不動産トピックス
【11/25号・今週の最終面特集】新ビル巡り TODA BUILDING
2024.11.25 11:38
TODA BUILDING開業
「京橋らしさ」を継承する最先端のビルが誕生
戸田建設(東京都中央区)は今年9月に大規模街区開発プロジェクトを完工。「TODA BUILDING」を11月2日に開業させた。
オフィス×アートを体現 いつでも人が集まるビルに
同プロジェクトは、戸田建設の本社ビルの建替えとともに隣接街区の「ミュージアムタワー京橋」(事業者:永坂産業、石橋財団)と共同で都市再生特別地区制度を活用したものだ。特区テーマは「まちに開かれた、芸術・文化拠点の形成」と「街区再編、防災力強化、環境負荷低減」。旧TODA BUILDING(旧名称:新八重洲ビルディング)の解体工事を2019年末にはじめて、2021年8月に建設工事に着工。今年9月に竣工を迎えた。
規模は延床面積約9万4912㎡、敷地面積約6147㎡、地上28階地下3階。東京メトロ「京橋」駅徒歩3分、JR「東京」駅徒歩7分に位置する。
八重洲・日本橋とともに東京の玄関口である京橋は、古くから古美術商や画廊などの集まる「芸術の街」として知られてきた。今回の開発にあたり、戸田建設では「ART POWER KYOBASHI」をコンセプトとしたアート事業を始動。京橋が持つ芸術の歴史を感じられるよう、「TODA BUILDING」の低層部を芸術文化エリアとして、共用空間へのアート展示に取り組む。
1階の中央通りに面する緑豊かな広場は、アート作品とともにワーカーや来街者、地域の人々が安らげる憩い空間とした。広場と合わせて高さ約16mの吹き抜けを有する1階エントランスロビーと2階の回廊では、同社のアート事業「ART POWER KYOBASHI」の一環としてパブリックアートプログラム「APK PUBLIC」を展開。プログラムの第1弾は「螺旋の可能性―無限のチャンスへ」をコンセプトに小野澤峻氏をはじめ、4名の新進アーティストの作品が展示されている。
3階は4軒の現代アートギャラリーが集結するギャラリーコンプレックス。6階はCREATIVE MUSEUM TOKYOで、ソニー・クリエイティブプロダクツ(東京都港区)が運営を担うミュージアム。「作品」や「表現者」、そこに至る「プロセス」を大空間で体感できる場として、アニメ、マンガ、音楽等のポップカルチャーや現代アート、デザインなどの展覧会を年間約4本を展開予定だ。現在は「アニメ『鬼滅の刃』柱展 -そして無限城へ-」が開催されている。
6階のCREATIVE MUSEUM TOKYOを除き、アート展示は誰もが無料で鑑賞可能。「普段あまり美術館に行かない」、「芸術に興味はあるけれど、美術館に行く時間がない」という都心のワーカーも、仕事の合間や休憩時間にふらっとアートを楽しめることが魅力だ。「ART POWER KYOBASHI」では今後、オフィステナントへアート作品を販売・貸出するコーディネート事業も計画。また3階ではアートでつながる新しいコミュニティ形成を目的とする学びの場「APK STUDIES」を開設し、2025年2月にメンバー募集を開始し、6月からプログラムを実施する予定となる。
「TODA BUILDING」のもうひとつの特徴が、老舗建設会社の技術を結集したフラッグシップビルであることだ。
特区テーマの通り、設備面は南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模災害に備えたつくりとした。たとえば躯体には「コアウォール免震構造」を採用。地震終了時の揺れを大幅に軽減するほか、敷地の大部分を免震化することで地震発生時における広場や建物内外の安全性能を高めている。耐震性能は建築基準法が定める基準の1・5倍に相当し、建物の変形が鉄骨造免震の約2分の1程度に抑えられることも特徴だ。この「コアウォール免震構造」は主に中小ビルの建設で活用されている技術であり、高層ビルへの導入は稀。建設会社の本社ビルだからこそ実現した建築ノウハウといえる。
ほかにもコジェネレーションシステムや非常用発電機、空調停止に伴い自然換気ができる「自然換気口」と「エコボイド」を搭載するなど、最新鋭のBCP機能を整備。館内に防災備蓄品をストックし、広場を含めて一時滞在場所としての活用も見込まれている。
こうした性能が評価され、国内の超高層用複合用途ビルで初の「ZEB Ready」に加えて「CASBEE Sランク」の環境認証と「DBJ Green Building」を取得。現在は「LEED GOLD」の取得も目指して準備中だ。
14~27階の高層部は賃貸オフィスフロア。ワンフロアあたり約2387㎡、最小で約238㎡までの分割が可能。成長中の中小企業から大手まであらゆるニーズに対応できるつくりとした。
昨今の「来たくなるオフィス」の傾向もふまえて、共用空間も充実している。28階屋上テラスのほか、13階にはテナント専用の共有空間として、カフェテリア、ラウンジ、計6室の貸し会議室を整備。カフェテリアではバラエティに富んだ健康的なメニューを提供し、ランチタイムからリモートワークまであらゆる場面に対応する。こうした昨今のトレンドを踏まえた多機能性が後押しし、現時点で大手食品会社・味の素をはじめ複数の企業が同ビルへの移転を決めている。
8~12階は戸田建設のオフィス。8階には戸田建設グループのミュージアム「TODA CREATIVE LAB“TODAtte?(トダッテ)”」を開設。戸田建設のこれまでの歩みをパネル形式で展示する「企業文化と継承」ゾーンのほか、建設現場で導入されている素材の見本展示、360度スクリーンのシアタールームの開設など、見て触って学習できる仕掛けを施した。トダッテは取引先のみならず、一般の来場者や地域の子どもにも開けた社会見学の場としての活用も検討中。来年1月に来場受付を開始、同年3月以降の公開に向けて準備を進めているという。
本社の特別応接室やカフェテリアの内装の一部には、昨年7月に包括連携協定を締結した北海道下川町産の木材を採用。同木材の活用により、先月にはゼネコンの本社ビルにおいて国内初となる国際的な森林認証組織の「FSCプロジェクト認証」を取得している。
都心の再開発の画一化が懸念される中で、先進的な技術の集約、環境配慮への意欲的な取り組み、そして用途が分断されず交わりあう複合的な建築物の開発は、地域経済への波及も期待される。
1日に開催された開業記者発表会の中で、代表取締役社長の大谷清介氏は「126年前に京橋に社屋を構えた当社は、この度5代目の新本社屋を誕生させ、新たな一歩を踏み出すことになります。新本社屋の建設は100年に一度の大きな事業であり、先人たちの思いを現代、そして未来の従業員につなげるためにおよそ20年前から計画を進めてまいりました。『TODA BUILDING』は当社のスローガンである『Build the Culture. 人がつくる。人でつくる。』を体現する存在として、多様な価値を生み出し続けるだけではなく、これからの京橋の街とともに新たな文化を創出していきたいと考えています」と意気込んだ。
建築使用木材の安全性担保に尽力
「TODA BUILDING」が取得したFSCプロジェクト認証は、FSCジャパンが定める林産物に関わる認証のこと。環境面や社会面に十分に配慮されていて管理の行き届いた森林を産地とする、安全性の高い林産物の製品が対象となる。10月25日には「TODA BUILDING」にて、北海道下川町やFSCジャパン、認証団体のSGSジャパン等の関係者を交えて授与式を実施。23年7月の北海道下川町との包括連携協定締結に至るまでに、戸田建設では持続可能な林業を実践する自治体の森林資源を活用した木造・木質建築の実現に取り組んできた。現在は森林認証を受けた国産木材の「木材トレーサビリティ」の担保と、デジタル技術を活用して「木の記憶」という付加価値を提案する建築「森を忘れないプロジェクト」に注力しており、森林生態系の再生につながる建設を目指していく構えだ。