不動産トピックス

【12/9号・今週の最終面特集】不動産事業者注目 スタートアップ対象のサービス

2024.12.09 11:08

起業家の需要想定しプラン選択可能 オフィス開設のハードル下げる家賃保証や起業支援
スタートアップ限定の家賃保証1年で利用企業100社目指す
 スタートアップの成長支援や移転サポートなど、彼らを対象としたサービスが不動産業界およびビル業界で浸透している。一方まだまだ不十分と感じる企業もおり、潜在的ニーズを踏まえて新規参入する企業も多い。彼らを対象とした新しいサービスを中心に、近況も踏まえてまとめた。

資金や信用力が乏しくオフィスが借りづらい
 事業用の家賃保証や企業向け与信管理クラウドサービスを提供しているアラームボックス(東京都新宿区)は、業界初となるスタートアップ限定の家賃保証サービスを12月2日から開始した。
 同社は与信管理業務を効率化させるクラウドサービス「アラームボックス」を提供してきた。企業の信用調査や反社チェックなどに活用され、与信精度向上や業務負荷削減に貢献してきた。この与信管理・企業調査と並行して需要の伸びているサービスが同社の「ビジネス家賃保証」。オフィスや店舗などの事業用物件専門の家賃保証で、連帯保証人は不要。保証内容は月額賃料等の24カ月分と弁護士・訴訟費用100万円まで。月額賃料や共益費・管理費に加えて、原状回復費用、残置物撤去費用、保管費用、更新料なども含まれる。
 審査承認率は90%以上と高く、規模・業種・設立年数を問わず幅広く対応している。賃料等50万円以下、設立1年以上の実績があれば決算書なども不要。必要提出書類の負担軽減に協力し、また賃貸保証委託申込書や事業計画書、賃貸人変更通知書などの各種書類をHPからダウンロードできる点も特徴だ。記入例を閲覧しながら記載することも可能で、ペーパーレス等にも貢献する。
 スタートアップ限定のサービスを開始したきっかけは、不動産業界の現状がある。2022年に政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定。政府・金融機関をはじめ多くの組織でスタートアップ支援策が講じられ、国内全体で応援する機運が高まってきた。しかしスタートアップやベンチャー企業等は実績・資金が乏しく、信用力も低いためオフィスを借りづらい。代表者保証の要求や高額な初期費用も加わり、オフィス入居までのハードルの高さも課題であった。一方オーナー側もスタートアップ等の移転ニーズに応えたい思いはあるが、家賃滞納リスクから積極的な姿勢になりづらい点もある。

カード決済のニーズ対応 決済専用端末も必要なし
 これら課題を見据えて、同社はスタートアップ企業専用のプランをつくった。条件は「設立10年以内」と「ベンチャーキャピタル等より出資を得ている法人(株式会社)」の2つ。賃借人は代表者保証・連帯保証人が不要で、初回保証委託料も不要となる。初期費用を削減できるため、入居時のハードルを下げることができる。また保証料や賃料等をカード決済でき、銀行での手続きも解消された。カード払いをすることでポイントを得られる点も特徴だ。
 一方オーナーや不動産会社にとっては、家賃管理が不要のため業務効率化に繋がる。「家賃をカード払いしたい」というニーズに応えられ、決済専用端末等が不要のためすぐに導入できる。また同社が毎月28日に賃借人に代わり、確実に家賃を入金するため回収漏れも発生しない。万全の入居審査で良質な企業を確保できる点も大きい。保証物件はビジネス家賃保証と同じで、オフィス、店舗、倉庫、工場、賃地。保証内容や保証限度額にも違いは少ない。ちなみに月額保証料は毎月賃料等の3・3%(別途送金手数料550円)となっている。
 代表取締役CEOの武田浩和氏は「スタートアップの与信は過去の決算書だけでは測れません。スタートアップの成長を測る指標や評判、VCからの企業価値評価などを総合的に判断し与信する必要があります。当社には個人事業主を含む2万社以上の保証実績と企業調査サービスで培ったデータベースとノウハウがあるため、スタートアップの適切な与信評価が可能です。これにより、しっかりと入居審査をした上で保証もつくためオーナーにとって安心です。また、カード決済が可能になることで、スタートアップには経理業務の効率化のメリットがあります。オーナーとスタートアップの双方にメリットがある本取り組みを、不動産会社などの協力企業も募りながら進めていきたいと考えています」と語った。同社はまずこの1年で、100件の利用企業・利用数を目指す。

 1棟収益不動産の売買を得意としているアジリティアンドアセット(東京都江戸川区)は、12月5日から「東京都内シェアオフィスの賃貸仲介業」を新たなチャンネルとして開始。主にスタートアップ企業向けの起業支援に取り組む。
 同賃貸仲介業は、個人事業主・小規模事業者などの起業における事務所設立やワークスペースの確保に対してのサポートサービス。企業規模や業務の進め方、希望エリアなどを同社がヒアリングし、フレキシブルな動きを可能とするプランを提案する。
 サービス事例としては「ROOM(個室)プラン」。24時間365日利用でき、住所登記やポスト利用が可能。利用人数に応じて、1~5名の個室のプランである。また「コワーキングプラン」は7~23時まで、かつ365日ラウンジ席を利用できるプランだ。対して「コワーキング24時間プラン」はその名の通り、コワーキングスペースを24時間365日利用できる。これら選択肢を提供することで、より多くのスタートアップ企業の立ち上げ市場の拡大を図る。
 現在国内における企業の開業数は、欧米諸国と比較すると依然として少ない状況にある。2022年度版「中小企業白書(出典:中小企業庁)」によると、日本の開業率は約5%。諸外国の場合、およそ9~11%。単にコロナ等の影響だけでなく、起業に対する意識のハードルの高さが影響していると考えられる。アジリティアンドアセットは今回のスタートアップ起業支援サービスを実施することでオフィス設立に関する包括的なサポートを実現でき、かつ不動産業で培った専門知識と情報力を生かして、起業家のニーズに合わせた物件紹介や事務所設立の支援を強みに展開できる。単なる物件紹介にとどまらず、起業家の成功を後押しするオフィス環境の構築を目指す。

東京都の企業対象 補助金サポート拡充
 補助金クラウドを運営するStayway(大阪市中央区)は事業拡大を検討する東京都の企業に向けて補助金サポートを大幅に拡充・強化する。
 昨今、中小企業のデジタル化や事業拡大を支援する補助金が注目を集めている。設備投資やデジタル化支援、脱炭素推進に関する補助金は、多くの事業者にとって事業拡大の強力な後押しとなってきた。2025年度も国や地方自治体から幅広い分野で活用可能な補助金が公募される見込みだ。一方多くの補助金がある中で、どの補助金が自社に最適なのかを見極めることは容易でない。
 同社は金融機関や事業会社のための補助金申請DXサービス「補助金クラウド」を提供している。国や自治体ごとに散在している複雑な補助金等の情報を収集・一元化し、各企業のニーズに合わせた情報提供を実施。データ・テクノロジーを活用した可視化・分析・効率化などを行っている。セミナー等も開催しており、公募が盛んな東京都の補助金の中から2025年度注目される補助金について詳しく解説している。スタートアップ向けとしては「創業助成金」がある。創業助成事業は都内で創業を予定している人や創業から5年未満の中小企業等を対象に、創業初期に必要な経費の一部を助成する制度。対象経費が広告費や賃借料も含まれ、汎用的なため注目度は高い。創業助成金を含め、これら補助金・助成金のサポートを強化していく。




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