不動産トピックス

【8/19号・今週の最終面特集】空き家・遊休不動産活用 地域に貢献する取り組み

2024.08.19 16:09

古民家を店舗併用住宅へ再生 検査済証無しでも対応可能
改修前・後を3Dモデリングで可視化 スピーディなテナント誘致に活用
 中心部への人口一極集中やそれに伴う空き家問題は、日本全体が抱える大きな社会問題である。一方で空き家や遊休化した不動産は、地域に活気や経済的恩恵をもたらしてくれるポテンシャルを秘めている場合もある。不動産は文字通り動かすことができないものの、その不動産を軸として人の流動や企業誘致につなげることは可能である。
 
  築60年の長屋をリノベ 店舗併用住宅に
   既存不動産の活用事業を展開するJapan. asset management(東京都品川区)は、世田谷区松原に建つ築60年の長屋をマスターリースした上で、オーナーとの共同出資によるリノベーションを実施。1階を店舗、2階を住宅としてコンバージョンした。
 「house matsubara」として再生された建物は京王井の頭線「東松原」駅より徒歩数分に位置する地上2階建て、延床面積62・38㎡の長屋建築の住宅で、1963年(昭和38年)に建築された。周辺は低層の住宅やマンションが密集する住居エリアを形成するほか、近隣には区立羽根木公園が位置しており地元住民の憩いの場として親しまれている。
 工事が実施された建物はこれまで専用住宅として使用されてきた。同社は今回のプロジェクトにあたり、立地を最大限活用するために兼用住宅としても活用できるよう企画した。プロジェクトには地元に強い不動産コンサルティング会社の市萬(東京都世田谷区)も参画し、増改築の承諾に関する地主との交渉を経て、本年3月に工事が完了した。また当該の建物は検査済証が無く、増築や用途変更は原則的に実施することはできない。ただし、2019年6月の建築基準法改正より、200㎡未満の用途変更を行う場合に確認申請の手続きが不要となった。そのため本プロジェクトでも確認申請が不要な店舗面積200㎡未満の範囲内での用途変更で納まるよう、設計が行われた。店舗併用住宅として企画したのは固定資産税を抑える目的のほか、Japan. asset managementの内山博文社長は「地域に貢献できる場所をつくりたいという思いがあります。東松原は感度の高いクリエイターなどが集まる下北沢に近く、立地のポテンシャルを生かせる用途変更を目指しました」と話す。
 工事は建物としての基本機能を確保することにポイントを絞って内容を設定。柱や梁、外壁の補修・補強を中心に、漏水箇所の特定・補修、店舗の入居を念頭に置いた水回り設備の新設などが行われた。また改修の実施に際しては3Dスキャンカメラで撮影したデータをもとに建物の3Dモデリングを行い、改修前の状態や改修後のイメージをデータ蓄積することで早期のリーシング開始に役立てている。

空き家の有効活用に向け企業間連携を実施
 Japan. asset managementでは、不動産・建築・金融の多角的な視点から空き家を活用する最適解を提案するためのプラットフォーム「空き家リノベラボ」を運営しており、国土交通省の「空き家対策モデル事業」の採択を受けている。この「空き家リノベラボ」では前出の市萬など様々な企業が連携パートナーとして参画しており、多彩な空き家活用メニューを用意。本プロジェクトでは連携パートナーのomusubi不動産(千葉県松戸市)がリーシングを担当した。地下化した小田急線の線路跡地を活用した複合施設「BONUS TRACK」で会員制のワークスペースを運営している同社はこのコミュニティを活用してテナントを誘致。同施設での出店経験も持つ自家製のクラフトサワーやオリジナルのクラフトビールが人気の店舗「Botany」が1階で営業を開始した。住宅用途の2階を1階店舗のテナントが住まいとしても使用することになる。店舗内の内装はテナントのDIYで創作した箇所もあり、近隣住民の利用を中心に話題が高まっている。
 東京都世田谷区は4万7000戸の空き家があるとされ、そのうちの1万戸が長期にわたって利用されていない「その他の住宅」に分類される空き家とされており、前出の内山氏は「空き家活用の潜在ニーズは非常に高いと認識しています」と話す。また同氏は「『house matsubara』の事例は、オーナー・テナント・プロジェクトに携わる事業者の3者が連携しながら維持管理を行っていくことが重要で、空き家活用におけるサステナブルなビジネスモデルとして、今後も事例を増やしていきたい」と展望を述べた。


丹後地域の活性化へ合弁会社を設立
 不動産開発を中心としたまちづくりを行い、人口減少社会における持続可能な地域モデルの実現を目指すNEWLOCAL(東京都中央区)は、京都府与謝野町のローカルフラッグと合弁会社「株式会社京都丹後企画」を7月29日に設立した。
 丹後地域は、京都府北部にある日本海に面した地域で、日本三景の天橋立を有する宮津市をはじめ、京丹後市、伊根町、与謝野町によって構成される。京都府では丹後地域のブランディングを積極的に行っているが、観光資源が広い地域に点在する状況から、地域内のエリア間連携がとれていないというのが現状である。
 ローカルフラッグは与謝野町を拠点とするまちづくり会社として2019年に設立。地元で栽培が盛んなホップを活用したクラフトビールの販売や、移住定住促進事業などを展開。地域に新たな変化をもたらしている。NEWLOCALは与謝野町で広がりつつある持続可能な地域づくりをさらに加速していくために、ローカルフラッグとの合弁で京都丹後企画を設立。丹後地域のまちづくりを積極的に展開する。
 具体的な活動としては、天橋立のある宮津を丹後地域の玄関口と見立て、各地域につなぐ動線・体験を創出。地域のクリエイターがつくる地元の食や商品を楽しめるセレクトショップ・飲食店を今秋開業する予定である。また、与謝野町の「ちりめん街道」は江戸時代から昭和初期にかけて高級織物「丹後ちりめん」の生産地として隆盛を極め、重要伝統的建造物群保存地区に指定された街道沿いには歴史ある建物が多く残る。一方で需要の減少に伴い遊休化した建物も散見されており、今後の合弁会社設立を通じて古民家を中心に宿泊施設などへの再整備を実施。地域の魅力を発信していくとしている。
 合弁会社の代表を務めるローカルフラッグの濱田祐太社長は「故郷の与謝野町で創業し、活動を行ってきたこの5年間で、空き家・空き地の活用や事業承継問題には手を付けることができませんでした。一方で丹後地域には生かし切れていないリソースが豊富にあり、京都丹後企画を通じてその魅力を発信し、地域課題の解決につなげていきたいと思います」と今後の展望を述べている。




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