不動産トピックス
【3/24号・今週の最終面特集】経営課題の解決へ ビルメンテナンス会社の挑戦

2025.03.24 10:37
先進技術の活用の活用で労働力減少に対応 消費者・労働者の境界はあいまいになる傾向
業界全体は堅調に成長 現場作業員の確保に課題
ヒトとAI・ロボットが協働するFMDX 業務効率化・省人化で管理コストの削減図る
人手不足の問題は日本のあらゆる産業に影響を与えている。とりわけ労働集約型の産業とされるビルメンテナンス業界では、各社が課題の解消に向け様々な取り組みを行っている。
管理業務のDX化を推進 外国人材の積極活用も
全国ビルメンテナンス協会(東京都荒川区)は今月3日、2024年9~11月に実施した「第55回実態調査」の結果をまとめた「ビルメンテナンス情報年鑑2025」を公開した。これによれば、2024年度の売上高見通し(対前年度比)は、全体では「4%以上」と回答した企業が40・2%と最多となり、ビルメンテナンス業界全体で堅調な成長を続けていることが見てとれる。一方で、事業環境の面では人手不足が大きな課題となっており、悩みごととして「現場従業員が集まりにくい」と回答した企業が89・5%で最多となった。各業界で人手不足に悩む企業が多い中、ビルメンテナンス業界ではどのような取り組みでこうした課題の克服に乗り出しているのだろうか。
企業ブランドとして「戦略FMパートナー」を掲げるグローブシップ(東京都港区)では、ロボットやAI技術を活用した業務におけるDX化を早くから推進してきた。同社の取り組みは、昨年11月に開催された「第8回お取引先セミナー」でも紹介されている。このセミナーでは、リクルート(東京都千代田区)の内部組織・リクルートワークス研究所の主任研究員、古屋星斗氏が「人手不足がもたらす『令和の転換点』」と題して講演を行い、その後、人手不足社会に対応するグローブシップの取り組みが紹介された。
直近では大手企業を中心に新卒採用の求人数は大きく増加、また中途採用の増加も目立っており、即戦力となる人材への需要が高まっている。日本では少子高齢化が今もなお続いており、2040年まで唯一人口増が予測されているのが85歳以上の高齢者である。労働力の減少は今後も続き、労働需要に対する供給量は、その差が広がっていくものと見られる。限られた労働力は高齢者を支える医療・介護の分野から優先的に投入され、人手不足を起因として企業の成長を阻害する労働供給制約の状況が加速する可能性がある。
古屋氏は、労働供給制約下においては消費者・労働者の境目があいまいになり、単なる消費者の立場ではいられなくなると予測する。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで導入されているセルフレジなども、その一例といえよう。また最先端技術を活用して、稀少になる人の仕事のあり方を変えることに世界的なビジネスニーズがあるとした。
グローブシップでは、2022年に従前のロボットFM開発部とFMグローバル事業部を統合し、FMDX開発事業部を開設。業務のDX化のさらなる推進に努めている。清掃業務では清掃ロボットの導入による省人化、設備管理業務ではAIクラウドソフトの導入による効率化や動画マニュアルの整備による社内の効率化などを展開している。
人材の確保の面では、SNSの活用で採用のアプローチの多様化に対応するほか、インターンシップ制度の充実などで積極的な新卒採用を実施。外国人の積極採用も展開するとともに環境整備にも力を入れることで、将来にわたっての外国人人材の高度化を目指している。2024年は外国人技能実習生が合計32名入社。本年もおよそ30名の技能実習生の入社を予定しているという。日本国内での外国人材の受け入れ制度としては、技能実習制度に代わり育成就労制度が2027年ごろの施行を予定している。グローブシップでは、優秀な外国人従業員に対してのさらなる活躍を目指すキャリアアッププランの構築、サポート役となるチューター(指導員)を国籍別に配置することによるサポート体制の充実、日本語教育や各種試験対応への実技・学科サポートや福利厚生の充実による会社への帰属意識の向上に注力し、今後ますます重要さを増すであろう外国人人材の高度化に努めている。
設備管理に特化したクラウドアプリ 現場の業務効率化を実現
センシンロボティクス(東京都品川区)が提供する設備管理アプリケーション「ゲンコネ」が、総合ビルメンテナンス業の宮ビルサービス(栃木県宇都宮市)に導入された。
「ゲンコネ」は設備管理業務に特化したクラウドアプリケーションで、施設や設備に関する情報を効率的に管理・共有することを可能にする。図面や写真を活用して現場の最新状況を共有できるため、現場の状況を的確に把握し、現場への往訪を最小限にすることができる。また、関係者全員とリアルタイムで現場の状況を共有でき、施設や設備管理業務の効率化に寄与する。
宮ビルサービスは、オフィス、店舗、工場、公共施設など、様々な施設の管理業務を手掛けている。現在、「ゲンコネ」は同社の取引先である大型施設80カ所の設備管理業務で導入されている。従来は設備の不具合や確認事項が発生した際、現場と本部間でメールや電話による確認を実施。そのため、本来の業務に遅れが生じることに加えて、対応方法やタスク管理が属人化していた。また、現場の状況を正確に把握することが難しく、その都度現場へ向かわなければならず対応に時間を要していた。「ゲンコネ」の導入後は、スマートフォンなどで概要を撮影画像とともに入力することで情報共有が容易となったほか、各担当者は入力された課題一覧を確認でき、電話やメールのやり取りが削減され、業務効率化につながったとしている。
名古屋市内に新研修施設 育成期間の短縮目指す 日本空調サービス
建物設備の保守・維持管理を手掛ける日本空調サービス(名古屋市名東区)は、ビルメンテナンスに関わる研修施設を名古屋市南区に完成させ、4月より運用を開始する。
2025年は、いわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者となり、人手不足がさらに深刻化することが懸念されている。ビルメンテナンス業界では「現場従業員が集まりにくい」や「現場従業員の若返りが図りにくい」といった課題が各企業に存在し、中でも現場従業員の若返りは喫緊の課題となっている。同社は技術者の育成や技術力向上を経営の重要課題と位置づけ、そのアプローチの1つとしてビルメンテナンスに関わる大型研修施設を設立。AIなどに置き換えることのできない技術や経験を必要とする業務は依然重要であり、空調設備を中心とした様々な設備を実機で学ぶことによって、未経験からでも早期に戦力となれる人材を育成する。また従業員一人ひとりの技術力向上や人材育成を通じた労働力不足の解消、業界全体の技術力底上げを目指す。
完成した「技術・研修センター」は名鉄常滑線「大江」駅より徒歩6分の名古屋市南区港東通に位置し、建物規模は地上5階建て。空調設備のほか、衛生設備、消防設備などの実技研修を行うことができる。新入社員はこれまで、約1週間の日程で新入社員研修を実施し、各拠点に配属後は拠点ごとに実施された定期的な技術研修や先輩社員がインストラクターとなる現場でのOJT指導などを通じて、技術力向上に努めてきた。4月からは全国各地の新入社員を同施設に集合させ、1カ月間の集中的な研修を実施する。実際の現場環境を再現した実機研修を充実させ、基礎的な技術力を習得した状態での現場配属を目指す。研修後も同施設を活用した定期的な研修とインストラクターによる現場でのOJT指導を継続することで、技術者として一人前になる期間を1~2年ほど短縮することが可能としている。