不動産トピックス

【8/26号・今週の最終面特集】都内近郊の中小テナントビル最新情報

2024.08.26 10:51

ソーラーパネル設置や店舗内の効率化
テナントニーズを見据えたビル建設
 建築費の高騰や工期スケジュールが伸びるなど、昨今はビルの建設工事において暗い話題が多い。しかし建替えや増築など、一定の動きは現在も継続してある。大規模複合再開発ではなく、中小規模の開発プロジェクトなどを追った。

30坪と26~27坪のスケルトン2区画
 JR東海道線・小田急小田原線「小田原」駅東口の駅前ロータリーで、「(仮称)トリニティ小田原駅前ビル建替工事」が進行中。竣工は8月末と、もう間もなくの完成だ。
 同物件は地上5階建てのテナントビル。延床面積は988・12㎡で、敷地面積は241・08㎡。主にオフィスや来客型のサービス店舗などの需要を見込んでおり、既に複数社から問い合わせ等がある。賃貸区画は12区画。チケット販売やATM等の小規模スペースも含めての区画数で、1フロアは30坪と26~27坪のスケルトン2区画で構成される。市内や近隣にオフィスを構える地元企業の移転候補地に人気で、既存オフィスからの環境改善やスペック改善に好まれているようだ。同地では久しぶりの新規オフィスの供給も関係している。
 特徴は駅前立地のアクセス性。東口を出てすぐのロータリーに立ち、全国に取引先を抱える新幹線利用の多い企業にも適した環境だ。駅前の視認性を生かした、来客型のサービス店舗や飲食店等の出店にも好ましい。またビル屋上には補助金を活用し、ソーラーパネルを設置する。ソーラーパネルで発電した電気は、ビル共用部の消費電力低減に活用する計画だ。共益費の負担を少しでも低減させて、テナントに還元させたいオーナーの思いがある。ちなみに募集賃料は、同地のトップレントより多少値下げしている。「長く定着するように」との思いから、多少の値下げに踏み切った。
 事業主はトリニティ。地元小田原を中心に、神奈川県全域や一部東京都・静岡県等で注文住宅の建築工事やリフォーム工事などを手掛ける三心の会長・篠﨑透氏が個人で設立した不動産会社。篠﨑氏は「7~8年ほど前、同地には4棟の物件が建っていました。最初に1棟目の物件を取得。5年前に2棟目、2年前に残りの物件も取得できたため、今回まとめての建替えを行いました。着工は昨年6月です。また当ビルでは『色で魅せる』ことを意識しており、壁面はグレー、一方柱や梁は白を基調とし、色のコントラストで見栄えの良さを表現しました。まずは早期の満室稼働を目指します」と語った。

歌舞伎町内の保有ビル増築改修工事を進行中
 関西・関東を中心に飲食事業を展開している理想実業(大阪市北区)は、新宿区歌舞伎町内に保有するビルの増築工事「(仮称)RSJビル 増築改修工事」を進めている。
 同ビルは理想実業が保有する物件の中でも希少なテナント物件。これまで同社が展開・運営してきた飲食店舗は、自社で土地を確保し物件を建設する、もしくはテナントとして入居するケースが大半であった。一方同ビルは、理想実業が約20年前に同地を取得し建設した物件。規模は地上4階地下1階。延床面積は629・41㎡。当初1~2階は理想実業運営の店舗が入居し、3~4階は同社関東エリアにおける事務所(東京支店)で使用していた。また地下1階は業務用冷蔵庫も設置した作業場として活用。餃子などを調理後に、都内の他店舗へ配送していた。関東出店の1号店で大きなキッチンが特徴の店舗であったが、キッチンのコンパクト化や店舗内の動線およびレイアウトも見直す必要が出てきた。また定期的に内装等には手を加えていたものの設備面で更新・改善が必要となってきた。これらの理由から、同ビルの増築も兼ねた大規模リニューアル工事に取り掛かった。
 今回の増築改修工事では、作業および業務効率の良い店舗動線やキッチンのコンパクト化などを実施する。完成後は席数の増加や効率の良い店舗内となり、また1階に同社運営店舗を残すものの空中階は外部から企業を誘致するテナント賃貸を始める計画だ。2~3階は121・81㎡(約36・8坪)。4階は90・68㎡(約27・4坪)で、地下フロアは84・95㎡(約25・6坪)。オフィス仕様のリーシングも想定しているが、キュービクルも一新していることから飲食店の誘致も可能。既に複数件問い合わせも寄せられており、今後のリーシング次第で方向性も決める予定だ。
 管理本部 本部長の萩原圭介氏は「元々ビル内には内階段がありましたが、今回は外部からエレベーターを取り付ける計画です。その部分が増改築箇所。外部からエレベーターを利用して店舗にアクセスできるようになり、上下階のスムーズな移動や非常階段も併せることでの複数動線も確保できます。外壁工事も一緒に行うので、ビルの機能性と共に印象も大きく変化するでしょう」と語った。工事完成は10月中旬の予定で、完成に合わせて1階店舗も同時にオープンの計画だ。

京都南インター住宅展示場 6階建ての純木造ビル
 京阪ホールディングス傘下のゼロ・コーポレーション(京都市中京区)は、同社京都南インター住宅展示場で6階建ての純木造ビルを建築している。着工は2024年4月で、竣工は10月末の想定。これを機会に、都市空間の木質化をベースとした新しいまちづくり事業「まちもくプロジェクト」を開始した。
 2021年に従前の法律から「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」へ改正施行された。木材利用促進に取り組む対象がこれまでの公共建築物から、民間建築物等を含む建築物一般に拡大。現在同施策により、様々な大規模・中規模の非住宅建築物で木造化が進んでいる。しかし中小規模のテナントビルでは、規模やコスト、強度・耐火に関する課題、相談できる専門業者が少ない等の理由で新築や建替え等に木造ビルを選択することは少ない。
 現状に対して、戸建て住宅等の建売りを得意とする同社では、建替え時における選択肢に木造ビルを、かつ快適な職場環境や木材建築事業を生かしての地域活性化・地産地消などにも繋がるように「まちもくプロジェクト」を開始。これまで同社は一般住宅をメインに長年木造建築を展開してきた。建築条件の厳しい京都エリアをベースに、技術やノウハウを磨き、単なる家づくりに留まらず、まちづくりや森林資源の循環活用の観点からも先駆けて取り組む。
 「まちもくビル」は同展示場での建設を計画中で、木造ビルのモデル棟として建てる。現時点では1階は店舗(カフェ)兼自社社員も使用できるフリースペース、来客対応なども可能な空間仕様。2~3階は実用を兼ねたオフィス仕様。フリーアドレス席やコワーキングスペースなどを想定する。4階はワンルームマンションのモデルルームに。5~6階は各種居住空間に加えて、宿泊可能なモデルルームと計画する。更6階にはテラスを造り、2~3階は吹き抜け空間となる予定だ。延床面積は約486㎡となる。
 ゼロホーム事業部の広原量部長は「先に事業用の木造建築を手掛けていたリヴに共鳴し、5年前から動き始めました。建物は2×4(ツーバイフォー)建築を採用し、構造はリヴが、内装は当社が手掛けます。木造と住宅建築に関するノウハウを持ち、直営の職人さんを抱えていること、更に京阪グループ一体での取り組みにも貢献できれば、まちづくりや沿線のまちの盛り上げにも繋がるでしょう」と語った。
 「まちもくビル」よりも先に竣工予定の木造ビルが枚方市で進行中。こちらは木造の地上4階建てで、延床面積は約372㎡。同プロジェクトのスタンダードタイプとなる計画だ。同ビルの竣工が先となり、完成はもう間もなく。今後は高さ制限のあるビルや併用住宅(カフェ、美容院、クリニック等)、投資ビル、土地活用などに提案していく。




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