不動産トピックス

今週の一冊

2025.02.17 11:23

至高の近代建築 明治・大正・昭和 人と建物の物語

著者:小川 格
出版:新潮社
発行:2025年2月20日
価格:968円(税込)

 日本の近代建築は、幕末期から明治維新を経て終戦の1945年までを前期、それ以降を後期に分類する。本書は前期の近代建築の代表物件を取り上げ、当時の情勢や設計に携わった者の思いを紹介する。
 前期近代建築で強い存在感を放っているのが「東京」駅だ。「新橋」駅と「上野」駅を新線で結びその中間点に中央停車場として開業したのが1914年(大正3年)。設計は日本の近代建築の父と呼ばれる辰野金吾、氏と建築設計事務所を共同経営した葛西萬司が担当した。「東京」駅の設計や意匠についてのこだわりは広く知られているためここでは割愛するが、辰野は1886年(明治19年)に日本建築学会を設立。日本近代建築史で非常に強い影響力を持っていた人物であり、生前には日本銀行本店、「東京」駅、国会議事堂を設計したいという野心を公言していたという。実際に辰野は日本銀行本店と「東京」駅の設計を担当することになる。
 そして国会議事堂の建設にあたっては、官公庁の庁舎設計で実績のあった別の建築家への依頼が決まりかけていたところ、辰野の鶴の一声で一般公募によるコンペに方針を転換。彼は審査委員長として携わり、公募により決定した設計に自身の思いを投影しようと考えただろう。だがその最中、辰野はスペイン風邪をこじらせこの世を去ってしまった。
 建物には見た目の美しさもさることながら、建築や設計に関わった人物の物語も見え隠れする。辰野金吾をはじめ、当時の日本で活躍した建築士たちの物語に触れることができる一冊だ。




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