不動産トピックス

【12/2号・今週の最終面特集】不動産会社のホテル戦略

2024.12.02 11:22

国際化に対応し多様化するホテルカテゴリー 唯一無二の宿泊体験の提供で差別化
訪日客数はコロナ禍前の水準 旅行消費額は8兆円も視野に
 国を挙げて推進されている観光立国の実現に向け、欠かせない存在となるのが宿泊施設。近年はアッパークラスから低価格帯まで、ホテルカテゴリーのバリエーションが多様化しており、宿泊客のニーズに応えている。不動産各社は盛り返した観光需要の取り込みに、どのように取り組んでいるのか。

「東京ワールドゲート赤坂」に日本初進出ホテルを誘致
 森トラスト(東京都港区)は、米国のホテル運営企業であるSH Hotels&Resortsが展開するホテルブランド「1 Hotels(ワンホテルズ)」を日本で初めて誘致。港区赤坂の大規模複合開発プロジェクト「東京ワールドゲート赤坂」にて、来年秋に「1 Hotel Tokyo」が開業する。
 近年、世界の旅行者の間ではサステナビリティを重視した旅が支持されており、滞在先を選択するための要素となっている。「1 Hotels」は、自然に囲まれた空間で質の高いサービスを提供するラグジュアリー・ライフスタイルホテルで、2015年に米国のマンハッタンとマイアミ・サウスビーチで開業。ホテルは「自然との調和」をコンセプトとしており、デザイン・レイアウト・文化・サービスなど、あらゆるものに自然の美しさを織り込みながらサステナブルな宿泊体験を提供する。その地域ならではの自然素材や地元の食材、文化を取り入れる設計・運営が特徴で、卓越した快適性やサービスを体験できるとして世界中で高い評価を受けている。
 今回、「1 Hotel Tokyo」が開業する「東京ワールドゲート赤坂」は、国家戦略特区における国家戦略都市計画建築物等整備事業として認定を受けた、虎ノ門・赤坂エリアの国際競争力強化を推進する大型複合開発プロジェクト。敷地は港区赤坂2丁目の六本木通りに面しており、敷地面積は約1万3100㎡、延床面積は約20万8000㎡。中核となる「赤坂トラストタワー」は地上43階地下3階。「Next Destination」を街区コンセプトとし、従業員のエンゲージメントの向上に資するオフィスフロアやサービスアパートメントの展開を予定している。加えて、赤坂の地に根差した歴史・文化を発信する施設の開設、大規模緑地の整備などを通じて、ビジネスと観光の両面から世界と日本をつなぐゲートの機能を担う拠点づくりが進められている。本プロジェクトは今年8月に第1期が竣工、来年秋に第2期の竣工を予定している。
 「1 Hotel Tokyo」は「赤坂トラストタワー」の38~43階に位置し、客室数は211室。ホテル内にはレストラン、カフェ、フィットネス、スパなどを備える計画である。エントランスは日本古来の大谷石と植栽を組み合わせた空間を演出するほか、客室内のバスルームでは砂時計を設置してシャワーの使用時間の抑制を促進。水資源の大切さを利用客に意識させる狙いがある。
 森トラストの伊達美和子社長は「2024年の日本はコロナ禍前を上回るペースで訪日客数が伸びており、旅行消費額8兆円が視野に入ってきました。訪日客数も年間6000万人を目指せる水準となっており、日本は観光立国として次のステージへと向かおうとしております」と述べた。そのうえで「1 Hotels」の誘致について、「その土地の自然環境に対するリスペクトがあり、ホスピタリティとサステナブルを高い次元で両立している」と、他にはない唯一無二の商品開発を高く評価した。

新規開業ホテルには移送ロボット 従業員の業務軽減に寄与
 三井不動産(東京都中央区)も、「Otemachi One」の「フォーシーズンズホテル東京大手町」や「東京ミッドタウン八重洲」の「ブルガリ ホテル 東京」と、近年手掛けた大規模再開発においてラグジュアリーホテルの誘致を積極的に展開している。このほか、同社グループでは三井不動産ホテルマネジメント(東京都中央区)が運営する「三井ガーデンホテルズ」を筆頭に、多くのホテルブランドを抱える。直近では、東京・築地で「三井ガーデンホテル銀座築地」が9月に開業した。
 施設は東京メトロ・都営線「東銀座」駅より徒歩3分、「築地」駅より徒歩4分に位置し、周辺には銀座や築地本願寺、築地場外市場といった観光スポットが多数所在し、羽田空港や成田空港へのアクセス性も高い。建物規模は地上14階地下1階で、客室数は183室。館内には大浴場、カフェ、リフレッシュスペース、フィットネスジム、レストラン・バーを有する。
 それぞれの客室は洗濯乾燥機や電子レンジ、冷凍冷蔵庫を完備するほか、ベッド下に収納スペースを確保するなど、連泊にも対応する仕様としている。また、キッチンを設置した客室や開放的な眺望が特徴の客室など、全8種類の客室タイプを用意し、多様な目的での滞在ニーズに応える。内装は優しい色と形で構成され、ストレスがなく、飽きのこない明るいデザインを採用。共用部のグリーンとつながりを感じさせる木調の家具や、伝統工芸品の有松絞をまとったランプシェード、フラワーアートなどによって安らぎの時間を提供する。
 「三井ガーデンホテル銀座築地」では先進的な取り組みとして、ミライト・ワン(東京都江東区)が提供するエレベーター連携の配送ロボットが導入されている。このロボットは客室へのアメニティ配送業務や、館内レストランからの飲食物の配送業務が想定されており、従業員の業務軽減や宿泊客の利便性向上に貢献するとしている。

地域への貢献目的に開発用地取得を加速
 コンサルティング型デベロッパーとファンドマネジメントの機能を融合した独自のビジネスモデルを構築している霞ヶ関キャピタル(東京都千代田区)は、観光需要への対応や地域創生への貢献を目的としたホテル事業を推進している。先月は山梨県富士河口湖町や大阪市中央区で、同社グループが展開するホテルブランドの開発用地取得を発表した。
 同社のビジネスモデルは、開発用地を取得後に最適な企画をプランニングし、開発ファンド投資家に売却する。開発フェーズに入ると同社はプロジェクトマネジメントに携わりつつ、ファンドマネージャーとして資産運用も同時に行う。建物の完成後は開発ファンド投資家からコアファンド投資家に不動産が売却され、同社に成果報酬が支払われるという仕組み。その後も同社はアセットマネジメントを行うことで、継続的に不動産の価値向上に努める。直近で取得した富士河口湖や大阪・本町のほかにも、北海道から九州・沖縄まで同社は全国各地でホテル開発を計画中であり、今後も動向が注目される。




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