不動産トピックス

【3/3号・今週の最終面特集】快適で安全な建物づくり最前線

2025.03.03 10:55

建物の特性に合った提案でコストを抑えて付加価値向上
 東京都では本年4月より、延べ面積2000㎡未満の新築建物を対象に、太陽光発電設備の設置などを義務化する「建築物環境報告書制度」がスタートする。建物の快適性や安全性がこれまで以上に求められるなか、既存物件ではどのような取り組みによって快適や安全安心を提供することができるのだろうか。

産業用ドローンで外壁の状況を診断
 建物の外壁は日夜風雨にさらされ、最も劣化の進行が早いとされる。外壁タイルに亀裂や浮きが発生している場合、その箇所から雨水が浸入し雨漏りや構造部分の劣化を早めてしまうほか、タイルの落下事故が起きてしまえばオーナーは所有者責任を問われることにもなってしまう。そのため建物外壁は定期的な診断調査の実施が求められる一方で、診断調査には足場を組む必要などがあり多額のコストを要してしまう。住宅のフロアコーティングで快適な住まい環境を提案するジェブ(横浜市都筑区)では、産業用ドローンを用いた外壁赤外線調査「EP-InspectDrone」を開発。ビルやマンションの正確な外壁診断調査の提案を行っている。
 外壁の診断調査は、高層建築物であれば仮設足場の設置やゴンドラの使用による打診調査、中低層の建築物であればロープブランコを用いての打診調査が従来は一般的であった。これらの方法による診断品質は、調査を行う作業員の経験や技能に依存する向きが強かった。しかし、赤外線カメラによる調査はタイルの浮きを外壁の表面温度で可視化することで、作業員の技能に依存することなく高い診断精度を実現する。また、仮設足場などの事前準備は不要で大幅のコストカットにも貢献。営業部課長の佐伯優太氏は「仮設足場を設置しての診断と比べ、ドローンによる診断調査はコストを3分の1程度に抑えることが可能です」と、その優位性を語る。
 建築や土木の領域を中心に、産業用ドローンの活用は年々広がりを見せている。産業用ドローンを用いた点検ビジネスの市場規模は昨年度の時点でおよそ1000億円。3年後には市場規模は2倍にまで拡大すると見られている。佐伯氏は「ドローンは、飛行が気象条件に左右されやすい点や、飛行不可な場所があるなど、弱点もあります。建物のロケーションや外壁の状況に応じて、ドローン診断と従来の打診診断を使い分けることで、コストを下げつつも正確な診断調査を実現することができます」と話す。建物の顔となる外壁の安全と美観を維持するためにも、同社のドローン調査を活用したいところだ。

雨漏り・漏水診断調査 画期的な成果報酬型
 A2G(神奈川県厚木市)では、「雨漏り調査・修繕 けんおうリノベーション」のブランド名で建物の雨漏り・漏水調査や修繕を行っている。最大の特徴は、成果報酬型の雨漏り調査を提供している点である。
 雨漏りは入居者の生活や事業活動に支障を及ぼし、資産価値を大きく低下させる要因となるばかりか、放置すれば深刻な被害へと発展してしまう恐れがある。同社では成果報酬型の雨漏り調査を提案し、施主側のコスト負担の軽減に努めている。従来の調査では、調査にかかる費用が高額だったり、仮設足場を設置することによってコストがさらに増加するなどのリスクがあり、また原因が特定できなかったとしても調査費用が発生するといった課題があった。一方で同社はロープ高所作業資格を持つ専門スタッフが足場不要で調査を実施し、事前見積もり金額以上の請求はなく、原因を特定できなければ調査費用は不要としている。調査は、7色に発光する調査液「レインボービュー」と紫外線照射器を用いて、雨漏り箇所や浸入原因を特定する「レインボービューシステム」を採用し、高精度な調査を実現している。
 地上8階建ての自社ビルを所有する企業の調査事例では、7階部分の雨漏りが深刻で、電子機器類を設置している部屋に水たまりが発生するほどの被害を受けていた。当初は大手建設会社に修繕の依頼をしたところ、「屋上全体を修繕しなければならない」との診断を受け、工事にかかる見積もり金額は数千万円にのぼるものであった。その後、施主は同社に調査を依頼。ロープアクセス工法を用いて屋上からロープで降下し、専門スタッフが調査を実施することで、1日で高層階対応の調査を行い、3カ所の雨漏り箇所を特定。調査結果に基づいて適切な修繕工事が実施された。一連の調査・修繕の費用は40万円台で、当初の大手建設会社が提出した数千万円規模の見積もりから大幅なコスト削減を実現した。

外壁材の改修工事時の課題解決に向け2社が連携
 三晃金属工業(東京都港区)と日鉄物産(東京都中央区)は、屋根や外壁などの金属製の外装材の改修工事に関する課題解決を目的に、三晃金属工業が提供するサポートプログラム「みまもりプログラム」と日鉄物産が提供する屋根・外装材の計測から見積もりまでを一貫して行うプラットフォームソフト「Dommit(ドミット)」および建物の安全性を確認する「構造確認サービス」を連携させた取り組みを強化する。
 三晃金属工業の「みまもりプログラム」は、屋根・外壁の調査から診断、アフターサポートまでを行うもので、老朽化した建物のリニューアルや断熱性向上などを実現する改修事業を推進している。一方、調査において担当者が屋根上で作業を行うことの危険性や、目視での調査に多くの時間を要するといった課題があった。
 日鉄物産は、金属製の外装材の改修工事に対応した板金工事業者向けのプラットフォームとして「Dommit」を2023年5月に開発。建築板金工事に携わる技能者の確保難や高齢化が進むなか、ドローンで撮影した画像データを活用し、施工に必要な材料の選定から積算・見積もりまで一貫し、簡略化できる新たなデジタルツールとして提供している。今回の連携によって、安全性の確保に加え現場調査や見積もり作業の効率化を推進し、見積件数と受注件数の増加を目指す。


新築分野の最前線
環境性能高い住宅を積極的に供給
「東京エコビルダーズアワード」主要4部門受賞
 葛飾区、江戸川区、足立区を中心に住宅の設計・建築・販売を展開しているセイズ(東京都葛飾区)は、先月14日に発表された令和6年度「東京エコビルダーズアワード」で、主要4部門を2年連続で受賞した。受賞した4部門は「ハイスタンダード賞」(断熱・省エネ性能部門、再エネ設備設置量部門)と、「リーディングカンパニー賞」(断熱・省エネ性能部門、再エネ設備設置量部門)。
 「東京エコビルダーズアワード」は、住宅の高断熱化や太陽光パネルの設置など、環境性能の高い建築物の普及に意欲的に取り組んでいる先進的な事業者を表彰するもの。東京都が2021年に表明した、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減する目標「カーボンハーフ」の実現に向けて、都民や事業者の理解促進と脱炭素化に向けた意識の醸成を図ることを目的としている。
 セイズは、建売住宅において太陽光発電システムを標準で設置し、クリーンで再生可能なエネルギーを確保するほか、高断熱・高気密・高耐震を実現するSW(スーパーウォール)工法の施工棟数が8年連続で全国トップとなっている。また、光熱費やエアコンの買換えコストなどのランニングコストが住まいの条件によって変化することを踏まえ、電気料金の削減など、投資回収期間が短く経済的な利点があることをシミュレーションしながら顧客に説明し、引き渡し後は施主の協力のもと光熱費データを定期的に集計。このデータをもとに住宅性能の向上に努め、環境性能について顧客へ訴求する取り組みを行っている。
 先月18日に東京都庁で行われた表彰式では、小池百合子知事から賞状とトロフィーが授与された。小池知事は「電気代を抑えることのできる快適な住宅は、都民の暮らしを守る上で非常に重要です。また、東京全体のCO2排出量の約70%が建物に起因していることや、現状の高騰する電気代といった現実を踏まえると、このような住宅の普及が急務であるといえます。また、自然の力を最大限に取り入れることは、停電時や自然災害への対策としても大いに意義があります」と述べている。




週刊不動産経営編集部  YouTube