不動産トピックス
【10/7号・今週の最終面特集】安全で快適な住まいづくり 住宅の最新トピックス
2024.10.07 10:54
需要高まる災害に強い住まい コロナ禍を通じて見直される自然との共生
室内の有効面積落とさず住環境の制震化を実現
リモートワークの普及によって、自宅で過ごす時間がこれまで以上に増えているという人は多い。生活の基盤となる住まいには安全性・快適性はもちろん、現代のトレンドに合致する機能も求められている。最新の住まいのトピックを紹介する。
発展続く武蔵小杉 50階建てタワマン登場
三菱地所レジデンス(東京都千代田区)、東京建物(東京都中央区)、東急(東京都渋谷区)、東急不動産(東京都渋谷区)の4社は、川崎市中原区の「武蔵小杉」駅北側においてエリア最大級となる2棟1438戸の免震タワーレジデンス「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」の開発を行っている。
「武蔵小杉」駅の北側に位置する日本医科大学武蔵小杉キャンパスは、「小杉駅周辺まちづくり推進地域構想」の将来都市整備方針において「医療と文教の核」に位置し、大学病院を中心に医療・教育・都市型居住・商業が複合した高度医療福祉拠点を形成することとしている。A・B・Cの3つの地区に分割して開発が行われ、A地区は川崎市立小学校や公園としての開発が完了しており、B地区は2021年9月に日本医科大学武蔵小杉病院が開院している。「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」はC地区において計画されているもので、地域に開かれた環境を整備する「まち一体型複合開発」が実施されている。
本計画の敷地面積は2万172・59㎡で、建物規模は2棟ともに地上50階地下1階建て。外観デザインは建築家の隈研吾氏が監修する。外観デザインのコンセプトは「大地から生える二本の大樹」で、低層部には大樹のふもとに人々が集まることをイメージした緑とオープンスペースを確保している。また2棟の間には地域住民も通行可能な歩行者貫通通路を敷設。通路には休憩所を点在させることで、住民同士のコミュニケーションを生み出す場として機能する。三菱地所レジデンスの第二開発部開発第一グループマネージャーの原喬弘氏は「共用部分のデザインコンセプトは『大樹の年輪』で、ノースタワーのエントランスは規則正しい生活を表現する『律動』、サウスタワーのエントランスは暮らしのダイナミズムを表現する『躍動』をテーマに、大樹の年輪を表現します」と述べている。本年春に建物の新築工事がスタートし、サウスタワーは2027年9月、ノースタワーは2028年5月に竣工を予定している。
先月27日に行われた記者発表会には三菱地所レジデンスの宮島正治社長のほか、外観デザインを監修した隈研吾氏、特設サイトで「ニホンの未来の暮らし」のヒントを探るレポーターを務める俳優の高橋一生さんが登壇した。記者発表会では3名が「ニホンの暮らしの未来」をテーマにトークショーを展開。実際に武蔵小杉の街を散策したという高橋さんは「近代的な都市という印象の中にも祖父の代から続いている店舗があったりと、地域密着の温かみのある街だと感じました」と話す。本プロジェクトの空地部分には豊かな緑を配した自然共生型の計画となっているが、隈氏は住まいの環境における自然の重要性について次のように述べている。
「今後の暮らし方についてのキーワードが2つあると思います。1つは自然です。新型コロナの感染拡大で生活が変化して、自然のありがたみを感じた方は非常に多いのではないかと思います。住まいにおいても積極的に自然の要素を取り入れていく流れは今後も続くのではないでしょうか。もう1つは街です。住宅という単一の存在だけでなく、街全体を含めた住まいの価値観がこれから定着していくものと思います」
地震災害での経験をもとに住宅用制震ユニット開発
住友ゴム工業(神戸市中央区)は「ダンロップ」ブランドで知られるタイヤ・スポーツ用品をはじめ、独自のゴム技術を生かした幅広い事業・商品開発を手掛ける。産業用製品事業の分野では、神宮球場などのスポーツ競技場の人工芝や、橋梁に設置する制振ダンパーや高層建築物向けの制振装置などを手掛けており、それぞれの事業領域で存在感を示している。
建物や構造物を地震の揺れから守る制震は、揺れに耐える耐震や揺れを伝えない免震とは異なり、制震装置を用いて地震のエネルギーを吸収し、揺れを抑制するという原理である。同社が制震装置の開発を始めるきっかけとなったのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災である。神戸市に本社を置く同社もこの震災で大きな被害を受けた経験から、これまで培ってきたゴム技術を人々の生活や建物の安全を守るために生かせないかと検討を重ね、地震のエネルギーを吸収する能力が高い独自の高減衰ゴムを使用した制振ダンパーを開発。民間のビルや公共建築物など、非住宅の分野で採用件数を伸ばしてきた。そんな中、2011年に東日本大震災が発生。福島県白河市にタイヤの生産工場を持つ同社も被災を経験することとなった。制振装置の開発に初期段階から携わっているハイブリッド事業本部の松本達治副本部長は次のように話す。
「当社の制震技術は大手企業を中心に技術貢献ができておりましたが、東日本大震災で被害を受けた住宅の多くは地場の工務店が手掛けていたことが分かりました。被災企業として多くの人に安心と安全をお届けしたいとの思いから、全国の中小工務店にも幅広く導入して頂ける住宅用の制震装置の開発を進め、2012年から販売を開始したのが住宅用制震ユニット『MIRAIE(ミライエ)』です」
この「MIRAIE」はAの字型の金属製のフレームと金属製のプレート、高減衰ゴムを組み合わせたユニットで、金属フレームに伝わった地震の運動エネルギーを高減衰ゴムが熱に変換して揺れを吸収という仕組みだ。これまでに「MIRAIE」を施工した住宅は全国で約8万8000棟。今年1月に発生した能登半島地震では、石川県の能登地方を中心に震度6以上の大きな揺れを観測し、多くの家屋で全壊や半壊といった被害を受けた。一方で同社の調査によれば、今回の地震で震度6弱以上を記録した地域において「MIRAIE」が導入された住宅495棟すべてで、全壊や半壊の被害がみられなかったという。
非常に硬い高減衰ゴムを使用した「MIRAIE」は繰り返しの揺れにも強く、独自の技術で製品全体のコンパクト化にも成功。高い性能で一般的な2階建て木造住宅であれば4基程度設置すれば十分な安全性を確保でき、柱や梁といった構造部材に設置するため室内の有効面積を落とすことはない。
商品開発の過程で苦労した点について、前出の松本氏は「住宅の建築費の1%程度に価格を抑えるための商品企画に試行錯誤を重ね、あらゆる住宅に設置可能な汎用性を備えた商品として実際に市場に登場するまで7年の歳月を擁しました」と話す。
地震リスクが高いとされる日本では、住宅・非住宅ともに大規模地震に対する備えが必須といえる。松本氏は「1階の倒壊を防ぐことが結果的に建物全体の被害を最小限に抑える」としており、建物ごとに適した安全対策を今一度見直しておきたいところだ。