象も立派になった」、「豪華になり、お客様を招きたいビルになった」などの声が寄せられ、評価は概ね好評のようだ。片岡氏によれば「改修後に成約したテナントもあり、エントランスのリニューアルがビルのリーシング力向上にも貢献できたのではないかと思います」とのこと。オーナー・テナント双方が満足するリモデルの好例といえる。

テナント目線の付加価値向上で物件の稼働率アップに貢献
 前述の「CIRCLES日本橋浜町」では一部フロアの専有部内に打ち合わせや来客対応に利用できる会議室を完備。また「CIRCLES」シリーズではセットアッププランを用意している。セットアップオフィスとは貸主負担でテナント専有部の内装工事を実施するもので、テナント側はオフィス移転の際のイニシャルコスト削減のメリットがあり、オーナー側は内装工事の負担分を賃料に転嫁することができるため、長期的にみれば効果的なリーシング施策となる。片や後述の「芝田町ビル」の事例では建物の従前から持つ魅力をさらに引き出すリニューアルで付加価値を創出した。いずれも賃貸ビルの稼働率向上に寄与する取り組みとなっている。




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